[go: up one dir, main page]
More Web Proxy on the site http://driver.im/
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/235

ロマンと虚無と

 弓を構える。目標はロックボア。ガリガリとしきりに地面を足でかいていて、こっちには気づいていない。


ひゅんっ!


 矢は見事に目に命中…と思ったら、当たる瞬間に頭を振られたようだ。矢が刺さらず落ちるのを見ながら、次のを構える。顔がこっちを向いた。


「しっ!」


 矢を放ってすぐ、体をひねる。額のあたりに矢を受けながらボアが突っ込んできた。


ガツっ!


 ボアの体が不意に横倒しになり、そのまま首の辺りから血しぶきが舞った。


「危ないな。なんで壁を出さないんだ」


 脇からコクシンが出てきた。ちょっと怒っている。そりゃそうだな。一人でやるといった結果がこれじゃあな。


「あーうん、ごめん」


 じっと見られる。


 ボアの額から矢を抜いた。浅い。これではいくら撃っても致命傷にはならないだろう。やっぱり小動物が限界か。


「レイト?」


「うん、ごめん。次から気をつける」


 はぁと小さくため息をつかれた。


「怒っているわけじゃない。なにか理由があるなら、それはそれで構わないんだが…」


 理由か。まぁ、呆れる理由なのだ。


 実際、弓は土の魔法で代用できてしまう。代用どころか、指鉄砲のほうが威力も射程距離も速度も段違いに良い。減るのは魔力だけでお金もかからない。とっさに撃てるし、体勢が崩れていてもどうにかなる。

 それでも弓を使いたいのは、いわゆるロマンである。


「はぁ? ろまん?」


 ロックボアの処理をしながら、自分で笑う。コクシンは周囲を警戒しつつも、意味がわからんと目を丸くしていた。


「ロマンっていうかなんていうか、せっかくスキルとして持ってるんだからさ、育てたいんだよ。俺のアホな妄想かもしれないけどさ、なにかあると思うんだよね」


 ぶっちゃけて言えば、ゲームのようなとんでも技が使えるようになったりしないかなーという野望だ。ホーミングとか連射とか、何なら龍の咆哮みたいなのとか…。


 コクシンは『剣術』を持っている。俺が教えるまで飛ぶ斬撃なんて使えなかった。でも、できたのだ。イメージと技量さえあれば、俺だって使えるはずなのだ。魔法と組み合わせなくても。

 だって、じゃないとスキル化の有難味があんまりないよな。コクシンによると、一般的にスキル化すると、武器の扱いが軽くなる、最適な軌道が見える、威力が上がる…と言われている。俺の矢がしょぼいのはただの力不足だ。スラッシュっぽいのはあるらしいけど。


 あと、魔力が使えなくなった場合も想定している。魔力切れ、あるいはダンジョンに魔法不可の領域があるかもしれない…とか。


 まぁそんなわけで、わざわざ弓を使っていたのだ。


「でもだからって無理は良くないよね。狩りのときは極力安全策を取るようにするよ」


 血抜きしたボアを仕舞ってもらう。


 コクシンは小さく笑った。


「そうしてもらえると、私も安心だ。だが、事前にどうするのか分かっていれば、ある程度は対応できる。やりたいならやればいいさ」


 男前の発言ありがとう。だめよ、甘やかしちゃあ。


「じゃあ、今度はうさぎでやるね!」


 コクシンの顔が、あれだ、チベットスナギツネに…。反省はしてるよ!


 ところで今日の依頼は、ロックボアではない。マントラコラだ。間違ってないよ、マンドラゴラじゃない、マントラコラ。顔っぽいのがある二股の野生の大根。いや、マンドラゴラじゃねーの?って思うけど、違うんだなぁ。


「あ。あれじゃないか?」


 コクシンが指差す先に、ゆらゆらと大根が揺れていた。くねくねしながら。…きもっ。


 トゲトゲの葉っぱたちの中央に茎があって、そこに大根がぶっ刺さっている。ちょうどパイナップル的ななり方だ。おしり的なのが茎と繋がっていて、自由な足がくねくねしている。偶に他のと絡み合っている。


 近寄ると、警戒なのか縦揺れをし始めた。怖い…。


「…引っこ抜くんだっけ?」


 振り返ったコクシンが無表情だ。


「うん。声は出すけど攻撃はしてこないよ。俺がやるから、コクシンは警戒をお願い」


「いや、私もやろう。そのほうが早く済む」


「わかった」


 ということで2人で収穫だ。白い大根部分をむんずと掴み、上に引っ張るとスポンと抜ける。離れると死ぬのか、動かなくなった。それを用意した布袋に放り込んでいく。


「あー」「あー」「あ〜」「あ゛ッ」「あー」


 引っこ抜く度にマントラコラが声を上げる。特になんの作用もないのだが、見た目と相まって地獄絵図だ。たまに色っぽい声を上げるのがいて、イラッとくる。


「こんなもんでいいか」


 なんとか規定量以上を採ることができた。


『マントラコラ

植物系魔物。繁殖力が強いが攻撃力はない。白い体(実)は食べられる。麻痺毒があるので生食は不可。煮ると麻痺毒は消えるので、まるごと煮て日干しにするのが一般的。類似品のマンドラゴラのように薬効はない』


 袋の中いっぱいの二股大根。虚無を浮かべた顔っぽいのが健在なのが地味に嫌だ。


「レイト」


 虚無と見つめ合っていたら、コクシンから警戒の声が飛んできた。周囲に気を配ると、何かが歩いている音を拾った。1つ、2つかな。


「ゴブリン」


 俺が辛うじて聴き取れる声で、コクシンが呟いた。


 ゴブリンか。なにげに俺出会うの初めてだな。


 この世界のゴブリンは、人間の子供サイズの緑の肌をした二足歩行の魔物だ。つまり俺と同サイズ。前屈みに歩いていて、細長い手足に裂けた口、不揃いの歯と爬虫類っぽい目。


 うん。二足歩行に忌避感あるかと思ったけど、そうでもないな。あれは別物だ。コクシンと目を合わせる。指を1本立てた。1体ずつってことだ。

 討伐部位は耳だったな。頭は避けて…。


「ぎぎゃ!?」


 射程範囲に入ったところで、土魔法を発動。びきびきっと、1体の足元が固まった。もう1体はコクシンが処理するから、大丈夫。


 弓を構え、矢を番える。イメージは追撃。1度で2度攻撃したことになる。


「しっ!」


「ぎゃぴっ」


 だめだ、浅い。その横でコクシンが普通に1体を切り捨てている。もう一回。悪いが君には練習台となってもらうよ。


 結局、3射した。


「お?」


 自分が倒したゴブリンを見ると、刺さっている矢に並ぶように浅い穴があった。追撃が成功しかけていたのかもしれない。いいねいいね。最初に足止めすれば、なんとかなりそうだ。あとは単純に筋力を上げ、弓を強いものにする。とはいえ、身長次第になるけど。



 ちなみに、本日ラダはお留守番である。街にいる間、ラダは引きこもって薬を作ることになった。それを市で売る。売れるようにわざわざランクを落として作ってもらう。嫌がるかと思ったが、「わかったー」の一言だけだった。本当はいいのを作って、どこかの薬店にスカウトされたらいいのだが。本人は旅が楽しいらしい。



 さぁて。帰ろう。

 さっきちょっとやばいの見つけたんだ…。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 濁点の部分に薬効と攻撃力が詰まってるんですかね
2023/01/20 21:32 元お面
[良い点] ランク落とすのって手を抜けばいいのかなw 矢と言うか弓のスキルになるのか [一言] マロンか・・・ モンブラン美味いよな・・
2023/01/20 17:00 アキ2019
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ