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06 成長と巣立ち

 一日一日、必死で生きる為の努力をしてきた。


 冒険者ギルドにお世話になり始め早くも半年が過ぎた頃、漸く俺は冒険者ギルドを出て新品の下着や服を自分自身で買い物することに成功した。


「なんだろう。当たり前なのに、凄く嬉しい」

「ありがとう御座いました」

 そう言って見送る店員さんに何故か可哀想な目で見られていたが、俺はホクホク顔で冒険者ギルドに帰還すると、私物化された仮眠室へ直行した。

 部屋に戻るまでの間に、何故か俺を冒険者達が不憫な眼で、ギルド職員達は暖かい眼で見守っていたことが気になるが、買い物を久しぶりにして、テンションが上がっていたので気にしないことにした。


 仮眠室の前では、治療して顔馴染みになった冒険者さんたちが、こちらに近寄ってきた。

「あの何か?治療ですか?」

「何かあったら相談に乗るぜ」

 THE戦士さんが声を掛けてくれた。

「何か欲しいものがあったら、言ってね」

 女性の冒険者の人に弟を見るような優しい目で見られた。


 ・・・これはあれか?俺が半年間も買い物に出なかったから、買い物も出来ない不憫な子…的な認定をされていたのか?

 そんなこと考えながら仮眠室へと入った。

「この仮眠室が既に私物化されているってことも、戦闘とヒール以外は常識が無くて、一人で生活出来ないと思われているのかな?」


 一日一日熟練度が少しずつ上がり、この世界の熟練度は退化することがない。

 いや、たぶん熟練度が今まで低くなったことがないので、そうだと思っている。

 地球でも熟練度鑑定出来たらと、そんなことを考えたことも一度や二度じゃない。

「まぁ地球にいるときに熟練度鑑定が使えても、俺の前世は劇的に変わっていたということは、なかっただろうけどな」

 俺はそんなことを呟きながら、物体Xを飲んで訓練場まで移動した。


「よし。体術スキルレベルがⅢになったな」

 そう。俺はついに、体術スキルがレベルⅢに到達したのだ。これは冒険者のFランクの基準で、ゴブリン複数と戦っても勝てる技術力だと言われている。この世界では、一年も真面目に道場に通えば、職業の選定を受けていなくてもスキルが手に入る。早ければ成人と同時に習得していてもおかしくないレベルだ。しかし、一般的に駆け出しの冒険者の技術力を持っていると思われるレベル。ただ、ステータスに於いて前衛系職と後衛職の治癒士では大きな差があり、ステータスが伸びにくいため、戦ったらかなりの確率で負ける。これは仕方がない。そう自分に言い聞かせている。


「これもブロド教官のおかげです」

「世辞はいい。小僧、いや、ルシエルが目標に向かって頑張ったからだ」

「ありがとう御座います」

「うむ。ただ、これからはどんどんスキルレベルが上がり難くなっていく」

 俺は頷く。

「ルシエルが、冒険者ギルドに来たのは、生き残る為だったな」

「はい」

「うむ。今日から歩行術の訓練も追加する」

「それは一体?」

「足音を消したり、滑るように歩いたり、低姿勢のまま疲れないように歩いたりする術だ」

「わかりました」

「これらが出来るようになれば、スキルは発現しなくても、下半身の体幹が鍛えられる」

「はい」

 こうして歩行術の訓練がスタートした。


「足音は聞こえるし、ただの摺り足になっている、姿勢も高い。そんなんじゃワイルドボアに突進されるぞ」

 あの軽自動車に? 絶対無理。俺は訓練に没頭した。


 起床→魔法訓練→朝食と物体Xを摂取→投擲訓練→体術模擬戦闘→昼食と物体Xを摂取→投擲訓練→体術訓練→夕食と物体Xを摂取→魔法訓練。


 正確には、冒険者達にヒールを一日少なくても十回、酷い怪我や人数が多いときは、一日五十回を超える。

 何処に歩行術の訓練時間を割くのか考えて、朝と夜に一時間ずつ歩行術の自主訓練を入れた。


 そして何故か、プロド教官は戦闘訓練よりも歩行術の訓練時間を増やし始めた。

「最近、歩行術の訓練が異様に多くないですか?」

 俺は疑問に思い聞いてみた。

「歩行術が今のルシエルにとって、一番必要だからだ。分かったな。よし始めるぞ」

 理由や説明は一切無かった。


 たぶん体術レベルが上がったことで、自分の力を試したくなる年頃とでも思われているだろう。

 普通なら、それもわかる。しかし、そんな夢を見れるほど子供ではないし蛮勇でもない。

 まぁギルドランク昇格は是が非でもしたいところではあるが、最低限自分が納得していないのに、それをすることはない。

 こうしてロマンスも無く行動範囲の極端に狭い動きのない生活をし、この街の名前も忘れてしまいそうな、メラトニの街に来てから、あっという間に一年の時が過ぎ去っていった。


『ステータスオープン』

 名前:ルシエル

 JOB :治癒士Ⅲ

 年齢:16

 LV :1

 HP :320 MP:100 ST:120

 STR :34 VIT:36 DEX:35 AGI:32

 INT :42 MGI:50 RMG:48 SP : 0

 魔力適性:聖

【スキル】

 熟練度鑑定- 豪運- 体術Ⅳ 魔力操作Ⅳ 魔力制御Ⅳ 聖属性魔法Ⅴ

 瞑想Ⅳ 集中Ⅳ 生命力回復Ⅱ 魔力回復Ⅳ 体力回復Ⅳ 

 投擲Ⅲ 解体Ⅱ 危険察知Ⅱ 歩行術Ⅱ  


 HP上昇率増加Ⅱ MP上昇率増加Ⅱ ST上昇率増加Ⅱ

 STR上昇率増加Ⅱ VIT上昇率増加Ⅱ DEX上昇率増加Ⅱ AGI上昇率増加Ⅱ

 INT上昇率増加Ⅱ MGI上昇率増加Ⅱ RMG上昇率増加Ⅱ


 毒耐性Ⅱ 麻痺耐性Ⅱ 石化耐性Ⅱ 睡眠耐性Ⅱ 魅了耐性Ⅰ

 呪い耐性Ⅱ 虚弱耐性Ⅱ 魔封耐性Ⅱ 病気耐性Ⅱ

【称号】

 運命を変えたもの(全ステータス+10)

 運命神の加護(SP取得増加)


「この一年間という時間を、ほぼ全てつぎ込んで努力した結果がこれか・・・指標がないから、凄いのかどうかも分からないな」


「何を一人でブツブツ呟いているんだ?」


「あ、ブロド教官おはよう御座います。いや、今日で、この街に来て一年が経ったんですけど、自分が成長出来ているのか、実感がないんですよ」


「安心しろ。ちゃんと成長している」


「そうですか? 未だにブロドさんの攻撃は見えない時があるし、こちらの攻撃もまともに当たりませんし、魔法もヒールとキュアだけですし」


「まぁ俺とお前には戦闘経験の差、ステータスの差が存在するからな。ルシエルの攻撃がまともに入ったら、俺はショックで寝込むぐらいの差がある」


「ですよね」

 ゲームでもレベル1で中盤の魔物と戦ったら、ダメージを与える間もなく死ぬからな。


「ったく、少しは発奮してみせろよ」

 バァンと背中を叩かれた。


「痛いですよ。まぁ一年間ですけど、ちゃんと自分と向き合って修行はやりきったと思います。ブロド教官ありがとう御座いました。これで魔物と遭遇しても、逃げる切ることが出来そうです」


「いや、そこは倒せそうです。だろ。しかし一年間よく逃げ出さなかったなぁ」


「何度も逃げたくなりましたよ。でも、生きる為に必要なことだと自分が判断したことですから」

 それに逃げ道はなかったですし。

「なぁルシエルよ。いっそのこと、もう、冒険者ギルドに就職したらどうだ?」


「いや~俺って、これで結構俗物的なところがあるんで、お金欲しいし、ちょっとずつでいいから、新しい魔法も覚えていきたいんですよ」


「まぁ、それが普通だろうな」


「昨年は治癒士ギルドへの御布施も、冒険者ギルドというより、ブロド教官に支払って頂きましたし、お金を貯めないと後でじわじわ来ますからね」


「そうか。だが、ギルド職員になることも、考えておいてくれよ」


「はい。まぁこの街を拠点にしますから、また修行には伺います。あ、治癒士が必要なら、依頼してください。格安で引き受けますから」



 俺はこうしてブロド教官と硬い握手を交わし、お世話になった皆さんに挨拶をすると笑顔で送り出してくれた。

 こうして冒険者ギルドでの生活が終わりを迎えた。

 冒険者ギルドを出た俺は空を見上げ「よし。今日も快晴だ」と、声を出してから足を治癒士ギルドへ向けて歩き出すのだった。


 このときの俺は、直ぐに冒険者ギルドに舞い戻ることになるなんて、知る由もなかった。

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