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精霊の友として  作者: 北杜
九章 王都脱出編
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閑話 帝都での出来事②

 ロックマイヤー公爵邸の客間には数人の客人が居る。

 トルクに屋敷を半壊にされ、命と髪の助命を願うソバーレル公爵。

 前世日本人で、皇帝の使者として訪れている第四皇女シャルミユーナ。

 トルク達が滞在している屋敷の主であるロックマイヤー公爵。次期当主のクリスハルト。その妹で皇女の学友であるルルーファル。

 帝国では悪人と名高い、トルクの従者希望者ボルドラン。

 罰を受けて名誉挽回に励んでいる帝国の英雄ウルリオ。

 元皇女でトルクの姉的立場の半精霊ララーシャル。

 合計八人が客間に居る。……正確には元凶である精霊ドラゴンが居るので九人。


「……だいたい理解したわ。トルクは元王国貴族アイローン伯爵の側室の子供で、ソバーレル公爵邸に滞在しているアイローン伯爵から妹を助ける為に乗り込んだのね。そしてアイローン伯爵とソバーレル公爵と戦う為に精霊の御力を使い、その結果が帝都で起きた地震とソバーレル公爵邸の地盤上昇。そして精霊の御力を使い過ぎてトルクは寝込み、救出したトルクの妹とその母親とファーレンフォール伯爵当主の妹の子のオーファンが行方不明」


 シャルミユーナが全員から聞いた話を纏めた。

 ため息をつくシャルミユーナ皇女は、転生者仲間である元日本人のトルクがトラブルメーカーだった事に驚き呆れている。しかし心の中で『そんな情報聞いてないわよ! 少しは隠密行動してよ! 今の帝都の状況を考えて行動してよ!』と怒り心頭だった。


「現在、帝都には後継者問題が起きていて、帝都で争いを起こすのは厳禁なのは知っているでしょう。……ソバーレル公爵、貴方は後継者争いから大きく後退したわよ」

「御使い様に武器を向けたと知った時点で、私は皇位を諦めました。今は助命嘆願して命と髪を許してもらい、ロックマイヤー公爵と同じく王国との和平に尽力します」


 シャルミユーナは『本当にソバーレル公爵本人なの?』と考える。『皇帝の血筋をひく私こそが皇帝の座に相応しい!』と豪語していた野心家かつ戦争派のソバーレル公爵が、一転して『皇帝位を諦めて王国と和平する』と言っているのだから。

 ソバーレル公爵を知っている者達は『ボルドランがソバーレル公爵を洗脳した』と考え、ララーシャルとルルーファル以外の者達がボルドランを見たが、「これも御使い様であるトルク様の御威光の賜物でしょう」とすまし顔でうそぶく。そして、


「現在の状況ですが、サンフィールド公爵、ヤンキース辺境伯、エルアーモ皇子の三名も御使い様が帝都に現れたとの報告を受けたはずです。彼等がどのような行動に出るのか……」

「サンフィールド公爵から手紙を貰っています。内容は『ロックマイヤー公爵に囚われている兄妹を救い出す為に協力しよう』という内容です。近々サンフィールド公爵は動くでしょう」


 ボルドランの説明を遮り、ソバーレル公爵が話す。信頼を得ようとしての行動だった。


「後で手紙をお渡しします」


 手紙はソバーレル公爵邸にあり、地盤上昇の影響で屋敷に帰るのが難しいが、自分しか知らない場所に隠しているので他人に任せる事が出来ない。頑張って登らなければならないと覚悟を決めるソバーレル公爵。しかし、


「その手紙ならこれかしら?」


 ララーシャルが手に持っている手紙はサンフィールド公爵からの手紙だった。驚きのあまり声が出ないソバーレル公爵。そしてララーシャルを知るロックマイヤー公爵、クリスハルト、ボルドランは『精霊だからな』と納得する。


「それからこれも返しておくわ」


 と、ソバーレル公爵に裏帳簿と暗殺依頼書とラブレターも一緒に渡す。恐る恐る受けるソバーレル公爵は『どうして此処にあるのか! 御使い様にバレていたのか!?』と恐々の表情だ。

 受け取り後に、にっこり笑ったララーシャルから「不正しないようにね、殺しも駄目よ」と釘を差され、ソバーレル公爵は「……分かりました」と膝を折って臣下のように頭を下げた。

 そしてシャルミユーナに手紙を渡すソバーレル公爵。それを読む皇女殿下は、


「……反逆罪に近い手紙なのだけど。どうすれば良いのでしょうか?」


 ため息をつく。事情を聞くために使者として来たけど、皇女として裁ける権限を超えている。そんなときボルドランが言った。


「トルク様の命により、ソバーレル公爵はロックマイヤー公爵と共に王国との和平を目指す部下となりました。その部下を勝手に裁いてしまったら御使い様の怒りを買う事になるかもしれません。ですからトルク様が判断されるまで待っていただいた方が良いのではないでしょうか?」


 いつの間にかソバーレル公爵はトルクの部下という事になっている。ボルドランの闇魔法を受けているソバーレル公爵は「その通りだ。私はトルク様の忠実な部下だ」と周りに伝える。


「しかし皇族として、トルクに迷惑をかけない為に、私達で裁いた方が良いと思うけど?」

「裁くのはトルク様の目が覚めた後でも出来ますし、罪状も揃っていますので裁くのは容易です。しかし皇位継承権を辞退したソバーレル公爵は皇族に必要な人材になったのではないでしょうか?」

「政治的な事は私には分かりません。皇帝陛下には貴方の口で説明して頂戴。ロックマイヤー公爵、貴方はどう思いますか?」

「……皇帝陛下の命に従います」

「今回の話の内容は皇帝陛下にお伝えします。そして騒動の元凶であるソバーレル公爵には皇帝陛下から罰を受けて頂きますが、御使い様であるトルクに相談して決めた方が良いと判断します。……ララーシャル様、それでよろしいでしょうか?」

「そちらの都合に任せるわ。あ、でもトルクの大事な家族を不幸にしたアイローン伯爵だけは、トルクが直接裁くかもしれないから、牢屋に入れて反省させておいてね」

 

 シャルミユーナは使者としての判断はこれで良いのかと思案する。そしてレンブラントにいてもらえば良かったと考える。皇帝からの使者を詐称してロックマイヤー公爵邸に乗り込もうとしたから追い返してしまったのだけど、こんな事なら引き留めておけば良かった。病的な性癖をしているが、能力だけは優秀なのだから。


「では私は今から皇帝陛下に事情を説明して罪を償います。トルク様によろしくお伝えください」


 本当にソバーレル公爵本人なのか? 御使いは人格を変え更生させることができる存在なのだろうか? と全員が思った。ボルドランの闇魔法でも、ここまで変えるには相当の時間が必要になる。ウルリオは小声で「お前の仕業か?」と聞くが、「私にはここまで出来ん」と言って、ボルドランは改めて御使いの凄さを、ウルリオは御使いの恐ろしさを感じた。


「ソバーレル公爵、貴方が一人で説明しても信用されないわ。私も一緒に行きます」


 シャルミユーナはトルクの見舞いもしたかったが、今日は無理だと判断した。帝都の混乱を抑える為に皆が働いているので、代わりにルルーファルに見舞いを頼んだ。




 現在のトルクはスヤスヤ寝ている。寝坊助を叩けば起きるように思うくらいに寝ている。

 だが、実際にララーシャルがいたずらで頬を伸ばしたりしたけど、起きる形跡はなかった。

 トルクが寝ている側で看病をしているベルリディアは兄の無事を祈りながら、ベッド脇の椅子に座ってトルクの寝顔を見守る。……これって本当に看病っていうのかしら? と考えていた。

 兄のオーファンが殴られ屋として倒れた時も看病していたけど、あの時ほど心配をしていないベルリディア。オーファンよりも強いトルクだから大丈夫と思っている。それにトルクならすぐに目覚めてオーファンを助けてくれると信じていた。


「ベルリディアちゃん。トルクはどうかしら?」


 部屋に入って来たのはララーシャルとルルーファル。二人ともトルクの様子を見に来た。


「特になにもありません。トルク様はいつも通りゆっくりと寝ています」


 イビキも寝言も何もなくスヤスヤと寝ているトルク。

 ララーシャルは眠っているトルクの頬を伸ばして、「私が大変なのに、寝て過ごしているなんてズルいわ」と文句を言う。八つ当たりに近いような行動だが、ララーシャルがトルクを見舞うときに必ず行っている確認だった。そして、


「ララーシャル様、何度も頬を伸ばしたら、頬が膨れてしまいます」


 ベルリディアがララーシャルの行動を止める。これでララーシャルは頬を伸ばすのを止めるのが、毎回しているやり取りになっている。

 そして弟を見守るような慈愛に満ちた表情でトルクの髪を撫でるララーシャル。ベルリディアやルルーファルは、母親が愛しい我が子に見せる表情に似ていると思った。

 ベルリディアはトルクとララーシャルには家族のような関係だと思い、ルルーファルには二人は歳の離れた恋人のような関係だと思った。なので、


「トルク様とララーシャル様は恋人なのですか?」


 ルルーファルの言葉に驚くベルリディア。ララーシャルはトルクを見て、ルルーファルを見て言った。


「恋人ではないわね。恋人よりも深い関係かしら」


 なぞなぞの様な答え。恋人よりも深い関係と聞いて悩むルルーファルを見て笑うララーシャル。


「トルクとの関係は一心同体の友人であり家族って感じね。姉って立場が一番近いわね。だからベルリディアちゃんが好きになっても応援するわよ。もちろんルルーファルさんもね」

「ララーシャル様!」


 顔を真っ赤にするベルリディア。二人の言葉を聞いてルルーファルはベルリディアがトルクに好意を抱いているという事が分かった。


「私は公爵家の人間なので政略結婚になるでしょう。まだ婚約者はいませんが、お父様が決めた方と結婚すると思います。だからベルリディアさんを応援しますよ」


 ルルーファルはトルクとララーシャルは家族の様な関係と理解した。前に祖母のルルーシャルから『精霊は親しい友人であり家族』と聞いた事があったので、二人の関係もそうだと判断した。

 そしてトルクの事を好いているベルリディアが少し羨ましいと思った。ルルーファルがトルクの婚約者になるのなら幸せになれると思った。

 ルルーファルの婚約者はレンブラントになる可能性がある。彼が本気を出せばルルーファルは婚約者になるだろう。そして数年後には離婚されて傷物令嬢となり、どこかの高齢貴族の後妻になる将来。

 しかし公爵家の娘として生まれたのだから仕方がないと諦めている。皇女殿下に「好きな人いる?」と聞かれても、「お父様が決めた方と結婚して、その後にその方を愛します」と答えた。

 それを聞いた皇女殿下は「……私は好きになった人と結婚したい」と愚痴っていた。シャルミユーナも政略結婚となる事は決まっているので、ルルーファルはシャルミユーナの気持ちが分かる。

 でもベルリディアも皇族の一員となったらトルクと結婚は難しいのでは? と考える。なので、


「ベルリディアさんが先代皇帝の御息女だったら、政略結婚となると思います。ですからトルク様と結婚を希望するなら根回しをして段取りを組まないと難しいかもしれませんね」


「大丈夫よ、ベルリディアちゃんは皇族ではないから」

「ララーシャル様!」

「あ、そういえば内緒だったわね。これ内緒ね」


 ベルリディアが皇族でない。だったら兄が皇族という事になると理解する。そして、その兄オーファンは行方不明だと知っているルルーファルの表情は固まった。


「……ルルーファルさん、動いてないけど大丈夫?」


 ララーシャルの問いに答えないルルーファル。よほどの衝撃だったようだ。そして、


「オーファンさんが先代皇帝の御子息……」

「それよりもルルーファルさんの方よ。政略結婚は上手く行かない可能性が多いわ。私も政略結婚予定だったけど、相手から断られたわ」

「そうなのですか?」

「そうなのよ、ベルリディアちゃん。皆の為と思って、会った事ない相手と結婚する予定だったけど、性格が悪くて『傷物女なんて誰が娶るか』って言ったのよ。酷いと思わない?」

「酷い相手ですね……」

「友達や侍女が慰めてくれたりしたけどショックで泣きそうだったわ。今思うと本当に怒りが込み上げてくるわね。だからルルーファルさん! 政略結婚が嫌なら嫌って言わないと不幸になるわよ。……聞いてる?」


 ルルーファルはオーファンが皇族と知ったショックがまだ抜けておらず、ララーシャルの話も聞いていなかった。


「……オーファンさん、いえオーファン様が皇族なのですか?」

「そうよ。あ、オーファン君が好みだった? 魔法も使えるようになったし将来性は良いわよね。皇族と公爵令嬢ならつり合いも取れているから大丈夫……」

「そんな事ではありません! 行方不明ですけど本当に大丈夫なのですか! それよりもお父様はこの事を知っているのですか?」

「知っているわよ。証拠はそろってないけど」


 正気を取り戻したルルーファルはララーシャルに問いただす。しかしララーシャルは重要性を理解していないようにルルーファルは感じた。


「もしもオーファン様の事が敵対勢力にバレたら大変な事になるのですよ! 早く見つけないといけないのに、どうして落ち着いているのですか!」

「大丈夫よ、心配しないでルルーファル。オーファン君はきっと無事だから」


 穏やかな表情のララーシャルに神秘的な優しい声で話しかけられ、ルルーファルは恋バナをしていた時とは別人の様なララーシャルに見惚れて落ち着きを取り戻した。


「ルルーファル様、お兄様は大丈夫です。ララーシャルが言うには精霊様が近くに居るはずですから。それにもうすぐトルク様も目覚めます。そしたらすぐにお兄様の居場所が分かります」


 妹であるベルリディアも心配ないとルルーファルに伝える。

 ルルーファルは二人がオーファンの無事を信じていると理解した。いろんな経験を積んだオーファンなら大丈夫だと二人は、いや全員が信じているのだと思った。


「……私も皆様のようにオーファン様の無事を信じます」


 そして数日後、トルクは目を覚ました。


「どうして! トルクの体なんだ!」


 叫んだトルクと精神が入れ替わったオーファンは混乱し、看病していたベルリディアは気絶して、ララーシャルは全員で話し合いをしなければならないと考え頭を抱えてため息をついた。




誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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