4-9.一人でできる事
※2018/6/11 誤字修正しました。
サトゥーです。中学生くらいの頃の化学の実験とかって素敵な時間でしたよね?
座学の時と違った実地の学問はよく身についた記憶があります。
◇
確証の無い悪い想像に踊らされるのも癪だ。もし事実だったとして、勇者達がいつも通り倒すのだろう。もし負けたら、その時はオレが竜達の代わりに責任を持ってヤツらを倒せばいい。
何回か深呼吸すると心が落ち着いてくる。
MNDが高いというのは意外に便利かもしれない。
◇
部屋に戻ってきた。本題に戻る。
やりたかったのは検証の続きと錬金術だ。詠唱は地道にやるしかないので迷宮都市への道中にでもやろう。
まずストレージの検証からだ。
粉モノを取り出す。
温かいままだ。
一口かじる。味に変化はない。
残りをストレージに戻す。
今更だがアイテム名は「セーリュー焼き」となっている。もう少し捻りがほしいところだ。
ストレージ検証というタイトルで新しくメモを追加する。メモに日付と状態を書き込む。
とりあえず保温性は十分で、ひょっとしたら状態固定の能力があるかもしれない。そうメモに追記する。流石に時間遅滞とか時間停止かもしれないと考えるのは夢見がちすぎだろう。
今度は宝物庫に収納した方のセーリュー焼きを取り出す。こちらはすでに冷めている。味の方は冷めたなりの味だ。急に腐ったりはしていない。半日程度だから当たり前だな。
こちらは保温性なしと記入しておく。
続いて、ストレージと宝物庫の間でアイテムの相互移動が可能かどうかのテストをする。
銅貨1枚にインクを垂らしてマーキングする。
銅貨を宝物庫に入れようとするが入らない。
どうもスキルレベル1だと1つしか入らないようだ。スキルレベルを2にすると入った。小物で試してみたが4種類のアイテムを各4個まで収納できた。レベルの二乗個だろうか? 一応これもメモに追加した。
メニューのストレージウィンドウを開くとアイテムボックスタブが増えている。
アイテムをストレージにドラッグする。
宝物庫をあけて中を見ると移動が完了している。
同じ手順で逆に移動してみるが問題なく移動できた。
ストレージ経由で宝物庫にアクセスするとMP消費は無かった。
この事もストレージ検証に追記しておく。
何に使えるか今度考えてみよう。
次はストレージ内の書籍の中身が検索できるか試してみる。今日の竜白石のように困った時にこっそり調べられると便利だろう。
ゲームの時に説明文の検索はできた。そこで内容に関しても調べられないか試したい。……ゲームの時には、そもそも本の中身がなかったからな。
ストレージにある「王都観光案内」の本をタップしてポップメニューから検索を選ぶ。
「城」で検索すると王城の説明がヒットした。問題なく検索できるようだ。
検索結果が表示される。
ああ、この機能ってリアルで欲しかったな~ 書籍自炊とかOCRとかが要らないとは! ファンタジー恐るべし!
ふと思いついて試してみた。
検索結果が見れるなら本の中身も見れるんじゃないか?
ポップメニューに閲覧みたいな項目がなかったので、検索を空欄で実行してみると上手く行った。
全文がPCの文章のようにスクロールで読める。PDFファイルみたいな感じだ。その状態で単語検索もできるので本を普通に読むより便利だな。
次に本を宝物庫に移動してみる。
残念ながらこちらは検索自体ができなかった。
何が違うのだろう?
◇
錬金術セットを取り出して部屋の隅にあるテーブルに置く。本はストレージに仕舞ったままだ。この状態ならメニューの他の表示と同じように暗くても関係なく本が読める。
「錬金術の初歩」を読む。ノームの爺様に最初に読めと念を押された本だ。本と言うよりは小冊子というべきか? わずか20ページほどの薄い本だ。
その本は道具の説明から始まっている。しかも図解入りなので初めてでも道具を間違えないように配慮されている。爺様が最初に読めと念を押すだけある。
まず乳鉢と乳棒を取り出す。よく知っている白い磁器製ではなく薄いピンク色の乳鉢だ。鑑定で見てみると瑪瑙製だった。瑪瑙って宝石じゃなかったっけ?
本の通りに試薬1と書かれた乾燥させた薬草を乳鉢でゴリゴリ磨り潰し、小鉢に水を入れそこに磨り潰した薬草を細い金属棒で溶いていく。
開始から5分ほどで調合が終わる。入門書の一番最初に書いてあるだけあって非常に簡単だ。
>「調合スキルを得た」
さっそく調合スキルにポイントを最大まで割り振って有効化する。
完成した水溶液は「熱冷まし薬」だ。鑑定してみると「熱冷まし薬-3」という名称で、内容は「解熱作用のある水薬。効果は極めて低く気休め程度である」となっていた。初めての調合だ、品質が低いのも仕方ないだろう。
◇
入門書の次のページには、「魔力がある者は2章に、魔力が無いものは4章へ進め」と書かれている。
ビジネスソフトの入門書みたいな感じというよりは、往年のゲームブックのような印象を受ける書き方だ。
2章は練成の初歩となっていた。ポーションを実際に作るようだ。解説によると調合によって作成する薬と練成によって作られる魔法薬は効果が似ていても違うものとして扱われるそうだ。魔法薬の方は作成するのに魔力触媒やMPが必要になるかわりに、効果が即時に発揮される利点がある。
魔法薬の練成作業を入門書に従って進める。金属製のビーカーに、さっき作成した水薬を入れる。そこに試薬2を攪拌しながら少しずつ混ぜる。
試薬2が沈殿する前に魔力を注ぐそうだ。ビーカーを両手で挟み込むように翳し右手から左手に魔力を流すようにイメージして注ぐ。
コマもそうだったが、右手から左手に向けて魔力を流すのは、何かの法則なんだろうか? それとも単なる習慣か?
魔力を注ぐと試薬2がキラキラと淡く光り出す。薄暗い部屋のせいかキラキラがよく見える。キラキラが消えると完成のようだ。
>「練成スキルを得た」
錬金術スキルじゃないんだな。練成スキルも最大まで取得しておこう。
完成した魔法薬は解熱ポーション-4だった。捨てるのも勿体無いので素焼きの瓶に移してストレージに入れておく。
◇
調合レシピをメモ欄に保存しようとメニューを開く。するとメニューに生産タブが増えていた。タブを開くと先ほどの「調合:熱冷まし薬」「練成:解熱魔法薬」だけでなく、「木工:棍棒(即席)」「複合:蟲脚槍(即席)」「複合:蟲脚槍(改良)」も並んでいた。
以前は無かったはずなのだが、レシピの数が5個以上とか条件があるのだろうか? それとも即席以外のレシピが条件だったのか、ユニークスキルなので検証のしようも無いので、その辺で考察を打ち切る。
試しに「調合:熱冷まし薬」をタップする。調合、レシピ閲覧、レシピ破棄、詳細の4つのサブメニューがある。調合はグレーアウトしていて無効のようだ。ストレージ内で調合実行できるのかと思ったが、残念ながらそんな事は無いようだ。試薬や器具をストレージに戻してみたが有効にならなかった。何か条件があるのかもしれない。
そのまま6章ある入門書を最後まで実習した。レシピは1章につき1個ずつあったので「調合:痛み止め」「調合:傷薬(軟膏)」「練成:下級回復薬」「練成:鎮痛魔法薬」の4つのレシピを覚えた。
スキルを最大まで上げているせいか、3章目以降の薬はすべて「+5」が付いていた。「効果は極めて高く、最高品質である」となっていた。実際の効果の違いは今度検証しようと思う。
◇
入門書の5章目を実践していたくらいから気になっていたのだが……。
扉の向こう側で息を潜めている気配がある。レーダーに映る2人の光点はさっきから動かない。
オレは足音を忍ばせて扉に近づき、一気に扉を内側に開く。
扉に引っ張られるように部屋に転がり込んだのは、アリサとマーサちゃんだった。
「何をしているのかな?」
2人を見下ろしながら聞く。ちょっと平坦な声になってしまった。
「ち、ちゃうねん」と何故か関西弁で言い訳するアリサ。
「わ、わたしは扉の前にアリサがくっ付いていたので注意してたんです」とマーサちゃん。
そう言うわりに君も5分以上張り付いていたよね?
動揺している2人に1歩歩み寄る。2人は地べたでくるりと廊下側に振り向いてダッシュで逃げようとする。
すばやく2人の襟首を捕まえて拘束する。
「何をしていたのかな?」ともう一度詰問する。
「ごめんなさい、サトゥーさんの恥ずかしい姿が見れると誘惑されたので覗いてました」
マーサちゃんが潔く謝罪する。
「う~、だって。女の子と同居してる年頃の男の子が! 一人で部屋に戻るのよ?! どんな痴態が繰り広げられているか見守るのが保護者としての責務だと思わない?」
誰が保護者か。
しかも痴態って……。覚え立ての中学生じゃあるまいし。
潔かったマーサちゃんは解放してやる。アリサは反省が足りないというか欲望に素直すぎるのでデコピン3連発でお仕置きしておく。
手加減ありでも痛かったのか額を押さえて床をゴロゴロ転がっているが、たまにはいい薬だろう。
前回のちょっと重い引きをあっさり克服した主人公。MNDが高いのをちゃっかり利用できるようになったようです。
この調子でヘタレな所も克服してくれると作者的には助かるのですが~
魔法の詠唱は上手く行かなかった割に錬金術はすぐに習得した主人公。これは元の世界での理科の実験などの延長だったせいもあるのでしょう。