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望まぬ不死の冒険者  作者: 丘/丘野 優
第1章 骨人
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第3話 骨人VS骨人

 迷宮の薄暗い通路で、俺を心待ちにしていたかのように立っていたのは、いわゆる普通の骨人スケルトン、という奴であった。

 魔術も使えず、気力も持たず、聖気も帯びていない、通常骨人ノーマルスケルトン


 俺が剣を構えて相対すると、その骨人スケルトンは、俺の存在を認識したように、


 ――カタカタカッ!


 と笑っているかのように骨を鳴らした。

 骨人スケルトン

 何度となく戦ったことのある魔物とはいえ、改めてまじまじと見ると恐ろしく、気味が悪い存在だった。

 生き物は骨だけになれば、普通はもう二度と立ち上がらない。

 だというのに、その摂理に反して生前のように行動し続けるそれは、見れば見るほど、なるほど確かに何かを愚弄しているような存在のような気がしてくる。


 俺は、他人からこんな風に見えるものになってしまったわけだ。

 これはどう考えても、このままでは街に行くことなどできないな。


 そう再認識させられ、ため息をつきたくなった。

 しかし、俺にはその、ため息を吐くための器官である肺がない。

 骨だけになってしまっているのだから、当然だ。

 その事実に、俺はがっかりとした気分になる。

 俺はもう、人間ではないと強く突き付けられている気がして。 


 骨人スケルトンになった、という事実についてはもう十分に冷静に咀嚼しきったと思っていたが、客観的に見せつけられるとやはり色々と感じるところがあるあたり、俺も優柔不断らしい。


 しかしそれでも、俺は前に進まなければならないのだ。


 目の前の、おそらくは同族と思しき存在を倒して、俺は屍食鬼グールになる!


 そう決意して、俺は足を動かし、骨人スケルトンのもとへと走り出した。


 ――つもりだったのだが。


 その速度は正直、微妙に遅かった。

 まぁ、走っている、と言われればそうだろうな、と頷ける程度の速度は確かに出ているのだが、本気?と尋ねられかねない微妙な速度なのもまた、間違いない。

 やはり、身体能力が相当落ちているらしかった。

 考えてみれば、当たり前の話かも知れない。

 骨人スケルトンは骨だけの存在。

 もともと、動物は体を筋肉によって動かしているのであるから、それがなくなった状態である骨人スケルトンがうまく体を動かせないのは至極当然だろう。


 その証拠に、向こうの骨人スケルトンの速度も非常に遅い。

 そして、通常骨人ノーマルスケルトンは、俺の今までの経験に照らしても、みんなこんなものである。

 だからこそ、俺のような銅級冒険者向けの魔物だったわけで、ある意味では彼らがいたからこそ俺は今まで生き残り続けられた。

 

 しかし、銅級冒険者にとっては大して強くない魔物でも、同族同士となると、やはり厳しい戦いになりそうだということは、目の前の骨人スケルトンに剣を振った時に理解できた。


 俺の剣速はひどく遅いのはもちろんだが、今まで身に着けた剣術がなくなったわけでもなく、基本的なことはしっかりと覚えている。

 だから、その知識から、力がない以上、剣速を上げるには振り下ろしが一番だ、と合理的に考えられるため、実際にそうしてみたのだが、これが酷かった。

 まず、持ち上げるのが難しかった。

 力がないのだから当然である。

 それでも頑張って持ち上げてみても、今度は、剣に加える力の方向を反転させて振り下ろしに移るのが難しかった。

 これもまた、非力ゆえの出来事だ。


 つまり、身に着けた剣術理論がまるで役に立っていない。

 まぁ、それもまた、考えてみれば当たり前なのかもしれない。

 なにせ、俺の身に着けた剣術は、人間用である。

 骨人スケルトンが振るうことを念頭に置いて設計された体系ではないのだ。


 しかしそれにしてももう少しどうにかならないのか。

 このままでは向こうに攻撃されて死んでしまうだろう、と思ったのだが、幸いというべきか、向こうも向こうで非力かつスローな骨人スケルトンだった。

 俺が剣の重さに振り回されている間に、俺に攻撃を加えようとどたどたと向かってきていたのだが、足を滑らせてこけていた。

 しかもそのせいで、右足部分の骨が外れてしまって、胡坐のような体勢で焦って足を拾い、自分の足の付け根に取りつけようとしていた。

 まるで喜劇俳優のような動きに笑いたくなるが、どうにも俺には音を出すべき声帯もないのである。

 骨人スケルトンの出せる音は、どうやら骨を鳴らす音、カタカタっ、だけらしく、仕方なく俺は最初に向こうが俺を見つけた時にやったように、カタカタっ、と音を鳴らして笑ってやった。


 すると、向こうは少し腹が立ったようで、急いで外れた足を取り付けて、それから先ほどより少し早い速度でこちらに向かって来た。

 どうやら、本気になったらしい。

 これはまずい、と俺も思った。

 実際、向こうの突進はそのまま俺に命中し、俺はどたり、と倒れてしまう。

 そして、倒れた体勢で俺は、このままでは、骨人スケルトンになってそうそう、殺されておしまいだ、何か反撃しなければ、と思って焦った。

 しかし、そんな必要はどうやらなさそうだった。


 なぜかと言うと、向こうの骨人スケルトンは追撃をしてこなかったからだ。

 その理由は、俺が握ったはいいがその重みに振り回されていた剣、それがどんな経緯をたどったのか分からないが、いつの間にか向こうの骨人スケルトンの頭部にうまいこと突き刺さっていたからだ。

 しかし、さすがは向こうも不死系の魔物である。

 ただ頭に剣が刺さった程度では死なないようで、不思議そうな顔で視界が若干悪くなったことに困惑するようなそぶりをしている。

 今までにも結構、人間的な動きを繰り返してきた骨人スケルトンだが、どうやら知能はそれほど高くないようで、刺さった剣にどう対応していいのか即座に判断できないようだった。


 その間を、俺は好機ととらえ、刺さった剣の柄を急いで掴み、それからなけなしの力を籠める。

 ちょうど刺さっているのだから、そのまま叩き切ってしまおう、そう思ったのだ。

 しかし、やはり俺は非力な骨人スケルトンに過ぎないようだ。

 骨は防具の素材に使われるくらいのものだから、まぁまぁ固く、骨人スケルトンの非力な力で割れるようなものではないらしかったからだ。


 これには困った俺である。

 どうにか、もっと力を籠められないか……。

 これでは、永遠に泥仕合を続けることになってしまうではないか。

 百年こいつと争い続けるなんて嫌だぞ、俺は。

 と虚しい未来に思いを馳せたところで、俺は、先ほど試した能力のことを思い出した。

 

 そうだった、俺は普通の骨人スケルトンではないのだった、と。

 自分が骨人スケルトンだという自己認識が強い余り、すっかり頭から抜け落ちていたが、俺には魔力、気、そして聖気があるのだ。

 この三つの中でも、気の力は単純な身体能力上昇効果を簡単に望めるもので、今の俺に最も使いやすそうなものである。


 俺は思いついた直後、気の力を体全体に張り巡らせることにした。

 うまく使えるかどうかは、正直微妙だとは思っていた。

 けれど、一応発動すること自体はすでに試していたし、もし仮に出来なければ他の力を使ってもいいのだ。

 ダメでもともと、という奴である。


 そして、その賭けは、運のいいことに成功することになった。


 あれだけ一生懸命力を込めても動かなかった剣が、ががっ、と動き出し、そして相手の骨人スケルトンの頭をついに、叩き割ったのである。

 頭だけにとどまらず、ばきばきっ、と嫌な音が響き、体を構成する骨のいくつかも叩き割った。

 それから、骨人スケルトンの体が、支えを失ったかのように、バラバラと崩れ落ちた。

 

 今まで、しっかりと接合され、一体のものとして動いていた骨人スケルトンの体。


 しかし、頭を完全に破壊された骨人スケルトンはその不死性を失うらしい。

 転がっているその亡骸は、もはや、ただの骨に過ぎないようだった。


 ――どうにか、勝ったか。


 極めて無様かつ滑稽な初戦闘だったわけだが、それでもなんとか勝てたらしい。

 能力の実戦での運用も出来た。

 

 最初でこれは、まぁまぁな戦果なのではないだろうか。


 そう思って、俺はなんとかやっていけそうなことに安堵したのだった。


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新作 「 《背教者》と認定され、実家を追放された貴族の少年は辺境の地で、スキル《聖王》の使い方に気づき、成り上がる。 」 を投稿しました。 ブクマ・評価・感想などお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いします!
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