第十六話 密談
時は少し遡る。
襲われた騎士たちのうち二名が先行して、王城の騎士団詰所に飛び込んできた。
「緊急のご報告があります。団長か副団長にお取次を」
「団長は今、王都にいない。副団長がいるはずだから連絡しよう」
詰め所にいる騎士の一人が中に入っていった。
執務室には近衛騎士団副団長である、ダイム・フォン・ガザートがいた。
王女殿下の護衛をしていた騎士が報告をする。
「何っ! オーク五十体だと。それで王女殿下にシルク嬢は無事だったのか」
騎士服を着込み、執務室で決済を進めていたダイムが机を叩き立ち上がる。
「はい、当初十人の護衛で立ち向かいましたが、二十体は倒しました。しかし、こちらも四人が死亡し、全員が負傷し、もう限界だと思われた時に助けが入りました」
護衛の騎士が話を続ける。
「そこで五歳くらいの少年が救援に来ました。ガルム辺境伯の三男で、カイン様と名乗っておりました。そのカイン様が残り三十体のオークを一人で魔法と剣で殲滅いたしました。戦っていた私たちが目で追えないスピードで」
「五歳の子がかっ? ガルム辺境伯ではなくて?」
「間違いありません。カイン様がオークを倒しました。その後、ガルム辺境伯も合流され王都までご一緒させていただきました」
「負傷した騎士たちは平気だったのか?」
「カイン様が魔法を唱えると、まだ生きていた皆は全員回復しました」
「五歳にして攻撃魔法、剣技、回復魔法まで使えるのか……。これは至急王城に報告せねばならん。報告たしかに受け取った。今はゆっくり休まれよ」
報告にきた騎士は出て行った。
「王城へ報告に行ってくる」
と職員に伝え、ダイムは焦るように執務室を出て行った。
◇◇◇
ここは王城の中にある応接室だ。
応接室の中には、この城の主である、レックス・テラ・エスフォート、宰相のマグナ・フォン・テラハート侯爵、エリック・フォン・サンタナ・マルビーク公爵、そして騎士団副団長であるダイムの四人がテーブルを囲って座っている。
護衛の騎士団から聞いた話をダイムが話し始める。
「急にお集まりいただき申し訳ありません。実はテレスティア王女殿下とシルク嬢を乗せている馬車がオーク五十体による襲撃を受けました」
「何っ!? 二人は無事なのか??」
話を聞いて焦るレックスとエリックが机を叩き立ち上がる。
「はい。十人の近衛騎士がついておりましたが、二十体のオークを倒したところで四人が死亡。他が負傷し危ない状態だったところに、ガルム辺境伯の三男のカイン殿が一人で応援に駆けつけました。そしてカイン殿一人で残り三十体を殲滅いたしました」
「「「なにっ!!」」」
「ガルム辺境伯の子は確か、王都の学校へ通っているのはなかったのか?」
宰相が話しかけてきた。
「いえ、今回救援に向かってオークを殲滅したのは、今年のお披露目会に出席する予定だった五歳の三男になります」
「五歳でその実力とは、本当なのか??」
「ガルム辺境伯に同行してた騎士団にカイン殿のことを聞きましたが、五歳にして上級魔法まで操る天才だと言っておられました」
「五歳で上級魔法だと……ありえん」
「そして、そのあとが問題なのです。カイン殿はオークを殲滅したあとに騎士たち全員を回復魔法で癒し、オーク五十体と騎士の亡骸をアイテムボックスに収容し王都に向かっています」
「「「アイテムボックスも持っているのか」」」
その場にいる全員が驚いた。
「五歳でそこまでの武力、回復魔法にアイテムボックスも持っている人材なんて、そんなに出てくることなんてあると思うかエリック?」
国王のレックスがエリックに問い掛ける。
「そんな人間見たことないですよ。しかもカインくんは三男だから継承権はないはず、うちに婿で欲しいくらいだ。助けてもらったシルクもいるしね」
そこに駄目押しをダイムが答える。
「すでにテレスティア王女殿下とシルク嬢はカイン殿に夢中らしく、護衛として自分たちの馬車にのせ、両側から腕を絡ませているくらいだそうです……。宿も同じ部屋で寝ていたとか」
「「……」」
レックスとエリックのこめかみがピクピクしている。
「五歳でスケコマシときたか……。どうなんだ? ダイム」
「いえ……。そこまでの情報は入ってきておりません」
ダイムが国王からの冷たい視線を受け、冷や汗をかきながら答える。
「マグナよ。どうしたらいいと思うかの」
「カイン殿は三男なので継承権はありません。まず叙爵して独り立ちさせるのはいかがでしょうか。将来、誰を嫁にしても問題がないようにしておくのも良いかと。しかも今回はお披露目会で来ていると聞いています。終わったら領地に戻るでしょう。そこで王都に屋敷を与え、ここに住むことによって、人柄が次第に見えてくると思われます。幸い、ガルム辺境伯の他の兄弟は王都に住んでおりますし問題ないでしょう」
「「それがよい」」
レックスとエリックが同調した。
その時部屋をノックをする音が聞こえる。
「陛下、テレスティア王女とシルク嬢が王城へ到着いたしました。どうしましょうか」
「すぐにここへ通せ。二人ともだ」
少しして、テレスティア王女とシルク嬢が応接室に入ってきた。
「お父様この度は心配をおかけして申し訳ありません」
二人揃って頭を下げてくる。
「いいのじゃ。テレスよ、二人共無事で何よりだ」
その後、二人からも話を聞いたが、ダイムと言うことと変わらなかった。少しばかしカインを美化しすぎてるところがあったが。二人の中では、カインの事はすでに白馬の王子様となっていた。しかもカインの事をひたすら嬉しそうに話すのだ。
レックスとエリックはため息をつく。
「それでじゃ、報告ではテレスにシルク嬢も、その助けてもらったカインにべったりだったと聞いておるがの」
その言葉で二人が顔を真っ赤にして下を向く。
「二人ともその表情を見ると、まんざらでもないようじゃの」
マグナ宰相が髭をさすりながら答える。
「カイン君を取り込むとして、どちらかが婚約者になって欲しいと言ったらどうだ?」
レックスが二人に聞いてみた。
「「私がなりたいです」」
同時に言ったことで、お互いが目を合わせて二人ともさらに顔を赤くした。
レックスもエリックもため息をつく。
「それ程までの男の子か、カインというのは」
「エリック、それでいいかの?」
レックスとエリックはお互い頷く。
「ただ、今回の報奨では、せいぜい男爵が限界だな。テレスとシルク嬢の二人を娶るとするなら、最低でも伯爵以上でないと降家させられん。まだ五歳じゃし、これから何かと仕事をさせてみるかの」
レックスとエリックとマグナの三人は怪しく笑いあった。
「よし、カインが用意ができたら謁見を開く。準備しておけ」
カインがいないところで叙爵と婚約が決まった瞬間だった。