報告
尋問は思ったよりすんなりいった。暴力はふるってないよ。何でも松明片手にニコニコしているお子様が怖かったんだそうな。え。誰の事ー? ちゃんとした除去方法だよ。火傷しないようにじわじわしてあげたのに。
まぁ、あれも改良が必要だな。毎回火炙りしてたら、流石にやばいやつ認定される。
ここに来てスライム祭りなわけだが、『ついて行きたそうにこっちを見ている』スライムには出会えていない。
で、不届き者たちだが。
グラン家というのは一応貴族なわけだが、小悪党が過ぎ取り潰しになったらしい。で、平民に落とされたお嬢様が、男と出会う。それがさっきのブツブツ言っていた男で、借金まみれの錬金術士だ。お嬢様は復讐のために、男は金のために、ノグリアを作っちゃったわけだ。
ここはノグリアの一時保管場所として使っていたらしい。なんか家に置いておいたら家人がおかしくなって、怖くなったのだとか。作るんじゃないよ、そんなもの。
俺たちだけで処理は無理なので、予定を切り上げて街に戻ることになった。彼らの発言を信じれば、埋めていたのは一箱だけらしい。が、経過観察が必要だろう。
しかし、錬金術士かぁ。ラダが作れるといったものとは、別物なんだろうか。それとも材料さえ知っていれば、わりかし誰でも作れてしまうんだろうか。危ない危ない。興味持ったら俺も作れるようになっちゃいそうだ。というか、箱の中身を鑑定すれば近づくだろう。自供取れたし、俺が中身を確認するまでもない。箱2つはニルバ様が持っている。あ、でも、開けて大丈夫なのかだけは見とかないとだめかぁ。
「リョンヨン! お前、どうしてここに! その姿どうした!?」
帰還中、立ち寄った村で1人の老人が叫んだ。相手は簀巻きになっているならず者Cだ。
「お前、お前、冒険者になると村を出たんじゃないのか。一体何をしでかしたのだ」
どうやら彼はこの村出身らしい。なるほど。あんな目立たない遺跡にどうやって目を付けたのかと思ってたけど、彼の進言があったのかな。
老人はニルバ様と話している。途中から泣き崩れていた。彼がどこまで知っていたかは知らないが、悪事に加担したことに変わりはない。
簀巻きの男は不貞腐れているのか、バツが悪いのか、老人と言葉を交わそうとはしなかった。
人生いろいろだなぁ。
ようやく街に戻ってきた。疲れているが、まだ報告しないといけないことがある。冒険者ギルドに直行し、途中から騎士の人とか偉い人も混じっての話し合い。ニルバ様とネルギーさんが報告をして、基本的に俺たちは「うんうん。そうでした」と相槌を打つ役。ギルド長は頭を抱えていた。
まぁ、未然に防げそうで良かったと考えるしかないんじゃないかな。捕まえていた人たちを引き渡し、箱はニルバ様が魔法鞄に突っ込んでおくことになった。処分方法がわかるまで、外に出せないシロモノだからね。
ついでにこっそり鑑定しといた。魔力は漏れてるけど、開け閉めに問題はないようだ。そういえば錬金術士が「魔力が漏れないよう俺が作った」とか言ってたけど、バッチリ漏れてるからね!
「疲れたねぇ」
帰ってきた借り家は、さしてホコリも溜まっておらずきれいだった。ラダは緊張が解けたのか、早速ベッドに潜り込んでいる。俺はリビングで、ミツの実の蜜をペロペロしている。疲れたときは甘いものだよね。しかし、これもそろそろ補充しないとなぁ。
「疲れたねぇ、コクシン」
「……」
返事がない。ただの屍のようだ。
コクシンは向かいに座っていたが、抜き身の剣を手にしたまま、放心していた。剣は中程でポッキリ逝っている。
「ごめんてば。まだ怒ってるの?」
「…怒ってはいない。自分の技量のなさに落ち込んでいるだけだ」
「ああ、自分に向いちゃったかぁ…」
ことは帰還時、あと1日で街に着くといった辺りで起こった。ワイルドボアが複数で襲ってきたのだ。いつものボアより一回り大きくて、牙がデカい。
俺はいつものように、土壁で勢いを殺そうとしたのだが。そいつはヒョイっと巨体でジャンプし、壁を蹴ってこっちにダイブしてきた。ここで俺が慌てた声を出してしまったことで、離れて戦闘中だったコクシンはあろうことか自分の剣をこっちのボアに向かって投擲した。焦って投げた剣はあさっての方に飛び、俺はとっさに出した石の杭でボアを貫くも押し潰され、コクシンは相手にしていたボアに頭突き攻撃を受けた。ネルギーさんとカタンスさんが、サクッと倒してくれたが。
そんなわけで、投擲した剣は折れ、俺は血生臭くなり、ネルギーさんたちに心配され、ラダに泣かれた。
「油断してるつもりはなかったけど、やっぱり『いつものように』は油断してたってことなんだろうな。だからさ、コクシン。コクシンは『気を抜いてんじゃない』って、俺を怒るべきだと思うんだよ」
そう言うと、コクシンはゆるゆると小さく首を横に振った。
「もっと別の方法があったはずだ。ただ当たりもしない剣を投げつけるだけなんて…私が、もっと早く倒して、駆けつけれていれば…」
「んもう」
なんで自分だけ責めるかなぁ。
「あのねぇ、俺はパーティーメンバーであって、保護対象でも警護対象でもないんだよ。割り振られたぶんぐらい倒せよとか言っていいんだよ」
「そんな…」
顔を上げたコクシンはどこか痛そうな顔をしていた。すぐに自分を追い詰めていくんだよなぁ。普段は当たり前のようにこっちに丸投げしてくるくせに。
「庇われてコクシンが怪我したら、俺だってつらいんだよ。それとも、俺はそれを当然だと気にしないと思う?」
「そんなことはない」
「だったらさ、そんな辛気臭い顔しないでよ」
「分かった…」
しゅんとしたように再びうなだれ、剣を鞘に戻すコクシン。だめだこりゃ。今日一日テンション下がったまんまかな。
「ご飯作ろうか。何がいい?」
疲れてるから出来合いのもの買ってくるつもりだったけど、ここは美味しい(当社比)でテンション爆上げしてもらおう。この空気正直しんどい。
「…美味しいもの」
しょげつつしっかり回答だけはするコクシン。それ難しいやつ。『なんでもいい』と同列ぐらいに困るやつ。えーと、何が作れたかな。魔法鞄の中身を確認する。件のボア肉があるんだけど、話題ぶり返しそうだなぁ。
「明日、剣見に行こうね」
「うん」
素直か。
「鶏肉買ってきてくれる?」
「う…。じゃなくてイヤダ」
頷きかけたコクシンがハッとしたように首を横に振った。ちっ。相変わらずお使いは嫌か。仕方ない。
「例のボア肉使うけど、剣の話したら没収するからね」
「わ、分かった」
よしよし。じゃあ、えっと、うーんと。俺のレパートリーのなさを舐めんなよ。なんも出てこんわ。もう、トンカツでいいか? 投げやりになっていると、俺の腹が拒否した。なんだよ、さっぱりがご所望?
ということで、豚しゃぶにした。あ、豚じゃないや。ニルバ様にレモンたくさんもらったから、それで食おう。はっ。地味に薄切りにするのが面倒くさい。スライサー作ってくれないかなぁ。あとミンサー。ハンバーグ作りたい。あ、ハンバーグにしようかなぁ。いやミンチにすんのも面倒だな。はーもう、何にしよう。