森で活き活きする俺。
南門を出て、街壁沿いにぐるっと回って、北門から帰るコースで行こうと思う。西側がすぐ森だから、多分一通り揃うはずだ。ギルドの資料にも書いてあった。
流石にどこにでも生えている薬草、トキイ草。だがこの辺のは採取に向かない。薬効があるのは、天辺から3枚目までの葉っぱだ。この辺のはすでに毟られている。
いや、今日の依頼はミツの実だっけ。
ミツの実は針葉樹っぽい木に生る。クルミくらいのサイズで、固い殻を剥くととろっとした蜜が出てくる。蜂蜜よりかは素朴な味だけど、いいオヤツだ。
周囲を警戒しつつ、まずは木を探す。
あ、トキイ草。これは採れる。えーと、ミツ…あ、あれは肉の臭みを取るのに使うやつ。はっ、こっちはリドリス草、依頼にあったやつ。むむ、ロッカもあるな。おー!グレイン茸。うまいキノコ!
気づけば夢中になって、地面に這いつくばっていた。いかんいかん。まずはミツの実を採取してからだ。
すべて鞄に放り込み、改めてミツの実を探す。
どれほど歩いたか、ようやくお目当ての針葉樹っぽい木を見つけた。見上げると、ポツポツと実が付いているのが見えた。もちろん手は届かない。木に登るか、何かをぶつけて落とすかだ。
ここはいっちょ練習がてら、土魔法でやってみよう。
鳥を落としたときよりだいぶ威力を落とし、かわりに数を撃てるようにする。指先で正確に狙って…と。
ちっ!
なにか舌打ちみたいな音がした。葉を掠っただけなので外れ。どんどん撃つ。そのうちパシッと枝とくっついている果柄を撃ち抜けるようになってきた。ある程度落としたら、回収。これを繰り返す。
「うっ」
頭痛が来た。魔法の練習はここまでだ。
「うーん。もうちょっと欲しいな」
自分用にある程度確保しておきたい。
ということで、別のミツの木を探す。薬草もキノコも実も、取り過ぎは良くないからね。
次に見つけた木には、登って採る。つるつるの樹皮の木で、上の方まで枝がないので体1つで登るのは難しい。が、俺にはロープがある! 木を挟むようにロープで足を固定。手の方も同様にして、あとは尺取り虫のごとく登れる。こっちの世界ならではの身体能力がなせる技だ。
わしわし登り枝に着いたら、ロープは命綱代わりに太い枝に括り付けておく。あとは俺が乗っても大丈夫そうな枝まで動き、採りまくる。
十分採れたら、逆再生して地面に戻る。最後5メートルくらい一気に落ちてビビったけど、怪我はしなかったよ。
よし。依頼完了。あとは肉だな。
いったん壁際まで戻る。コップに水を出して、喉を潤す。ついでに腹を満たそうと、堅パンを取り出す。そこにこれ、ミツの実。ナイフで端っこに穴を開ける。ペキッと割れたら殻をのけ、堅パンの上にとろ~りとかける。
「あんまぁ」
砂糖は高いから、甘味は貴重だ。いや、蜂蜜はあるけど。なかなかに蜂蜜も高かったりする。養蜂してないしね。
何気にミツの実は日持ちがするから、旅のお供にぴったりだ。加熱できないのが残念だけど。火を入れると成分が変化するのか、苦味になってしまう。
腹が満ちたので、次は狩りだ。また少し奥に入り、気配を探る。ウサギがいいな。鳥でもいい。イノシシクラスが出てくると、手に負えなくなる。あ、でも土壁作れたらいけるかも。
しばらく静かにしていると、かさっかさっとリズムよく音が聞こえた。これは多分ウサギ。弓を構えながら、音の発信源にゆっくり向かう。そういや、新しい弓慣らすの忘れてた。
居た。普通のウサギじゃなくて、角のある一角ウサギ、魔物の方だった。まぁ問題ない。突進だけ気を付ければ、同じように狩れる。
しっ!
ぎりぎりと弓を引き、狙いをつけてそっと指を離す。
「ぴぎゃっ」
外れた!! ウサギの眼の前に矢が刺さってしまった。びょんと真上にジャンプしたウサギは、ギロリと俺の方を睨んだ。普通なら逃げるのに、魔物は好戦的だ。
バネのような後ろ足で、助走もなくこっちにジャンプしてきた。
「土壁!」
盾のような壁をイメージして、魔力を放つ。
どかっ!
一瞬で土の壁が出来上がり、その向こうで鈍い音が響いた。俺の身長より大きな壁が一瞬で現れたのはいいけど、向こうが見えないのが困るな。警戒しつつ、作った壁を土に戻す。ざらざらっと崩れた土に埋もれるように、薄茶色の毛皮があった。動かない。
「ふぅ~」
ちょっと魔力を使いすぎたのか、こめかみの辺りがズキズキする。が、森の中で休憩もしていられない。
土を払い、一角ウサギが死んでいることを確認した。外傷がないから、多分首の骨折れたんだな。その場で首をかっ切り、血抜きをする。あ、角は回収しないと。血の匂いに他のが寄ってこないとも限らない。内臓もその場で抜いておく。それらを土で埋めて、さっさとその場を後にする。
「ちょっと調子に乗った…」
リリーさんも言っていた。魔法使いは魔力を温存しないといけない。面白くなって、ギリギリまで魔法撃っちゃってたからな。反省。
ちなみに魔力も体力も、時間経過で回復する。数値では分からないが、感覚的に“今これくらい”というのが分かる。だから、常に残量を意識していないといけないのだ。
外壁にもたれて、呼吸が落ち着くのを待った。落ち着いたら、ウサギの皮を剥いでいく。肉はブロック肉にして、大きな葉っぱで包んでおいた。防腐作用のある葉で、重宝している。皮はきれいに脂をこそげ落としておく。そういえば皮の買い取りってあったかな。
これにて本日の任務は終了だ。思ったより疲れた。門をくぐるまでが、お仕事でもある。気を引き締めて、もう帰ろう。
とか言いつつ、帰るまでに目に付いた植物を採取している俺だった。反省しろ。