アストロノミカル・ミーティング
目の前に現れた彼は天文学者だと言った。
その長めの黒髪は降り続く雨でうねっていて、くせ毛に悩む私は小さな共通項にほんの少し親近感を抱く。
「あの、天文学者ってどんなお仕事ですか?」
「主に宇宙や天体の研究をしています。あとはひたすらデータ解析を」
持ち上げたコーヒーの湯気で眼鏡が曇り、彼の目元はすっかり隠れてしまった。
それでも丁寧に説明を続けてくれるので、婚活連敗中の私は一生懸命彼の話を聞く。
よくわからないが、ひとまず難しい研究をしていることはわかった。
「それじゃあ、宇宙人の調査とかもするんですか?」
そう言ってしまってから、慌てて口を噤む。
目の前の彼の目元は未だ隠れたままだ。
――やってしまった。
気を付けているつもりだけれど、私の発言は「バカっぽい」らしい。
「だからおまえはダメなんだ」と、小さい頃から親にずっと言われてきた。
年末の同窓会でも「あんたって昔からダメだよね」と皆に笑われて。
そう、私はダメなやつなのだ。
だから何事も中途半端で、ただ流されるがままに生きていて――
「――よくわかりましたね」
そんな負の思考を断ち切ったのは、低音の呟きだった。
いつしか眼鏡の曇りは消えていて、その瞳はまっすぐ私を捉えている。
「僕が天文学者を志したのは、宇宙人に逢いたかったからなんです」
「……え」
思わず洩れた声に、目の前の彼が表情を少しだけ緩めた。
「子どもの頃映画で観た宇宙人が格好良かったので……それがきっかけで」
そう語る彼の瞳はきらきらと輝いて見える。
まるでそれは夜空に輝く星のようで――眩しいその光に照らされ、私は思わず目を伏せた。
「夢を叶えられて、素敵ですね。私なんて、全然ダメで」
「そんなことないですよ」
思いがけない言葉に顔を上げると、彼は真剣な顔をしている。
「あなたは僕の話を一生懸命聞いてくれました。他の人たちはすぐ勤め先や年収を訊いてくるのに……こんなに穏やかな気持ちになれたのは初めてです」
「ごめんなさい、でも私、お話よくわからなくて」
「それは僕の話が下手だからです。あなたは優しい方ですね」
そして彼は優しく微笑んだ。
「よろしければ、今度お食事でもいかがですか」
「え……私と?」
「はい、今度はもっと面白い話ができるよう頑張ります。折角天文学的な確率であなたに出逢えたんですから」
真剣な表情でそんなことを言う彼に、私は嬉しくて笑ってしまう。
窓の外では雨が止み、遠い夜空に星がきらきらと瞬いていた。
最後までお読み頂きまして、ありがとうございました。
本作は『天文学』というテーマで書いた作品です。
本作を書くにあたって色々と調べてみたのですが、天文学者の中には『宇宙生物学』を研究されている方もいらっしゃるそうです!
私が書く作品にもたまに宇宙人が出てきますが、もしかしたらその存在が見付かるのは遠い未来の話ではないのかも……!?
夢が広がりますね。友好的な関係が築けたらいいなぁ(´ω`*)
お忙しい中あとがきまでお読み頂きまして、ありがとうございました。