彩の国さいたま芸術劇場の近藤良平芸術監督による新しいシアターグループ、カンパニー・グランデが、3月13日から16日にワーク・イン・プログレス公演を行う。カンパニー・グランデは、年齢や性別、国籍、障がいの有無、プロ・アマなどの垣根を超えて、さまざまな創造性を持った人々が集い、そこから生まれる表現を探求することを目指すカンパニー。約120名のメンバーは、多彩な講師陣のもと6月から12月まで、スタジオワークを重ねてきた。3月のワーク・イン・プログレス公演では、「花にまつわる考察」をタイトルに掲げた成果発表を行う。
ステージナタリーでは、その稽古の様子をレポートするほか、参加者の6名に公演に向けた思いを聞いた。さらに後半は、カンパニー・グランデの講師で、ワーク・イン・プログレス公演のクリエーション・チームに名を連ねる今井朋彦、内橋和久、川口隆夫、川村亘平斎、島崎麻美、武徹太郎、目黒陽介、森洋久、DJみそしるとMCごはんのメッセージを掲載している。
取材・文 / 熊井玲撮影 / おにまるさきほ
年齢や性別、国籍、障がいの有無、プロ・アマなどの垣根を超えて、さまざまな創造性を持った人々が集い、そこから生まれる表現を探求することを目指すカンパニー。昨年5月から6月にかけてメンバー募集が行われ、応募総数832名より、16歳から83歳までの120名が選出された。
メンバーは6月から舞台芸術を軸にしたスタジオワークに参加。言葉、音、身体、影、美術など、日常の中にあるさまざま事象に対し感性を磨いていくワークを重ねてきた。そして12月には120名の参加者が一堂に会し、スタジオワークをシェアする時間(参照:近藤良平率いるカンパニー・グランデがワークの成果をシェア、3月にWIP公演も)が設けられた。
3月のワーク・イン・プログレス公演では、それをさらに発展させ、観客の前に立つ。なおワーク・イン・プログレス公演は彩の国さいたま芸術劇場 小ホールにて行われる。
ステージナタリーでは2月上旬に行われたワークの様子を取材。この日は、前半に島崎麻美、後半に目黒陽介を中心としたワークが展開した。
島崎麻美は自身の身体と向き合うワーク
2月上旬、彩の国さいたま芸術劇場の稽古場を訪れると、アクティングエリアいっぱいに広がった20~30名程度のカンパニー・グランデメンバーの間を、島崎が縫うようにして歩きながら、動きの説明とタイミングの確認を行なっていた。
「目線の先にいる相手のオーラを感じたら微笑んで……その後、おへそから太陽が上がるように開いて、そうしたら今度は開いたつぼみが萎むように小さくなって……」
島崎の声に従い、メンバーはお腹を中心に伸び上がり、伸び切ったところで今度は縮こまるという動きを繰り返した。メンバーには、背が高く体格の良い男性もいれば、小柄な年配の女性もいたり、周囲の動きを見ながら身体を動かしている人や、見るからにダンス経験がありそうなキレのある動きの人がいたりとさまざまで、中にはオレンジ色のバンダナをつけたサポートメンバーと共に身体を動かす参加者の姿も見える。島崎はメンバーそれぞれの様子を見渡しながら、自らも動いて見せた。
その動きがどういう流れにあるものかは、冒頭シーンからつなげた稽古が始まって、すぐわかった。マリア・カラスの歌声が流れる中、メンバーは床に寝そべり、やがてゆっくりと腕を伸ばしたり、片膝を立てたりと、それぞれのペースで身体を起こし始める。身体を捻りながら立ち上がる者、斜めに伸び上がるように立ち上がる者、なかなか真っ直ぐに立たない者……。ようやく全員が直立したところで、今度は小さな“凪ぎ”が始まった。それぞれの場所、それぞれの向きでゆらゆらと身体を揺らすその様は、まさに草が風になびいているようだ。そして先ほどの“開いて、萎む”のシーン。その後、縮こまった身体は再びすっくと立ち上がり、やがて思い思いのステップとスピードで、辺りを駆け回り始める。ゆっくりとしたペースで小さなステップを踏む人がいたり、歓喜の叫びをあげて飛び跳ねる人がいたり、それぞれの仕方でエネルギーが放出された。
一連のシーンが終わると、それまで稽古場の一角で稽古を見ていた近藤が、島崎のそばに近寄って二言三言、やり取りを交わし、島崎もうなずきながら聞いていた。そしてもう一度同じシーンを繰り返す段になったとき、近藤が島崎に、「公園の音を使ってみても良いかな」と尋ねて、今度は歌やメロディがない、ただ子供の声や風の音が入った環境音を使って、“地面から起き上がり、開き、萎み、動き出す”までの流れが繰り返された。
マリア・カラスの歌声で伸び上がっていくときは、例えば花壇のチューリップのような存在感ある“草花”に見えたのに対し、環境音を用いると公園の片隅に咲いているたんぽぽや雑草といったように見え方がガラッと変わり、その変化は、メンバーの多様さが特徴であるカンパニー・グランデの強みと重なって、印象深く感じられた。
島崎チームの後半は、造花を用いたシーンの稽古が行われた。しっとりとしたトーンで始まる中納良恵「あなたを」のメロディに乗せて、メンバーたちは花がばら撒かれたアクティングエリアをゆっくりと歩き回り、目の前に落ちている花を1つずつ拾い上げる。そしてアクティングエリア中央に立っているメンバーの1人に、その花を一輪、また一輪と渡していく。最初一輪だった花は、いつしか持ちきれないほどの花束となり、曲が高まったところで花束はわっと宙に放り投げられて、大きなフラワーシャワーとなった。実はこのシーン、12月にも披露されており、非常に美しく印象的だったが、稽古場で見てもその感動は変わらなかった。
そのシーンを見ている間、近藤は小さなホワイトボードに何かを書きつけていた。演出メモを取っているのかな、と思ったが、置かれたホワイトボードに描かれていたのは、文字ではなく葉が茂った樹のようなラフな線画で、それは今出来上がった“花束”の様子とよく似ていた。
目黒陽介は“重心”を意識したワーク
夕方からは目黒陽介を中心としたチームが、ワークを行った。目黒のチームは島崎チームに比べると比較的男性が多く、年齢層も幅広い印象を受けた。目黒は「3月のワーク・イン・プログレス公演では、基本的には12月にやったものをベースにしていきたいと思います。が、今日は特に決め込まず、やっていきます」と話し、まずはジャグリングがどういうものかを、ボールを使ってサッと実演してみせた。そして「見ていただいてわかる通り、重心を取るのが大事で、ボールに合わせて重心を変えていくんですね。今回、皆さんにジャグリングをやってもらうわけではないですが、重心について考えみようと思います」と説明して、1メートル程度の細い筒をメンバーに配り、その筒を掌に乗せてバランスを取るワークがまずは行われた。
筒を掌に乗せて、微動だに“しないようにしている”メンバー、筒の傾きに合わせて身体ごと前後左右に動いているメンバー、一向に筒が立ってくれないメンバーなど、それぞれが苦戦する中、目黒は「筒の下のほうを見ているとバランスが取りにくいので、筒の上のほうを見ると良いですよ」とアドバイスする。それによって多くのメンバーの筒が倒れにくくなったものの、目黒のように長時間自立させることはなかなかできないようだ。と、メンバーと一緒にワークに参加していた近藤が「やってみるとよりわかるから」と筒を貸してくれたので、筆者もその場で実践してみることに。自分自身の手や身体を“動かさない”ように意識すると筒が倒れやすくなるが、筒に意識を集中させて、筒に身体を沿わせるように意識すると、バランスが安定するように感じられた。
目黒は「バランスを取るとき、身体は実は止まっているわけではなく、重心を真ん中に戻し続けるように常に動いているんです」と説明し、さらに筒に接している掌ではなく、掌からより遠い部分でバランスを取るように意識すると良いと話した。
続けて、紐が括られた拳大の石を使ったワークに。「石を動かさないように、かつ紐がぴんと張った状態のまま、寝転んだり回転したり、なるべくたくさんの身体の部位を使って自由に動いてください」と目黒がメンバーに声をかけると、石を中心点にしてメンバーがさまざまな弧を描き始めた。目黒の「良いですね、すごく面白い」という言葉に、メンバーはより生き生きと動き始め、一緒に実践していた近藤も「全身運動になるね(笑)」と笑顔を見せた。
その後、リングを使って2人1組で引き合うワークも。最初は目黒とスタッフが、一方が“動かす”役、もう一方は“動かされる”役となって手本を見せた。“動かされる”役は、“動かす”役の指示に合わせてゴロゴロと回転したり、身を起こしたり、なされるがままになる。が、いざメンバー同士でやると、手本のようにスムーズな“なされるがまま”状態にはなかなかならない。目黒いわく、“動かされる”側自身も重心を移動させる意識を持たないと心地よく動けないそうで、実はこのワークでは、重心移動とお互いの協力関係が大事なのだと明かした。そのコツを得てから、メンバーの動きは少しスムーズになった。さらにしばらくすると、肩が上がりづらいと言う年配メンバーには相手役がリングを持ち上げる高さや角度を調節したり、身体がよく動くメンバーは“動かされる”役のときにも自ら新しい動きに挑戦してみたりと、メンバーごとにさまざまなチャレンジをしている姿が見られた。目黒はメンバーの間を練り歩き、身体のどこを意識すると良いかなど声をかけながら、楽しげにワークを進めていった。
ワーク・イン・プログレス公演に向け、挑戦は続く
ワーク・イン・プログレス公演「花にまつわる考察」に向け、カンパニー・グランデのメンバーは現在、このようにチームに分かれてのワークを重ねている。12月の発表内容を踏襲するチームもありつつ、メンバーの入れ替わりも多少あるので、メンバーにとっても、また講師を務めるアーティストにとっても新たなチャレンジを続けていることは間違いない。「花にまつわる考察」と冠されたこのワーク・イン・プログレス公演で、それぞれがどのような表現の花を咲かせるのか、挑戦は続く。
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メンバーが語る、カンパニー・グランデ