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約束のランチと幸運値の秘密

 カフェでモーニングを食べ終えて少し休憩した俺は、そのまま服屋に行った。

 いま着ている服が少し汗臭いんじゃない? そもそもミルクが行くような店だとドレスコードとかありそうな気がする――と思って、ちょっとお高い店で買って着替えることにした。

 だが、服のセンスが俺にはわからない。

 結局、店員に言われるがままに購入。

 全部で八万という高校生の俺にとっては目が飛び出る額だったが、自分でも気に入ったので支払い、試着室を借りて着替えた。

 荷物はコインロッカーに預け、待ち合わせ場所に向かう。

 約束の七分前に到着したところ、まだミルクは来ていなかったが、


「お待たせ!」


 約束の時間五分前にミルクがやってきた。

 昔ながら五分前行動を守ってる幼馴染だ。


「さっきまでダンジョンに潜ってたから待ってないよ」

「さっきまでって、え? 昨日の夜から」


 あ、そういえば普通、一階層は八時間潜る。

 現在は十一時だから、昨日の夜から潜っていたと思われてもおかしくない。


「じょ、冗談だよ」

「そうだよね。服も洗濯したてみたいに綺麗だし。うん、似合ってるよ」


 買ったばかりです。

 二人でパンケーキの店に行く。

 ここから少し歩くらしい。

 って、これ本当にパンケーキの店?

 なんか凄く高そうなんだけど。

 高層ビルのスカイラウンジとか初めて来た。

 でも、行列ができているんだな。


「予約していた牧野です」

「牧野様、お待ちしていました。こちらへどうぞ」


 と思ったらミルクが予約していたらしい。

 行列を後目(しりめ)に店内に。

 ってあれ? なんか一番奥の席に通されたんだけど、他の席と明らかに違う豪華な個室の席で――もしかしてこれってVIP席ってやつじゃ……深く考えるな、俺。

 窓からは大阪の街並みを一望することができる。


「綺麗な景色だね」

「ソウダネ」


 青木とだったら、「見ろ、人がゴミのようだ」と独裁者ゴッコをするところだが、そんな雰囲気ではない。

 服、新調してよかった……探索者の姿のままだったら絶対浮いてたよ。

 メニューを見る。

 パスタとパンケーキのコース料理1200円だった。

 思ったより安いな……って思ったら違った。

 12000円だ。

 しかも飲み物の料金は別。


「ごめん、思ったより高いね。前来た時はメニュー見ないでパパが注文してくれてたから」


 ミルクはお嬢様だけど、常識はある。

 昔はよく友だちと集まって駄菓子屋に行ったし、これを高いと思えるだけの金銭感覚はあるようだ。


「いいよ。このくらいは余裕だ。てか俺から誘ったんだからランチコースくらい奢らせろ」

「頼もしいね。じゃあお願いするよ」


 ということで、ランチコースとブドウジュースをそれぞれ注文。

 先に来たブドウジュースで乾杯する。

 生搾りブドウジュースらしく、味が濃厚だ。

 ただ、これで1300円かと思うと少し考えてしまう。

 ブドウジュースの味を堪能しているとミルクが話題を振って来る。


「そういえば、スライム酒のニュース読んだ?」

「スライム酒のニュース? なにそれ」


 読んだ? って聞くってことはテレビじゃなくてスマホで得た情報だろう。

 ダンジョン関連の細かい情報はテレビよりネットニュースが主流だ。

 もちろん、デマも多いが、最近はそういうものを規制する法律も整ってきたので、信憑性は高くなってきている。


「コレクターがスライム酒をいっぱい放出して、大幅に値下がりしてるんだって。泰良、あの時販売所で売って正解だったね。もしもオークションに出してたら10万円くらいにしかならなかったもん」

「あぁ……そうなんだ」


 それ、原因は俺だな。

 今朝もダンポンに頼んで放出してきた。

 

「……ん? コレクター? お酒のコレクターってこと?」

「うん、あの量だもん。普通の探索者が手に入る数じゃないよ。しかも最近また売られてるらしいし」

「まぁ、ドロップ率0.1%だもんな。一人で集めるには難しいか」

「0.1%は最低幸運値を満たしている場合ね」

「最低幸運値?」

「泰良、知らないの? もうダンジョンに潜ってるのに?」

「いや、俺は青木に誘われて先週初めてダンジョンに行ったけれど、それまではダンジョンに何の興味もなかったから」


 最低限しか調べていない。

 初心者の立ち回りとか、装備に必要な予算とか、ダンジョンの入場料とか。

 そして、ミルクから聞いて初めて知った。

 最低幸運値について。

 アイテムのドロップ率は最低幸運値というものが設定されている。

 その最低幸運値未満の場合、アイテムのドロップ率は著しく減少する。百分の一とか千分の一とか。

 スライム酒の最低幸運値は50。

 この場合、幸運値が1であろうと49であろうと、スライム酒の出現率は0.1%どころか、百万分の一を下回る。

 幸運値によるドロップ率の変化は大したことがない――って俺が斜め読みで知った情報はここから来ていたらしい。

 そして、情報サイトのスライム酒のドロップ率0.1%というのは最低幸運値を満たしたときの初期値であり、幸運値が高ければさらにドロップ率は上昇していき、幸運値100で0.2%くらいにはなるという。


「でも、幸運値50ってみんな満たしてるんじゃないか?」


 初期値100だろ?

 最初から満たしている。むしろ全員0.2%なら、ますます価値が……


「何言ってるの。幸運値は最初は多くても7とか8とかでしょ? 幸運値はレベルが上がっても運が悪かったら全然増えないし、幸運値50なんて滅多にいないわよ」

「……え?」


 最初は多くて7とか8?

 幸運値は滅多に上がらない?

 俺、最初は100で、レベル上がるごとに毎回幸運値が増えてるんだけど。

 ミルクの奴、冗談言ってるのか?


 と思ったら、彼女はさっそくその解説が載ってるピンク色のケースに入ったスマホの画面を俺に見せてきた。

 そこに幸運値の平均値が書かれている。

 レベル1の平均値は5?

 レベル10で8!?

 レベル50でも幸運値20とか、マジか!?


「幸運値は高くなれば高くなるほど上がりやすくなるから、レベル100越えてる人なら幸運値50超える人もいるけど、そんなレベルの人はまずスライムなんて倒さないもの。もっと効率よくお金を稼げる魔物がいるから。だからスライム酒は高かったの」


 ミルクの話を聞きながらスマホの画面を凝視していると、画面が着信画面に切り替わる。

『パパ』

 って表示されていた。


「ごめん、ちょっと外で話してくる」


 とミルクが外に向かって直ぐにサーモンとイクラが載った美味しそうなサラダが運ばれてきた。

 先に食べたかったが、ミルクが戻って来るのを待ちつつ、情報サイトの最低幸運値について調べる。

 どうやら今朝のキノコも最低幸運値があり、その値は80。

 それ未満の場合でもドロップ率は5%~6%と決して低いわけではないらしいが、なるほど。

 そりゃ換金所の人も驚くわけだ。

 キノコ20本だもんな……今度から梅田Dに行くときは気を付けないと。

 そう考えていたらミルクが戻ってきた。

 ただ、少し機嫌が悪そうだ。


「ごめん。先に食べてくれていてよかったのに」

「電話、大丈夫だった?」

「うん。お父さんが私のために無駄遣いしたらしくて、ちょっと怒っちゃった」

「ボウガンみたいなの?」

「ううん、経験値薬っていう薬。一本飲むだけでスライム1000匹分の経験値が入るんだって」

「へぇ、いいじゃん。レベルは10にするまでが大変だし」


 俺もそんな薬があるなら買って飲みたかった。


「それだけで500万円よ?」

「高っ!?」

「材料に特殊なキノコを使うらしくてね。それが滅多に出回らないらしくて」


 へぇ、キノコね。

 もしかして、俺が今朝売り払ったキノコ……なわけないよな、さすがに考え過ぎだ。


「でも、お金の問題じゃないの。泰良だって真面目に頑張ってるのに私だけ薬を飲んでレベルを上げるって卑怯だと思わない? ただでさえ石舞台ダンジョンにもお金で行くようなものだし」

「そりゃ……でもミルクの親父さんってベテラン探索家だから、低レベルの時の苦労を良く知ってるんだよ」


 俺は言葉を選び、ミルクを怒らせないように、でも彼女のお父さんを庇うように言った。

 牧野の父親は結構有名な探索家だ。

 関西のランキングは3番目くらいで、テレビでも何度か見たことがある。

 探索者だからこそ低レベルの時の苦労を知っているし、魔力に覚醒したミルクに期待しているんだと思う。

 ていうか、卑怯だって言うのならPD使ってる俺の方が卑怯だもんな。

 幸運値だって初期値100だし。


「そうだけど」

「それに、ミルクがダンジョンに潜れるのはまだ先だろ? 俺は先に行ってるんだ。薬を飲んででも追いついて来いよ」

「追い越しちゃうかもよ?」

「舐めるな。これでも独自のダンジョン攻略法を生み出して絶賛成長中だぞ。それこそお前の親父さんより強くなってやる」

「――っ!?」


 俺がそう言うと、ミルクは少し驚き、そして愉快そうに笑った。

 さすがに関西3位を越えるという宣言は酷いか?


「わかった。じゃあ待ってて。私も直ぐに追いつくから!」


 ミルクに笑顔が戻ったところで、サラダを食べるか。


 なお、パンケーキのふわふわ感はまるで雲を食べているかのようで美味しかった。

 ちなみに、ダンジョン探索者の食事代は体力づくりのため基本経費で通用するそうだとミルクに教わった。

 確定申告か……ちゃんと考えておかないとな。

 最後にPDを回収し、家に帰った。

 そして部屋に帰ると置いてあったD缶が一つ空いていて、中に飴玉が入っていた。


 幸運値か?

 幸運値138のおかげか?

 鑑定屋に持って行って、鑑定してもらおうかと考えた。

 スキルを覚える飴玉だって鑑定してもらえば、かなり高く売れるだろう。

 それこそ数億で取引される可能性だってある。

 一生遊んで暮らせる額になる。

 だが、さっきミルクに、もっと強くなって待っていると言ったばかりだ。

 俺が強くなる決意をしたタイミングで開いたD缶。

 それに何か意味があるような気がした。

 だから俺は、お金よりスキルを取る。


 俺は飴玉を舐めた。

 スキルを覚えた。

 新しく覚えたスキルは『詳細鑑定』だった。

 ……って、え? 詳細鑑定? 普通の鑑定じゃなくて?


    ※ ※ ※


『ねぇ、パパ。さっきはごめんね。それとありがとう。ところで、あの話覚えてる? 私に好きな人ができたらって話。パパ言ってたよね。自分より強い男じゃないとパパは認めないぞって。あれって――違う違う、付き合ってない。彼氏とかいないから』

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[一言] 関西3位の方が、 「俺より強いやつ」って。 「娘さんをくださいっ!」 「俺に勝てたらな。」 で、家が全壊するぞ。
[一言] パパ…P活の方かな?(´・ω・`) 匂わせ方が、もうソレにしか見えない…
[良い点] 物語は加速する(うん値により)
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