THE BACK HORN「親愛なるあなたへ」インタビュー|飽くなき挑戦心が生んだ新たなバンド像

THE BACK HORNがニューアルバム「親愛なるあなたへ」をリリースした。

昨年3月に開催したワンマンライブ「THE BACK HORN 25th Anniversary『KYO-MEI SPECIAL LIVE』~共命祝祭~」をもって結成25周年イヤーを駆け抜けたあとも、立ち止まることなく“光と影”シリーズと銘打ってシングル「修羅場」「ジャンクワーカー」「タイムラプス」「光とシナジー」を配信リリースしてきたTHE BACK HORN。精力的な活動を経て完成したアルバムは、これまで以上に多彩な音楽性を詰め込んだ意欲作に仕上がっている。音楽ナタリーでは、“光と影”シリーズの振り返りからアルバムの各楽曲に込めた思いまで、たっぷり1万字超のテキストで制作秘話をお届けする。

取材・文 / 丸澤嘉明撮影 / 池村隆司

“光と闇”ではなく“光と影”

──まずは、結成25周年イヤーの集大成として行われた神奈川・パシフィコ横浜公演「THE BACK HORN 25th Anniversary『KYO-MEI SPECIAL LIVE』~共命祝祭~」のお話から伺えればと思います。映像演出もあって、アニバーサリーの締めくくりにふさわしいライブでしたね(参照:THE BACK HORN、初のパシフィコで新たな試みも!25周年を共に祝い、その先へ)。

松田晋二(Dr) 映像作家のQ昆さんと一緒に作り上げた映像を使って、楽曲の世界観のより深いところまでシンクロしたものを届けられたと思います。25周年という祝祭の中でそういう映像を含めた新たな演出ができた手応えもありましたし、お客さんが“THE BACK HORN愛”をすごく届けてくれたのも感じられました。

──特に「コワレモノ」で流れた映像がすごかったです。説明が難しい4体のファニーかつシュールな生命体に度肝を抜かれました。

菅波栄純(G) あれはすごかったですよね。うちらは“コワレモノ”って呼んでいて。

岡峰光舟(B) お客さんからの反響もあり、アクリルスタンドなどのグッズにまで昇華されましたからね。一応4人それぞれのモチーフがあるんだっけ。

山田将司(Vo) 目と口のパーツは俺らのを使ってるからね。メンバーのソロパートのときに後ろで踊ってるのがそうで。

──そうなんですね。ニューアルバム初回限定盤付属のBlu-rayにライブ映像が収められるということで、改めて確認したいと思います。そして25周年ライブが終わって、わりとすぐ“光と影”をコンセプトにした作品をリリースすることを発表しました。事前にテーマを予告してリリースする形は初の試みだったと思いますが、やってみていかがでした?

松田 やっぱりハードルは上がりますよね。みんな「どんな感じなんだろう?」って予想もしてくれますし。実際どういう曲を作るかは、栄純が「俺が影の一発目をやるわ」と言って「修羅場」を作ってきたのが始まりで。

菅波 確か「パシフィコに向けて新曲(「親愛なるあなたへ」)を作って披露しよう」という話と「“光と影”シリーズをやろう」という話が上がったのが同時期だったんだよね。

岡峰 そうそう。“光と影”シリーズと銘打ってリリースしていくのは25周年後の動きとして挑戦になるし面白そうだと思う反面、同時進行でパシフィコの準備もあったからバタバタはしていて。

菅波 だから最初「すごく大変そうだな」と思った(笑)。パシフィコでやる曲の制作に時間を割いていたら、“影曲”一発目のリリースもけっこう迫ってきていて。スタートダッシュがバタバタだった記憶があるな。将司はどんなことを考えながら影曲第2弾の「ジャンクワーカー」を作ったの?

山田 “光と闇”ではなくて“光と影”という言い方をしたところが今回の企画の大事な部分だと思うんだけど、自分の内面を見つめて出てきた闇というよりも、自分が世の中を見つめて気付いた影を描いた感じだね、「ジャンクワーカー」は。サラリーマンの気持ちを書くというのはテーマとして最初からあったから。

──サラリーマンが抱える葛藤に対する解像度が高くて驚きました。

山田 いろんなスタッフに話を聞いたり、自分の中で想像を膨らませたりして書きましたね。地元の友達と飲んだりもして。あとは俺らも、サラリーマンではないけれど、40代半ばで社会の中で生きている人間だから、同世代の人たちが熱くなれるような曲を書きたい気持ちもありました。

──「修羅場」と「ジャンクワーカー」はQ昆さんがミュージックビデオを手がけていますよね。楽曲の世界観と映像のシンクロ率もすごく高くて。

山田 あの人に闇とか影の作品を作らせたらヤバいですからね。

──「修羅場」のMVは最後に哀愁漂う演歌っぽくなるパートで映像もカラオケ風になったりして。

菅波 あそこは画質に関して俺もたくさん意見を言いました。

岡峰 こだわりの低画質だもんね。

菅波 「粗く!」「もっと粗く!」ってお願いして(笑)。最高でしたね。

自分自身が光を見失っていた

──影曲2作品をリリースしたあと、光がテーマの第1弾として発表されたのが、松田さん作詞、山田さん作曲の「タイムラプス」でした。

松田 今回のアルバムの中でも歌詞に関して特に印象に残っている曲です。“光曲”の1発目ということでインパクトを残そうと深く考えすぎたのか、気負いすぎたのか……今までは曲を書き進めていって、結果的に光を感じさせるような楽曲になることが多かったんですよね。それに対して将司から曲を受け取って光から逆算して書いていくとなったときに、歌う内容や言葉のチョイスを考えすぎて、自分がどこに向かっているのかわからなくなってしまって。将司や栄純に一緒に考えてもらいながらなんとか完成しました。

──今まで山田さんや菅波さんに相談することはあまりなかったんですか?

松田 「ここどうだろう?」「もっとこういう感じがいいんじゃない?」とアドバイスをもらうことはありましたけど、今回ほどガッツリ関わってもらうのは初めてでしたね。自分自身が光を見失っていたというか。

菅波 ここ見出しじゃない?(笑)

松田 そのおかげで光の第1弾としてすごくTHE BACK HORNらしい曲に仕上がったと思います。

──「世界は不条理で残酷で / 光さえ奪ってく」という歌詞が印象的でした。光を奪われるものとして描きながらも逆説的に光を感じさせるという。

松田 仲間との死別や別れはありつつも、残された俺たちは一瞬一瞬を胸に刻んで生きていくことで希望の光が見えてくるんじゃないかと思って。ギターのストロークが中心のシンプルだけど壮大さを持ったサウンドに、そういう熱さがマッチする気がしたんですよね。リリースしたあとのライブでお客さんから「すごい景色が見えました」とか「エモーショナルな曲でグッときました」と言ってもらえて、自分自身も報われた気がしました。作詞に関してこれまでに味わったことのない経験をしたので、今後につなげていけたらいいなと思いますね。

──岡峰さんはベースを弾くうえで意識したことはありますか?

岡峰 俺はここ最近、「歳も重ねてきたしシンプルで大人なベースを弾きたい」と言っているんですけど、山田や栄純から上がってくるデモが「動けよ」というメッセージの曲ばかりで。全然そういうベースを弾かせてくれないんですよ。「タイムラプス」のデモはシンプルなルート弾きだったので、「やっとできる!」と思ったら山田から「Dメロはもうちょっと奥行きのあるベースが聴きたいから動いてくれ」って言われて。

山田 「あれはあくまでデモだから」って(笑)。

──あはは。一方で光がテーマの第2弾「光とシナジー」はモータウン調なので、これまでのスタイルの弾き方とは全然違いますよね。岡峰さんのルーツはヘヴィメタルやハードロックだと思うので。

岡峰 まさに、この曲はチャレンジさせてもらいましたね。個人的にはジェームス・ジェマーソンを意識して。たぶん栄純はソウルとかブラックミュージックの素養をもともと持ってるとは思うんですけど。

菅波 好みとしてはね。

岡峰 自分は普段聴いている音楽とも育った音楽とも違うんだけど、「それを自分がやったらどうなるか?」という楽しみはあったんですよ。でもやっぱりすごく難しくて。弾けることは弾けるんだけど、なんかノリが違うんだよなっていう。レコーディングでファーストテイクを録れるようになるまでにいつもの何倍も時間がかかりましたね。

山田 グルーヴはハネ具合で決まるから、歌とギターとベースとドラムが同じくらいのワクワク感でハネてないと曲が転がっていかない感じはあるよね。

岡峰 子供の頃からつるんでいるからこそ出せる阿吽の呼吸みたいな。それを40代でやるのは面白さもありつつ、ライブで演奏するときに難しさは感じています。なので改めてボーカリストってすごいなと思った部分もあって。山田が全然キャラクターの違う歌を、それぞれで歌い分けているのがわかって、よりリスペクトできるようになりました。