番外編 「いつから世界最大で最強威力の核兵器が航空爆撃機専用の核爆弾だと錯覚していた?」
最近いくつかの漫画作品などで話題になり、一時期テレビの特番などでも話題になったソ連の核兵器がある。
「ツァーリボンバー」である。
重量27t、100メガトン級と呼ばれるこの水爆。
巷ではwikipedia含めて「tu-95を特別改修したものを使う」と書いてあるが、近年のロシアの技術公開で判明した衝撃的事実がある。
2012年。
突如として公開された情報に米国の軍事オタクは戦慄する。
「プログレス用に開発されたプロトンロケットこそ、ツァーリボンバーを核弾頭として積載するための存在で、用済みのためにロケットに転用された」
信じられないことに事実である。
UR-500と名づけられた大型のロケットこそソレである。
UR……ユニヴァーサルロケット。
西側諸国へ向けこう呼称するロケットは、ソ連が「モジュラーロケット」と呼ばれる、宇宙船どころかロケットまでモジュラー式にして打ち上げ重量に対してパーツを組み替えて柔軟に対応できるモノとして以前にも一部が公開されていた。(1980年代後半)
後にこのモジュラー式ロケットは現在の世界のデファクトスタンダードになりそうなため、こういった意味でも「ソ連のロケット技術力はどうなってんだ?」と思わせてくれる。
しかし誰がどう見ても不可思議な型番表記であったのだ。
UR-100、200の次は「700」である。
300~600まではどうした!?となる。
そして700の次は900であり、800も存在しない。
そもそもUR-100については「ICBM」として1970年代より認知されていたが、まさかこのUR-100というのがそんなバリエーションに富むものだとは1980年代後半になるまで知られていなかった。
(この公開はソユーズに日本人飛行士が乗るという頃にソ連の有人月面飛行計画と並んで公開されたものだが、公開した意味はおそらくソユーズL1計画などでプロトンを用いていて、そちらでもソユーズを打ち上げられるという事情かなにかが絡んでいると思われる)
当時の赤く染まった宇宙オタク達は「ああ、諸般の事情だな。一体何を搭載しようとしたんだ……」とすぐさま理解したのだが、これには裏があった。
それはそもそも「ユニバーサルロケットなんて便宜上そう宣伝しただけだ」というのが真実であり、実際は「どんな核兵器だって任意の場所に落とせて、もっとコストを下げられるように」と考えられた万能組換え式大陸間弾道ミサイルだったのである。
そして300~600までのものは「UR-500」こと「プロトンロケット」を含め、別の名称が与えられているのだ。
一連のシリーズなのにも関わらず型番が抜けている影響には「URシリーズは全て大陸間弾道ミサイル」という一方で、プロトンロケットは当初より商業展開を行いたかったので「今後ロシアが技術公開したらプロトンロケットのイメージが悪くなる」ということで意図的に外したのであった。
でも情報公開したら意味ないよね!
そりゃ確かに飛ばさなかった一方でプロトンロケットは大活躍して尋常じゃない回数が打ち上げられていたけど、イメージ低下したよね!
と思ったのはどうやら私のような人間だけであったようで、イメージが低下するようなことはなかった。
そして実際にUR-500は「ツァーリボンバーと同じ重量の模型」を搭載して飛行試験までやっていたのだから怖いものだ。
フルシチョフは当時から「核爆弾」ではなく「戦略核兵器」と呼称していたが、本気でアレを大陸間弾道ミサイルで飛ばすことも考えていたようである。
50メガトンに威力を絞っても爆風が地球を3周してしまったアレを、地球を3周させることが出来るロケットならぬミサイルで打ち上げようと思い、模型という形で実際に飛ばしてしまったのだ。
冷静に考えてみれば、あの時代に「航空機にて爆撃」などどう考ええも不可能なので、ソ連がそういう風な考えに至るというのは当然のことであるが、これまたアメリカのプロパガンダでは「あんなものミサイルに搭載できない」と主張されていたため、今日でもその事実が常識化していたのであった。
ツァーリボンバーの情報公開はデタントの後であるが、UR-500の技術情報の公開は5年前の2012年。
それまでの西側の常識であった「ツァーリボンバーは見せかけだけのパフォーマンス」から一転し、「本気で一撃必殺武器としようとしていた」というのが事実。
この技術公開によって、そもそも米国すら考えていなかった「重ICBM」という存在を1960年代にはすでに考え、「大量の核弾頭を降り注がせるMIRV」という存在についても早期に考えて実践していたのが明るみになる。
米国がMIRVを実用化したのは1980年代なので、核抑止力って本当に効果があったのか?と最近になって思えてくるわけで、
結果的に本編で触れた狙い撃ち攻撃とは相反する存在であるためにキャンセルされ、優秀すぎる性能なためにプロトンロケットという形となってプログレスなどをISSにまで飛ばしているわけだが、どうも公開された技術を見る限りは「米国を一撃で完全破壊できる」ということを念頭に入れて作られていたようで、第三次世界大戦の回避として「一撃で米国を倒すための爆弾」そして「ミサイル」が存在しているわけである。
そして「ミサイル」は「ロケット」という形になり、現在では「最も安定し、失敗も殆ど無い信頼できるロケット」になってしまった。
それはつまり……技術力的には現在でもそれが可能だということなのだ。
プログレスという存在が打ちあがり、経験値得れば得るほど、ツァーリボンバーを復活させて正確な射撃が可能になる……ということ。
何しろ公開されたUR-500の写真と、映像、そしてプログレスのプロトンロケットは完全に見た目が同じソレで「流用って先端部分にプログレスを入れたかどうかの違いしかないじゃないか!」と思うほどに同じで、「そりゃあ事実を隠すためにプロトンロケットなんて別称にしてUR-500の型番をシリーズ一覧から外すわな」と思わせるに十分なものである。
とはいえ、実はISSのコアモジュールたるズヴェズダとザーリャの打ち上げでは実は裏のコードネームが存在し、それらは「UR-500」と名づけられていたことが最近になって判明した。
まぁ、公開されたツァーリボンバーの模型を搭載したUR-500とズヴェズダ、ザーリャの打ち上げ時の姿は全く同じといっていいので「そういうことですか」といった程度であるが、この2つのロケットは「米国が出資」して打ち上げたものなので、自分達を一撃で滅ぼすものを運搬するために生まれたものにわざわざお金を払って飛ばしていた事を米国が知ったのは最近のこととなる。
ちなみに余談だが、UR-700の方はN1と競い合った月飛行のためのロケットであったが、当時のソ連は月への有人飛行に積極的ではなかったためにキャンセルされた。
しかし恐らく、現在までの他のURシリーズの活躍を見る限りはN1ではなくUR-700を用いた方が月への有人飛行は可能であったと思われ、月への有人飛行が公開された後、その飛行士として選抜されていたレオーノフの記述では「技術的にはN1とは別のロケットにて達成可能であった」と書かれているが、その別のロケットこそUR-700の事である。(UR-500を複数回という説もある)
本編の次回で触れる点は、こういうことが未だに可能なソ連と、どんどん技術力が落ちてきている米国に触れる予定。