冒険者になろう。
異世界転生といえば、チートやハーレム、もしくはスローライフだろうか。冒険者とか貴族とか、もふもふとか、ざまぁとか、まぁ主人公ともなるといろいろある。
現実、そんな甘いことにはならない。
俺が“そうだ”と気付いたのは、一歳を過ぎた頃。不意に「俺って変じゃね?」と思った。ココではないどこかの記憶があるし、なんなら教えてもらわずとも計算が出来る。まぁ出来るということに違和感を覚えたわけだ。
もちろん、「これが異世界転生…」と、期待に震えた。前世の事は細かく覚えていないけど、それ系の読み物が好きだったようだ。もしそうなったらどういうスキルが欲しいか。どういう仲間が欲しいか。妄想した。いや、するよね?異世界三種の神器とかさ。
でも現実。主人公属性じゃないっぽい俺。
まず、生まれが辺境の果ての町。村以上街未満的なとこ。家は農家で、上に兄が三人、姉が一人の末っ子。で、長男以外は奴隷扱いのクソ風習。俺なんて一人歩き出来るようになったら、馬小屋住まいを言い渡された。虐待じゃね? 幼児を一日中働かせるとかさぁ…。
一応知識チートやろうとは頑張った。でもまともに話聞いてくれないし、俺の知識も拙い。いや、石鹸の作り方とか井戸のポンプとか知んない! あれだけ読んだのにふわっとしか知んない!
しかもこういうのって協力してくれる人が居てこそだよね。第一村人が異様に親切だったり、実は凄腕の親方が居たりとかさ。もう、勇者(予定)の幼馴染でもいい。親? 何を言おうととりあえずボコられますが、なにか?
ガンッ!!
つらつらと境遇を嘆いていたら、背後で鈍い音がした。振り返ると、長男様のご登場である。
「まだそんなとこチンタラやってるのかよ!さっさと外も片付けろよ!!」
俺が今修理中の農機小屋の壁を殴りご立腹だ。いや、あんたが言い渡された仕事だよ。というか壊したのもあんただよ。と、言えるわけもなく。
「すぐやるよ」
続けようと手元に視線を落としたら、背中を蹴られた。ずしゃっとトンカチを持ったまま付いた手が痛い。でも我慢我慢。
「…ふんっ! 今日中にやれよ! 出来なかったら飯抜きだかんなっ!」
偉そうに吐き捨て、踵を返すご長男様。なんということでしょう、あれで十三歳なのです。どこぞのチンピラかという言動しかしないけど、両親の前では猫を被っているので、優秀と思われている。そのお兄様の仕事、ほとんど俺がこなしてるんですけどね。
彼は外面がいい。仕事を俺に丸投げし、女の子達と遊んでいる。親は「教会行ってくる」と言えば疑わない。顔だけはイケメンに入るだろうが、中身はクズだ。これが後を継ぐとか、破滅の予感しかない。
まぁ俺はもうすぐ家を出るけどな!!
この世界は、いわゆる剣と魔法のファンタジー世界だ。そしてステータスもスキルもある。魔物も居る。魔王は聞いたことはないが、ダンジョンはある。
このステータスとスキルを授かるのが7歳だ。これをもって成人とみなされる。前世の感覚からすると早すぎるが、この世界は早熟っぽい。まるで草食動物のように、すぐに立ってすぐに一人前になる。死亡率も高いが。
とりあえず、俺はもうすぐ7歳になる。数えで7歳になったその時に、ステータスとスキルの使い方を唐突に知るのだそうだ。授かったものが何であろうと、俺はこの町を出るつもりだ。その準備もバッチリしてある。冒険者になるつもりだが、一人になれるならなんでもいい。