[go: up one dir, main page]
More Web Proxy on the site http://driver.im/
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/71

028 カニクリームパスタと冒険者

「カッニカニカニカニトマ~♪ カッニカニカニカニトマ~♪」

「ご機嫌すぎでしょ、店長さん……」


 開店準備中に歌っているのを、トルトが呆れた顔で見てくる。

 だって今日の日替わりパスタソースは、特別なんだよ。


「昨日のカニで作ったソースが、本当に美味しいんだよ~。ほら」

「ふ~ん……あ、本当だ」

「すごく美味しいです!」


 二人にソースを入れた小皿を渡して、味見してもらった。

 カニ爪で出汁をとったソースに、タップリのカニのほぐし身。

 こんな豪華なソース、なかなか仕込むことはできない。


「あの大きなカニ爪を、ハンマーでバッキバキに砕いて炒め始めたときは、呪術の薬でも作り始めたのかと思ったよ」

「あれはな、カニの出汁を取るための儀式なのさ……!」


 カーナヤクラブの爪は大きすぎて、丸ごと鍋に入れるのは難しかった。

 そこで細かく砕いてから、野菜やトマトソースと煮込んでソースを作ることに。

 いわゆる、アメリケーヌソースの甲殻類をカニにして作ったのである。


「そしてこのソースで作ったパスタを、貝皿に盛り付ける……くぅ~!! 楽しみ!!」


 お客さんの反応が楽しみだなぁ。

 貝皿が安定するように通販『百円ショップ』で、リング状の鍋敷きもたくさん買ったし。

 準備はバッチリだ!


「料理がそんなに好きなんて……僕が言うのもアレだけど、変わってるよね」


 やれやれ、と言った顔で言うトルト。

 自分の好きなことに没頭するのは、トルトも同じだと思うんだけどな。


「でもこんなに美味しいものが作れるなんて、魔法みたいで楽しいですよ」

「そんなにほめるなよ~、ラディル~」

「……魔法みたい、か。確かに、そうかもね」

「もう~、トルト先生まで~」


 やはり朝から褒められると、気分が良いな!

 今日の営業も頑張ろう!!

 天気も良いから、たくさんお客さんが来てくれそうだ。


「それじゃ、いたりあ食堂ピコピコ、オープンします!」


 開店前の予想通り、お昼は常に満席になるほどお客さんが来店。

 日替わりのカニのパスタソースも好評で、ランチだけで七割ほど売れてしまった。


「カニのパスタ、すごい出ましたね!」

「ああ。夜のお客さんも、喜んでくれるといいな」


 昼休憩を終え、夜の営業。

 開始直後は仕事帰りのお客さんが多いが、引きも早い。

 やはりお酒を出していないので、こんなものなのかな。


≪カランカラーン≫


「いらっしゃいませ」


 貸し切り状態の店に入ってきたのは、歴戦の冒険者グラトニー。

 戦士系最強キャラクターだ!

 この人には物語終盤から隠しダンジョンまで、ずっとお世話になったな。


「あ! グラトニーさん!」

「なんだラディル、ここで働いてたのか」


 意外なことに、グラトニーと親しげに話すラディル。

 彼もラディルの事を、知っているようだ。


「ラディル、知り合いなの?」

「はい! たまに朝の特訓に付き合ってくれてるんです」

「へぇ~」


 感心している間に、トルトがグラトニーをカウンターに案内する。

 グラトニーは渡されたメニュー表を、パラパラとめくった。


「ご注文はいかがいたしましょうか?」

「そうだな……」


 一通りめくって見たものの、彼はすぐにメニューを閉じてしまう。

 どうやら馴染みのない料理で、オーダーが決められなかったようだ。


「よくわからんから、おすすめの料理を頼む」

「今日はカニ! カニクリームパスタがおすすめですよ、グラトニーさん!」

「そうなのか? じゃあ、それを頼む」


 ラディルに熱くすすめられて、グラトニーさんは日替わりのカニクリームパスタを注文した。

 俺は早速、調理にとりかかる。

 フライパンにソースを入れながら、ふと思い立つ。

 今まかないを食べてもらえば、ラディルがグラトニーさんのスキルを覚えるのでは?


「……もうお客さんも来なそうだし、ラディル達もまかないにしちゃうか?」

「え? 良いんですか!?」

「グラトニーさん、知り合いなんだろ? ゆっくり話しながら食べたらいいよ」

「ここはお言葉に甘えようよ、ラディル」


 どうやら自然に、食事する流れに出来たな。

 カウンターに座ったラディルとトルトの分も合わせて、俺はパスタを作った。


「お待たせしました、カニクリームパスタでございます」


 ソースたっぷりのカニクリームパスタを、シャコ貝の皿に盛り付ける。

 ポセさん用に拾った貝ほどではないが、かなりの大皿。

 見た目のインパクトに、グラトニーの目が見開いた。


「これはうまそうだ!! いただこう」

「いただきます!」

「いただきまーす」


 カニのクリームソースをたっぷり絡ませて、パスタを口に運ぶグラトニー。

 かなりしっかり味わってから、意外な人物の名前を口にした。


「旨い!! こりゃあ、ワンホリーの酔いが醒めるワケだ」

「ワンホリー?」


 どうしてここで、ワンホリーの名前が出るのだろう?

 俺が不思議そうな顔をしたためか、グラトニーは話を付け加える。


「ひと月ほど前か? 夜中に真顔のワンホリーが『ピコピコのメシは酔いが醒めるほど旨い』って、言って回ってたんだぜ」

「そ、そんなことが……」

「冒険者仲間で、そんなに旨いのかって噂になってたんだ」


 まさかワンホリーが、そんな口コミをしていたなんて……。

 一体どれだけの人に、宣伝して回っていたのだろうか?

 そんなに料理が気に入ってたのか、ワンホリー。ありがとう。


「確かに、通いそうなぐらい旨かったぜ。またよろしくな」

「はい! お待ちしております」


 食事を終えたグラトニーさんを、見送る。

 これから、冒険者のお客さんも増えるのかな?

 肉や魚料理も増やしていった方が良いだろうか……なんか、楽しみになってきた!


「そういえば、スキルの方はどうなったかな」


 スマホを確認すると、ラディルに追加されたスキルは闘志。

 攻撃技の威力が上昇するスキル。

 さすが戦士系最強キャラクター! ラディルとのスキル相性抜群だな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
他の作品もよろしくお願いします


【 魔王イザベルの東京さんぽ 】
何も無いと思っていた町が、楽しくなる――
女魔王とオタ女が、東京のまち歩きをするお話です。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ