第十四話 女の子達は強いです
カインと同年代に見える女の子二人が、侍女に支えられ馬車から降りてきた。
二人とも震えていて、お互いに手を繋いでいる状態だ。侍女も震えている。
周りを見渡し、オークの死体と事切れた騎士、重体で倒れこんでいる騎士を見て、青ざめている。
二人の少女は、両方ともまだ五歳位で、一人は金髪で肩くらいで揃えられていて、貴族の令嬢が着るような服を着ている。
もう一人は茶髪で胸くらいまでの長さで、同じく貴族の令嬢らしい服を着ている。
二人ともすごい美少女だ。
顔を見た瞬間、ガルムは一瞬驚きの顔を見せたあと、金髪の美少女に向かって、膝をつき貴族の最上級の姿勢をとった。
慌ててカインも同じ姿勢をとる。
「これは、テレスティア王女殿下、シルク嬢ご無事で何よりです」
貴族の令嬢だとは思ったけど、金髪少女は王女殿下であることに、カインは心の中で驚いていた。
「ガルム辺境伯様、危ないところをお助けいただきありがとうございます」
テレスティア王女とシルク嬢は、未だに侍女に支えられ震えながらも、丁寧に貴族の挨拶をした。
二人は、カインをチラチラと見ている。
その視線に気づいたガルムが立ち上がり紹介をしてくれた。
「カイン、こちらにいらっしゃるのは、第三王女のテレスティア・テラ・エスフォート様とサンタナ公爵の次女であるシルク・フォン・サンタナ様だ」
カインも立ち上がり自己紹介をする。
「隣におります、ガルム・フォン・シルフォード・グラシアの三男のカイン・フォン・シルフォードでございます。テレスティア王女殿下及びシルク様においては、ご無事で何よりです。急ですいませんが魔法をかけさせてもらってよろしいですか?」
カインは指に魔力を通し、魔法を唱える。
『気分鎮静化』
光りが二人の少女と侍女を包み込み、そのまま消えてゆく。
「これで気分が落ち着いたと思います」
光魔法と、創造魔法を使った魔法だ。最初、森で冒険していた頃は、魔獣の内蔵をみて具合が悪くなったためつくった魔法だ。
光りが消えたあとは、先ほどの怖さや震えがなくなっている。
笑顔のカインを見上げると、テレスティア王女殿下とシルク嬢は頬を赤く染めてしまった。
「カイン様、テレスティア・テラ・エスフォートでございます。あぶないところを助けていただきありがとうございます。とても怖かったです。もうこれで最後なのかと思ってました」
テレスティア王女殿下が涙目でカインの手を取り両手を重ねてお礼を言ってくる。
「あ、ずるい! カイン様、私からもお礼を言わせてください。馬車の窓から見ておりました。疾風のごとき勢いで魔法を撃ち、剣技も格好よかったです」
シルク嬢もカインの手を取り、お礼を言ってきた。
さすがに手をとってまでのお礼は、隣でガルムも苦笑いしている。
その後、テレスティア王女殿下付きの侍女も紹介され、お礼を言われた。さすがに二人のように手は握ることはなかったが。
「守ってくれる騎士が倒れていく中、シルクと二人でこれで最後だと思ってました。カイン様はお強いのですね、三十体のオークをお一人で討伐なさるなんて。魔法も剣技もつい見とれてしまいました」
「それにしても、なぜこのようなところにいらっしゃるのでしょうか」
ガルムが口を挟んできた。
「テレスは・・・あ、テレスティア王女殿下は、私の家のマルビーク領に来ていて、これから王都に向かってる最中だったのです。王都のお披露目会にむけて」
「そうでしたか、ではカインと同じ歳になりますな。私達もお披露目のため王都に向かう最中になります。よろしければご一緒いたしますかな」
「カイン様も同じ歳なのですね。ご一緒させてください」
それから魔物の死体の処理や、残念ながら亡くなった騎士を白いシーツで包んだりした。
テレスティア王女とシルク嬢にはあまり見せたくなかったので、先に馬車へ乗ってもらった。
「魔物の素材は私がもらってよろしいですか。その代わり、亡くなった騎士も王都までお運びいたします」
カインはそう残っている騎士に提案した。
「それはかまいませんが、この量をどう運ぶのでしょうか」
騎士は疑問に思い問いかけた。
「それは……」
ちらっとガルムのほうを見た。
ガルムは無言で頷く。
魔物の死体に手を触れると、魔物が消えた。
「「「アイテムボックス!!」」」
「はい。これくらいでしたら運べますので」
そう言いながら、次々とアイテムボックスに収容していく。
白いシーツに包まれた騎士たちも収容した。
騎士が礼を言う。
「助かります。このままここで埋葬しようと思っていました。これで家族達に引き渡せます」
「それでは行きましょうか。私達の馬車が先行いたします」
ガルムがそう言い、自分の馬車へ向かおうとする。
カインも慌てて馬車に向かおうとした。
「ちょっといいですか」
声を掛けたのは、テレスティア王女殿下だ。
「私達二人では不安なので、カイン様を私達の馬車で一緒にいてもらいたいのですが」
「それは……」
さすがにガルムも即答はできない。ただ、お願いされているのは王女殿下だ。無碍にもできない。
「わかりました。カイン、そちらの馬車へ乗れ」
「――わかりました」
ちらっと家族のほうを見たら、案の定、レイネが怒っているようだった。
見なかったことにして、馬車に乗る。
「こちらにお座りください」
シルク嬢が案内してくれる。
そして、どうしてこうなったかわからない。
両隣にはテレスティア王女殿下とシルク嬢が座っている。
目の前の席が空いているのにも関わらずだ。
「三人並んだら、キツイでしょうから私が前の席に座りましょうか」
そう、カインが提案する。
「ダメですわ。隣に座っていてください。まだ怖いのでそのほうが安心できます」
そう言って腕を絡ませてくる。
それでいいのか王女殿下!!
言葉では言えないので、心の中で叫ぶ。さすがに精神は、前世でも高校生まで生きたのだ。五歳に欲情することはない。
「テレスずるい。私も!」
そう言いながらシルク嬢も反対の腕を絡ませる。
両腕を絡ませてくるお陰で、何もできないまま、王都へ向かった。
最初は、戦いのときの記憶を思い出したのか、震えることもあったが、次の日、そしてその次の日には二人とも落ち着いていた。
カインはブルーな気持ちだが、王都につく日には、美少女二人はとても盛り上がっている。
「カイン様、私のことはテレスとお呼びください」
「私もシルクでいいよっ!」
「そんな、王女殿下に向かって……」
「テ、レ、ス!いい?」
「……はい。テレス様」
「様はいらない」
「……わかりました。テレス」
「私もっ! シルクって呼んで」
「はい……。シルク」
二人は満足したように頷く。
精神年齢が高くても、女の子にはやはり勝てなかった。姉くらいちょろければよかったのに。
そして三日が経ち、無事に王都に到着した。
それまでの間に魔物の襲撃もなく静かだった。ただ、両隣の美少女二人に挟まれながらだったのが一番辛かった。
王都の入口で受付を済まし、貴族専用の入口から入場する。
「王都の中に入りましたし、そろそろ私は自分の馬車へ戻りますね」
カインはやっと解放されると思い、二人に言った。
「何言ってるの、カイン様はそのまま私達と王城へ行くのよ。王城の横に騎士団の詰め所があるんだから。うちの騎士から、ガルム様にはそう伝えてあるから平気よ」
たしかに、アイテムボックスの中には、まだ騎士の亡骸が入っている。気持ちのいいものでもないし、頷いて同行した。
王城の入口で、テレスティアとシルクと別れ、騎士団の詰め所につくと、白銀の鎧を着た騎士が出てきた。二十代後半くらいで赤髪のイケメンヒューマンだ。
「先行した騎士たちに聞いた。二人を守っていただいて感謝する。そして同胞を運んでいただきすまないな。私は近衛騎士団副団長をしているダイム・フォン・ガザートという」
「カイン・フォン・シルフォードです。グラシア領主の三男になります。騎士たちは二人を守るために、五十体近くいたオークに立ち向かったのです。勇敢に戦いました」
「そう言ってくれるとありがたい。それではこちらで引き取ろう」
指定された場所に白いシーツで包まれた騎士たちを置いた。
普通は外で亡くなった場合は、遺品として何かを持ち帰り、遺体はその場で埋めるか燃やすらしい。
黙祷をし、祈りを捧げたあとに、王都にあるシルフォード家の別宅に向かうことにした。
「それでは、私はこれで失礼いたします」
「ちょっと待ってくれ。カイン君には、これから王への謁見をしてもらう。もちろんガルム卿も、すでにこちらに向かってるはずだ」
まさかの王への謁見となった。