石崎ひゅーい「night milk」インタビュー|「鳥肌が立った」オリジナルアーティストも絶賛の初カバーアルバム

石崎ひゅーいが初のカバーアルバム「night milk」をリリースした。デビュー翌年の2013年11月にスタートさせたインターネットラジオ番組「ナイトミルク」にて、トオミヨウによるローズピアノの伴奏で古今東西のさまざまな楽曲を歌ってきた石崎。同ラジオ初の音源化作品となる「night milk」には、藤井風「旅路」、Aimer「蝶々結び」、Vaundy「僕は今日も」、阿部芙蓉美「希望のうた」、Mrs. GREEN APPLE「点描の唄(feat. 井上苑子)」、清竜人「痛いよ」、アイナ・ジ・エンド「アイコトバ」、平井堅「ノンフィクション」、森山直太朗「愛し君へ」のカバーが収録されている。

音楽ナタリーでは石崎にインタビューするにあたり、事前にVaundy、阿部、清、アイナ、森山の5人から石崎が歌うカバー曲についての感想を収集。そのコメントを本人にぶつけ、カバーする際に意識したことや各アーティストへの思いを語ってもらった。

取材・文 / 蜂須賀ちなみ

眠れない夜に届ける静かなラジオ番組「ナイトミルク」

──「night milk」は石崎さん初のカバーアルバムであり、トオミヨウさんとのネットラジオ「ナイトミルク」から生まれた初の音源作品です。ラジオの初回配信は2013年ということで、この「ナイトミルク」シリーズは11年続いていますが、石崎さんにとってどのような場所になっていますか?

自分にとっては、ほっこりする場所です。夜眠れないときに、誰かの声が聞きたくなることがありますよね。その“誰かの声”に僕がなれたら、というコンセプトを掲げて始まった静かなラジオ番組で、途中からはカバーする楽曲のリクエストをもらう形に変えたんですよ。聴いてくれている人の悩みや考えていることを送ってもらって、それに歌で答える、みたいな。リスナーとの大切なやりとりがあって、トオミさんとたわいもなさすぎる話をして……そういうことを続けられる場所があるというのは、なんだかほっこりする。あと、これはあんまり意識していなかったことですけど、ほかの方の歌をカバーすることで、自分が楽曲を作るときの引き出しを増やしてもらっているような感じがしますね。それは今回アルバムを作っている最中にも思いました。

──つまりコミュニケーションと発見の場であると。アルバムを作ろうと思ったのは、どういう理由からですか?

理由は2つあって。1つは、「音源が欲しい」という声をいただいていたからですね。たまにライブもやっていたんですよ。プラネタリウムとか素敵な場所を選んで。だけどライブはその日限りのものだから、来てくれるみんなから「音源として保存できたらうれしい」というような声をいただいていて。そういう声に応えたかったし、もう10年以上続けているんだから、そろそろトオミさんと重ねてきたものを形にしたほうがいいかもと僕自身も感じていたところでした。

石崎ひゅーい

──もう1つの理由は?

デビュー10周年のちょっと前から、石崎ひゅーいは“挑戦の時期”に入ったんです。今まで食わず嫌いしてきたこと、新しいことをどんどんやっていこうという気持ちに僕自身なっているし、チームとしてもそういう方向性で動いていて。例えばTBSラジオの「気になる世界の身になるはなし」という番組のMCが始まったり、ホールワンマンを初めて開催したりしました。今回のカバーアルバムも、そういう挑戦の1つですね。シンガーソングライターではなく1人の歌い手として、新しいことをしたいというモチベーションがありました。

──自分が作った曲をレコーディングするのとは制作過程がまったく違いますよね。原曲を聴いて、自分なりに解釈して、どう歌いたいかを考えて、トオミさんとアレンジを考えて、みたいな。

いつもとは違うレコーディングだったなと思います。「この歌のよさが一番伝わる歌い方はどういうものなんだろう?」というふうに考えていって。

──そうなると、いつもの自分の手癖とは違う選択をする瞬間も出てくる、だから挑戦になる、という話ですよね。

そうです。例えばいつもの自分なら思いっきり歌ってしまいそうなところで、逆に声量を抑えてみるとか。そういう細かいニュアンスをトオミさんやスタッフに聴いてもらいながら、すごく繊細に作っていきました。今回のチャレンジは、タイミング的に最近自分が考えていることとうまく噛み合ったなと思います。僕は最近、歌を歌うときに自分が主人公にならないように意識しているんですよ。聴いた人にその歌の主人公になってもらいたいので。

──それは、かつての石崎さんとは真逆のアプローチなのでは?

そう。初期の石崎ひゅーいの歌は演劇的でした。僕自身演劇が好きだから、劇団鹿殺しの舞台「彼女の起源」に出させてもらったこともありましたけど、歌が演劇で言うステージだとしたら、歌い手である自分は役者なんじゃないかと。そう思いながら、「僕がこの物語の主人公だ」「どう演じよう」という意識で歌っていました。だけど最近は逆にしようと思っていて。「あなたがこの物語の主人公です」というふうに人にステージを与えられるような立ち位置から歌うことは、自分にとってかなり挑戦なんです。今のところ、けっこう難しいですね。

──そういう歌を歌えたなと手応えをつかめた瞬間は、これまでにありましたか?

うーん……。まだないかもしれないです。中学3年から歌ってて、今までの歌い方が癖になっちゃっているから、今は赤ん坊みたいなものだと思います。どういう状態になったら手応えを感じられるのかもまだ全然見えていない。「ここから確立していかないと」という段階ですね。だからこそ、とにかく挑戦、挑戦って感じでやっています。

Vaundy、阿部芙蓉美からのコメント

──では、ここから各楽曲について伺えればと思います。まずはコメントをいただいた方々の楽曲から。

Vaundy

Vaundy

「僕は今日も」を聴いた感想

「僕は今日も」をカバーしてくださると聞いたときはびっくりしました。
ひゅーいさんとはお会いしてお話しさせてもらったことがあり、もちろんその以前からもひゅーいさんの声の力は知っていましたので、カバーの話を聞いたときはありがたいなと思いました。僕の音源とはまた違う、よりシネマティックなアプローチで緊張感のあるサウンドになっていて、とても聴き応えがありました。

石崎ひゅーいへのメッセージ

「night milk」発売、おめでとうございます!
そして今回こういった形で「僕は今日も」をカバーしてくださり、ありがとうございます。
とても光栄です。また、ゆっくりお話しできる機会を楽しみにしています。

こんなふうにコメントをもらえるんですね。うれしい。ありがとうございます! バウくんはライブを観に行かせていただいたし、菅田(将暉)くんのライブを観に行ったときにもお会いしたんですよ。だけど僕が酔っ払ってて、変な絡み方をしちゃったんですよね(笑)。

──「僕は今日も」に対して、どのような印象を持っていましたか?

初めて聴いたときびっくりしました。僕のアーティストの根源みたいなものと共感する部分があって。だから今回歌わせてもらいたいなと思ったんです。歌詞の中に「母さん」「父さん」と直接的な言葉が出てくるけど、そういう言葉を使うのってけっこう勇気がいるんですよ。自分のパーソナルに近い部分を吐露するような表現だし、意味が限定的になるので。自分もそういうことをやっているから、「僕は今日も」のソングライティングには親近感が湧くし、「これでいいんだな」と自分のことを認めてもらっているような感覚にもなりました。

──アレンジについては、Vaundyさんから「僕の音源とはまた違う、よりシネマティックなアプローチで緊張感のあるサウンド」というコメントがありました。

トオミさんのアレンジ、イカしてますよね。トオミさんもアレンジ面ではこの曲で一番悩んでいたかもしれない。僕はこのアレンジを受け取ったとき、トオミさん節がめっちゃ出ているなと思ってテンションが上がりました。例えば、下のコードはずっと変わらないけど上のコードで展開をつけていくところとか、あとサウンド感も。僕もトオミさんもジェイムス・ブレイクとかRadioheadが好きで、今まで一緒にいろいろな音楽を作ってきた中でそのあたりが共通言語っぽくなっていたんですよ。そういうアプローチもこの曲にも持ってきてくれたなと。完成したときすごくうれしかったです。

阿部芙蓉美

阿部芙蓉美

「希望のうた」を聴いた感想

聴き進めるごとに「大切に接してくれたんだろうな」と温かい気持ちになる作品でした。
自分が手がけたものとは違う姿でまた楽曲に出会うことができて、驚きと感謝の気持ちでいっぱいです。

石崎ひゅーいへのメッセージ

はじめまして! 機会があったら乾杯しましょう! トオミくんも一緒にね! ありがとう~。

いつかお会いしたいですね。芙蓉美さんって普段どんな声なんだろう? 気になるな。ちょっと丸みのある声、いいなって。すごく素敵な声ですよね。

──阿部さんの歌声は空気が多めで柔らかいですが、対して石崎さんはこう歌うのかと興味深かったです。

今回のアルバムの中で一番透明度が高い曲だと思ったので、あまり汚さないようにしたいというイメージで歌いました。僕も芙蓉美さんの歌のウイスパーな成分が好きで、最初はもうちょっと息多めで歌おうとしたんですよ。だけどそうすると真似事みたいになっちゃうし、僕の場合はもうちょっと声をしっかり出したほうがきれいに聴こえるのかなと。そんなことを考えながら歌入れしました。あと、歌を作るうえで考えていることが僕と少し似ているのかなと思ったんですよね。「明日があるから」と言うよりも「今は耳を塞いでいなよ」と言うほうが、誰かにとっては希望の歌になるよなと僕も感じていて。芙蓉美さんのそういう感覚が好きだなと、初めて聴いたときから思っていました。

──「希望のうた」は以前ラジオでもカバーしていましたよね。

そう。カバーさせてもらったのは2016年だったかな。トオミさんが「この歌めちゃめちゃいいから『ナイトミルク』で歌おう」と僕に言ってくれて。歌ってみて、「ナイトミルク」のコンセプトにすごく合ってるなと当時思ったのを覚えています。それに、トオミさんのアレンジもよくて。トオミさんがこの曲をめっちゃ愛してる感じが伝わってくる。それも自分の中ではエモかったですね。