第二十七話 近衛騎士団
「久しぶりだね、英雄カイン男爵」
待っていたのは、近衛騎士団の副団長であるダイムだった。
「ご無沙汰してます。英雄ではないですよ、ダイム副団長。マグナ宰相に言われて魔物の素材を置きにきました」
「さっき、伝えにきたよ。案内するからついておいで」
そうダイムは言い手招きする。
ダイムについて行き、小さな倉庫に連れてこられる。
「この倉庫の中でいいかな? 魔物の置くとこはここにしているんだ」
小屋は五メートル四方くらいの小屋だった。
さすがにこの中では入りきらない。
「ダイム副団長、申し訳ないですけど、この部屋の広さだと入りきらないです」
カインが正直に言う。素材がかなりあり邪魔だったのだ。全部は出すつもりはないがAクラスくらいの魔物の材料ならすぐに集まるのでカインはそれ以下の魔物は全てだすつもりだった。
「いったい、君のアイテムボックスの中にはどんだけ入っているんだ?」
「この小屋でしたら、十は必要かと。大きいものはここに一匹入れたらもう入らないかもしれません」
「もしかして、屋敷においてあると噂されているレッドドラゴンクラスが入ってるのかい?」
「さすがにあのクラスは入ってないですよ。もっと小さいのです。それでも六メートル級の地竜が何匹か入ってますけど」
「ちょっと待ってくれ。地竜って、魔物のAランクで冒険者でもAクラスパーティーで一匹倒すという地竜かい?」
「Aクラスかはわかりませんが、地竜です。冒険者ギルドに登録していないので、そこらへんはわからないですけど」
「ますますカイン殿はわからない人ですな。とりあえずこの外に出してくれれば、騎士団で運ぶことにするよ」
「わかりました、ここに出しますね」
カインはアイテムボックスから魔物の死骸を出す。
六メートル級の地竜に、十メートル級の地蛇、オーガキングにオーガの群れ、オークもかなり出した。中には上位種も混ざっているようだった。出しおわった時には小さな山が出来ていた。
「これくらいですかねー」
アイテムボックスの中が結構さっぱりした感じだ。
「……」
ダイムが固まっていた。
ありえない状況だった、A級魔物からC級魔物までが揃っている。これを一人で狩ったのか?
ありえない。とても五歳とは思えない、A級冒険者でもここまではできないだろう。
「カイン殿、君は勇者かい? もしくは神の使徒とか」
そう絞り出すことしかダイムはできなかった。
使徒と聞いてビクっとする。
「え、いえいえ、普通にガルム辺境伯の三男ですけど」
緊張しながらカインはそう返す。
「深くは詮索しないよ。これだけの量だと査定も少しかかると思うから後日代金を渡すね」
「陛下にグラスの代金を頂いたので、そこまで焦ってません。そのうちでお願いします」
今ではカインはお金に困っていない、リバーシの売上が爆発的になり、投資の金額は全て戻ってきた。これからヴェネチアンガラスとシャワー付トイレを売りに出したらもっとすごいことになるだろう。
魔物もだしすっきりしたので帰ろうとする。
「それでは、私は帰りますね」
振り返った時に、後ろから肩を掴まれる。もちろんダイムだ。
「まだ時間は早いよ? ちょっと騎士団の訓練に付き合わないかな? とりあえず見学だけでも」
そう言って、肩を掴んで連れて行かれた。
そして今、騎士団の訓練場の真ん中に木剣を持ってカインは立っている。
周りには屈強な騎士が三十人ほど囲んでいる。
時は少し遡る。
「英雄カイン男爵だ、オーク殲滅の件は聞いているな」
ダイムがカインを騎士たちに紹介する。
周りから、ほんとにこんな子供がオークを倒したのかと疑問の声があがる。
もちろんその時にいた騎士もいたが、その人たちはカインを見て礼節をとった。
「今日はカイン男爵も騎士団の訓練に参加することになったから」
軽くダイムが話していく。
「いいんですか? 見た目も本当に子供ですよ? 五歳なんですよね? 近衛騎士団が本当に相手をしていいんですか」
カインの実力を知らない一人の騎士がダイムに問い掛ける。
「そう思うのなら、まず最初にやってみなよ。カイン殿頼むよ」
ダイムに問いかけた騎士が一人前にでる。
「カイン殿、まずはそちらに手を譲ろう。先にかかってきなさい」
近衛騎士団に所属しているという自信が見える。大人の余裕だ。
仕方ないのでカインが先行して攻める。
短距離瞬間移動を試してみようとする。移動では使うが対人で試したことなかったのだ。
カインは子供用の木剣を構える。魔力を練り魔法を唱える。
『短距離瞬間移動』
一瞬で、騎士の後ろにつき、木剣を背中に当てる。首に当てたかったが身長が足りないのだ。
「これで終わりです」
見失った騎士はいきなり後ろから木剣でつつかれて困惑している。
今まで目の前にいたのだ。そしていきなり消えた。
そして後ろから木剣でつつかれたのだ。
「……参りました」
騎士は素直に答えた。
「信じられません。ここまでだったとは。まったく見えませんでした。この子はいったい」
周りの騎士たちも困惑している。
「「あれ見えたか?」」
「「まったく見えなかった」」
「消えたと思ったら、いきなり後ろからだろ。相手するの無理だろ」
「さすが英雄カイン男爵だね、ここまでとは。一人では物足りないだろう。今いる三十人とやってみようか」
「ええっ。ちょっとそれは……」
カインが驚く。さすがに三十人は無茶過ぎる。ステータス的に十分だから全員を瞬殺することができる。
「よし、はじめよう。皆かかれ!」
ダイムの合図によって、近衛騎士団三十人がカインを取り囲む。
そして先ほどの状況になった。
三十人が一人の子供に剣を向けている。
そして、皆が飛びかかる寸前だった。
「これは何事ですかっ!!」
皆の動きが止まった。
そして、一人が円の中に入ってくる。
金髪の二十歳位の綺麗な女性だった。金髪を後ろで結び邪魔にならないようにしている。
耳が長い。エルフのようだ。淡麗な佇まいのエルフの騎士にカインも驚きを隠せない。
皆が礼節を取る。
「こんな子供を相手に剣をむけ、近衛騎士団がこんなに大勢集まってなにをしているのですか?」
言ったあとに振り向き、膝をついて目線を合わせてくる。
「君、大丈夫だった?」
頭を撫でてくる。五歳の対応ならそれが普通だろう。そして抱きしめられた。
「こんな人たちに囲まれて怖かったよね。もう私が来たから平気だよ。迷子でここに来ちゃったんだね。両親はどこだい?」
「騎士団長、その方は……」
ダイムが騎士団長に声をかける。
この綺麗な女性は騎士団長だと言うことを知り、カインは驚いた。
「ダイム、あなたというものが一緒にいながら、なぜ止めなかった」
目を細めて、キツくダイムに問い掛ける。
「その子はこの前話に出ていたカイン男爵ですが……。あの英雄の」
ダイムが申し訳なさそうに答える。
「まさか!? こんな子供が??」
さすがに騎士団長も驚いたようだ。
騎士団長がこちらをじっと見つめる。
「そうなのか。そうか。あの英雄か。フフッ。では代わりに私と模擬戦をしようか」
模擬戦が決闘に聞こえたカインは驚いた。
騎士団長が、いきなり模擬剣を持ち出してきた。
「団長、まずは自己紹介が先かと」
ダイムがまたもや申し訳なさそうに伝える。
「剣士はまず剣で分かち合うべきだ。それで分かる」
騎士団長が剣を構える。
「また団長の悪い癖が……。強いのを見ると模擬戦を挑むとこが。団長は剣聖の称号持ちだろ? カイン男爵といえど無理じゃないかな」
近衛騎士団の面々が話している。円を拡げるように距離をおきながら。
あの聞こえてますけど。なに剣聖って。
「カイン男爵いくぞ!」
「ちょっと待ってくださいよっ!」
カインは止めようとするが
騎士団長は構わず突っ込んできた。
人とは思えないスピードだ。身体強化を使ったのだろう。
騎士団長は剣を上から一閃する。
カインは半歩だけずれて、その剣を躱す。そして逆に剣を横から一閃する。
騎士団長は簡単に避けられたことに目を大きく見開き、カインが横に振った剣を剣で受け止める。
カインは後ろに飛び、距離を取る。
「カイン男爵、子供と聞いて油断していたよ。これなら本気で楽しめそうだ」
口元がにやけた後、騎士団長が何かを呟くと、団長の周りに風を纏った状態になる。
「いくよっ」
さっきと次元の違うスピードで剣を振る。
さすがにさっきの余裕で躱したようにはいかない。カインも身体強化を使い騎士団長の振った剣をずらすようにして受け止める。その後も人とは思えない速度で剣を打ち合う。
「おい、カイン男爵、騎士団長とまともに打ち合ってるぞ。信じられん」
団員たちが呟く。二人のスピードは周りの近衛騎士団でも目で追うのがやっとだ。
このままではいつまで経っても終わらないので、カインがもう一ランク身体強化を上げて飛び込む。そして、騎士団長の剣を弾き返し、そのまま首元に突きつける。
「これで終わりですね」
カインが首元に突きつけた剣を下ろし伝える。
騎士団長は目を見開いた後、頬を染める。
「……決めた」
「私はあなたと結婚する」
カインを始め周りの騎士団はその一言に全員絶句した。