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第十三話 異世界ファビニール修行記1(11/28 修正)

時は少し遡る。



「師匠よろしくお願いします」


「あぁ、わかった」


 カインはユウヤに頭を下げてそう言った。

 そしてカインはユウヤの弟子になった。


「カイン、とりあえずお前のステータスじゃ、この世界では中の弱くらいかな? それくらいじゃこの世界は生き残れない。少しレベル上げて来い。あとな、修行が終わるまで自分のステータスを確認するもの禁止だ。あと転移も使えないようにこの世界を調整しておいた」


 この大陸ではカインの住んでいた世界と違いレベルの高い魔物が棲みついていた。

 ユウヤは一振りの剣をカインに渡す。

 鞘から剣を抜いて確認すると、白銀色に輝いていた。


「お前の鉄の剣じゃ、魔力を通しても斬れない魔物がうじゃうじゃいるぞ。このミスリル製の剣をもってけ」


 カインは鞘に戻し、腰からぶら下げている剣を取り替えた。


「師匠、ありがとうございます、そういえば師匠、師匠がアーロンを封印した時は、レベルいくつくらいだったんですか」


 カインの質問に、ユウヤは手を顎に当てながら思い出していた。


「あの時か~。六百位だったと思ったぞ」


 今でもすでに自分のことを、規格外だと思っていたレベルより、そのさらに倍と聞いてカインは驚いた。


「まだ倍以上あるんですね。頑張りますよ」


「とりあえず、この家の周りにいる魔物は今のカインには倒せない。SSS級以上がこの周りにいる。この大陸の外縁部の弱い魔物でも、あっちの世界でSランクはあるからな。さっき辿りついた海岸まで送るから、そこから中央にあるこの家まで頑張ってこい。あ、飛んでくるのはナシな」


 カインはユウヤに連れられて、また海岸沿いの砂浜に転移した。

 そしてユウヤは方位計をカインに投げた。

 受け取ったカインは、手に乗せて方位計をみると、一方向を指していた。


「これが指すところが家の方角だ。食べ物含めて自分で調達しろ。じゃぁ家で待ってるわ」


 ユウヤはそう言って転移して消えていった。


 砂浜に立ったカインは森のほうを見つめた。

 森の一本一本の木は高さ数十メートルの高さがあり、森の中はわずかな光が差し込むだけで薄暗い不気味な雰囲気をだしていた。


「どれくらいの距離があるかわからないけど、気合いれていこう!」


 カインは森の中に踏み入れた。

 探査(サーチ)を使いながら進んでいく。魔物の気配がいたるところであり、魔物同士でも争っている。カインも森に入って五分もしない間に、魔物に見つかり襲われている。


「森に入って五分でS級か~。これは手応えありそうだな」


 カインは真っ二つに斬られた四メートルほどのオークキングをアイテムボックスの中へ入れ、また進む。数十メートルもしないうちにまた他の魔物と出会う。それの繰り返しだった。時には魔物と戦っている最中に、他の魔物が襲ってくるときもあった。

 ひたすら気が抜けない時間が続き、休憩するときは魔法で穴を掘って、そこで休憩した。食事は魔物を捌いたものと野草と一緒に焼き、普段から野営用で持ち歩いてた調味料を使ってから食いついた。まさに原始時代に近い生活だった。

 カインは方位計が指す方向に向けて、それでも一歩一歩進んでいった。


 そして一年が経った。ただ、カインにとっては方位計の指し示す方向にひたすら歩き、魔物と戦う毎日の繰り返しであったため日数の感覚をわかるはずもなかった。

 一年も戦い続けていると、カインの感情は抜け落ちていた。誰とも会話をせず、一人で一年もこの薄暗い森の中を彷徨っていれば、誰でもそうなってしまう。まだ十歳、前世を含めてもまだ二十数年しか生きていない。

 無表情のままのカインは、機械のようにただ現れた魔物を倒す。ただ、それだけだった。

 いつものように魔物を倒して、アイテムボックスに入れていると、近くから鳴き声が聞こえてきた。

 カインはその鳴き声が何故か気になり、呼ばれるように自然と足を向ける。

 進んでいくとそこにいたのは、まだ子犬くらいの大きさの血で身体を染めた真っ白な狼だった。

 足は折れ、血まみれになりながら何からか逃げてきたようで、すでに力尽きそうになっている。


 真っ白な狼とカインは視線を合わす。


「クゥーン」


 その狼は鳴いたあと頭を下げた。

 誰とも話すことなく一年暮らしたカインにとっては、それだけで癒しになった。

 抜け落ちていた表情から、久しぶりに笑顔を見せる。

 数ヶ月ぶりにカインに表情が戻った。

 一歩一歩、ゆっくりと白い狼に、笑顔を向けながら近づいていく。


「よし、大丈夫か? 今治してやるからな」


 白い狼に優しい笑顔を浮かべながら、カインは魔法を唱える。


 『エクストラヒール』


 上級回復魔法をかけると、白い狼は光に包まれて、みるみる怪我が治っていった。


 『身体清潔(クリーン)


 血塗られた小さな白い狼は、綺麗な白色の毛をした狼になった。


「クゥーン」


 起き上がった白い狼は、カインに擦り寄ってきた。そのままカインの顔に飛びつき、顔を舐めてくる。


「コラコラ、くすぐったいって、そろそろ飯の時間だからお前も一緒に食うか?」


「ワゥ」


 白い狼は尻尾を振って、カインの周りを回っている。


 カインは狼の声を聞きながら、まず魔法で自分たちを囲うように壁をつくり、その中で料理を始めた。


「お前は生のほうがいいんだよな? ほら、オークキングの肉だ」


 そう言って、適度な大きさにカットした肉を、白い狼のほうに投げてやる。狼は投げた肉を口でキャッチし、そのまま食べ始めた。

 すぐになくなってしまったようで、またカインの顔を見つめて鳴いてくる。


「おかわりか、仕方ないやつだなぁ。ほらよっ」


 また肉を出して、白い狼に投げてやる。

 そして白い狼は、喜んでその肉をまた食べ始める。

 カインも隣で焼いた肉を食べながら、白い狼が食べているところを眺めていた。


「お前も一緒についてくるか?」


 思わずカインはその白い狼に問いかけてみた。やはり一人でいるのは寂しかった。

 カインが白い狼に話しかけると、白い狼は食べるのを途中でやめ、カインの顔を見た。


「ワゥ」


 ひと鳴きだけし、また食べ始めた。


「一緒に来るなら、名前つけてやらないとな、真っ白だし、『ハク』でいいか」


 カインがそう言うと、白い狼はまた顔を上げ「ワゥ」とひと鳴きした。


「よし! ハク! お前も一緒に頑張ろうな」


 そして、カインとハクは食事を済ませ、また方位計の指す方向に歩き始めた。




 ハクは、思った以上に強かった。子犬サイズの大きさなのに、すでにSS級を超えた魔物に対しても、恐れはせず瞬発力を活かした戦いをしていた。カインでも追えないようなスピードで掻き回し、一瞬にして首に噛み付いていく。

 カインは一人ではないことに安心し、もう表情が抜け落ちることはなかった。


 ひらすら森を戦いながらまた二年の月日が経った。

 修行という名のもとに、ただ方位計の指す方向へ歩いて、魔物を倒すだけの旅である。

 ハクはすでに三メートルほどの大きさになっていた。それでもカインにじゃれついてくる。


「ハクゥ。よせって、お前大きいんだから重いよー」


 カインもすでに十三歳となり、身長も既に百六十センチを超えていた。服のサイズも合わなくなってきたため、魔法で服を作り着ていた。


「いったいいつになったらつくんだろ」


 そう言いつつ、ハクと一緒の生活を楽しんでいた。この頃には既にSSS級と思われる魔物が徘徊している地帯に入り、ひたすらまた修行という名の魔物退治をしていた。


 さらに一年が経過したところで、森の先に光が見えた。

 カインはその光を目指して、一気に走り抜けた。

 走り抜けたその先には、見覚えがある風景が広がっていた。そして畑の先には師匠の家がある。

 この森を抜けるまでに四年の歳月がかかった。


「やっとついたーーーー!!!!」


 家の扉まで一気に走り抜ける。カインの横にはハクが一緒に走っている。

 ノックもせずにいきなり扉を開けた。


「ししょーーーー! つきましたーー!!」


 扉を開けた先にあるリビングには、師匠のユウヤと見知らぬ男性が二人で話していた。


「カイン、やっとついたか。待ちくたびれたぞ。少しは立派になったようだな。ん? お前の連れているのって神狼(フェンリル)じゃないか」


 三メートル以上のハクを見ながら、ユウヤは呟いた。


「フェンリル?」


 カインは不思議そうに首をかしげた。


「うむ、神獣でもある種族だな。まだ子供だが、大人になれば五メートルを超えるぞ」


「え?ハクは神狼(フェンリル)で神獣なの?」


「ワゥ」


 ハクは首を縦に振る。


「随分懐いているもんだな。それくらいなら契約もできるんじゃないか?」


「契約?」


 今度はカインが首を傾げる。


「召喚契約と言ってな、契約することによって、いつでも呼び出すことができるのだ。その大きさのままでは何かと不便だろう」


「ハク、僕と契約してくれる?」


「ワゥ」


「良さそうだな、修行を始める前に契約だけ教えておくか」


「『我、契約を求める。お互いの信頼の名のもとに絆を! 契約召喚(コントラクトサモン)』と唱えるのだ。それに答えてくれたらわかる」


「やってみます」


 カインはハクと向き合った。


『我、契約を求める。お互いの信頼の名のもとに絆を! 契約召喚(コントラクトサモン)


 その瞬間、カインから魔力がハクに向かって流れ始めた。

 ハクの足元に魔法陣が現れハクが覆われてそのまま消えてしまった。


「ハクが消えた!!!」


「そう焦るでない、『(召喚(サモン)「ハク」』と喚べばでてくる。


召喚(サモン)「ハク」』


 その瞬間、床が光りはじめ魔法陣からハクが現れた。


「ワゥ」


「おぉ! すごい。これで一緒にいられるな」


 カインはハクに抱きつき喜んだ。





「そろそろいいかな」



 声を掛けてきたのは、ユウヤと一緒にいた男の人だ。


「あ、すいません。僕はカイン・フォン・シルフォードといいます」


「私はドランと言う。ユウヤの古くからの友人だ。そして君に修行をつけるように呼ばれてきた」




 まだ修行は終わっていなかった……。


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