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セラス、異世界の○○○に出会う


 俺はセラスと宿に戻った。


「ピユ〜♪」


 ベッドの下からピギ丸が出てきた。

 俺は気づく。


「しまった」


 剣を壁に立てかけ、セラスが聞く。


「どうされました、トーカ殿」


 呪術師集団。

 豹人の血闘士。

 禁忌の魔女。

 慌ただしくて意識から抜け落ちていた。


「ピギ丸の食事を持ってくるのを、忘れた」

「ピユュ〜」


 ピギ丸が左右に激しく揺れた。

 首を振るみたいに。


 ”大丈夫だよ〜”


 と、伝えたいらしい。

 あごに手をやる。


「久しぶりにアレを使うか」


 背負い袋から皮袋を取り出す。

 セラスが聞く。


「それは?」

「何に見える?」

「皮袋、ですよね?」


 皮袋の宝石に魔素を送る。

 淡い光を発する皮袋。


「これは、俺がこことは違う世界の人間だと証明する手段の一つだ」



     ▽



「モッキュキュ〜♪」


 食べ終えたピギ丸が薄ピンク色になった。

 今回出てきたのはチーズタルト。

 半分はピギ丸が食べた。

 残りは俺とセラスでわけた。

 ピギ丸がそうしたいと意思表示したのだ。

 このスライム、やはり気の回し方が尋常ではない……。


「焼いた硬めのパン生地と……これは、チーズですか?」


 くんくんニオイを嗅ぐセラス。

 異世界にチーズタルトはないのか。

 やや警戒しつつセラスが口に含む。

 俺も口に入れた。


 サクッ


 少し硬めのクッキー生地。

 濃厚で甘い味つけのチーズ部分。

 チーズには適度な硬さの歯ごたえ。

 ほんのりとレモンの風味が続く。

 周りのクッキーとそれらが口の中で合わさっていく……。

 この濃い目のクリームチーズがまたウマいんだよな。

 クッキー生地との硬軟の食感も楽しい。


「――っと、クッキー生地をベッドの上に落とさないようにしないとな」


 ま、いざとなればピギ丸が掃除してくれるが。

 食べ終えたセラスが頬をおさえた。


「おい、しい……」


 目が皿になっている。


「トーカ殿っ」


 力強い語気。

 ベッドに膝をつき、セラスが身を乗り出してきた。


「これは一体? あなたの世界では、一般的な食べものなのですか……?」

「……そうだが」


 なんだこの前のめり感は。

 まるで俺を押し倒す勢いだった。

 ハッとしたセラスが素早く身を引く。

 咳払いし、彼女は姿勢を正した。


「し、失礼しました」

「異世界の食べ物がお気に召したのか?」

「……はい、非常に美味でございました」

「もっと食べさせてやりたい気もするが、残念ながら俺の意思で同じものは出せないんだ。何が出てくるかは俺にもわからない。また使えるようになるまで、時間もかかる」


 皮袋を差し出す。

 セラスが受け取る。


「勇者の異界道具、ですね?」


 一応、ユニークアイテムの存在は知られているらしい。

 皮袋の効果について俺は説明した。


「そいつのおかげで俺は廃棄遺跡でも生き延びることができた。あそこには食料や水がなかったからな」


 今回、飲み物は出てこなかったが。


「初めて耳にする異界道具ですね……基本、勇者のステータスを高める装具と聞いていましたので」


 チーズタルトの包装を手に取るセラス。


「透明な袋……? 記されているのは……文字、ですか? これは一体、どのように作られているのでしょうか……」

「俺たちの世界の技術だ」

「ほほぅ……」


 セラスが物珍しそうに観察する。

 読み通り包装紙は異世界人の証明として使えそうだ。


「トーカ殿」

「ん?」

「綺麗、ですね」

「…………」


 ビニールの包装を綺麗だと感じるのか。

 ハイエルフを見て、俺は綺麗だと感じた。


「自分の世界にないものほど、美しく映るものなのかもな」


 まあセラスの場合、ハイエルフというだけではない気もするが。



     ▽



 俺はピギ丸を抱いてベッドに座った。


「さて、今後の方針を考えるか」


 禁忌の魔女の居所。

 大体の場所だけでもいい。

 わかれば相当な時間短縮になるはずだ。

 闇雲に探すより、何倍も。


「あの血闘士から、何か情報を聞き出す手があるといいんだが……」


 スキルでの解決は難しそうだ。

 眠らせたあと催眠術をかけて吐かせる。

 もしそんな芸当ができるのなら、別だが……。

 捕まえて拷問は今のところ選択肢にない。

 

「イヴ・スピードがどこぞのクソ女神みたいなクソッタレだったら、話は早かったかもな」

「ひとまず彼女の情報を集めてみますか?」

「そうするか」

「彼女がどういう目的を持った血闘士かがわかれば、方針も立てやすくなるかと」


 セラスが続ける。


「金銭目的で望んで血闘士を続ける者、生き残りを最優先にしつつどこかの傭兵団から引き上げられるのを待つ者、得た賞金で所有者と折り合いをつけて自由の身を買う者……血闘士も様々と聞きます」

「目的によって交渉のやり方も変わってくる、か。効果的な交渉材料が見つかれば、積極的に利用していきたいところだな」


 禁忌の魔女の居所は知りたい。

 だがあまりモンロイに長居もしたくない。

 短期間で済ませたいところだ。


「改めて聞きたいことがある」

「なんなりと」


 俺には一つの案が浮かんでいた。

 さっきのセラスの説明で気づいた。

 どんな血闘士にも一つの共通点がある。

 イヴの状況にもよるが……。

 意外と解決は、早いかもしれない。


「血闘士が命の次に優先するものって、なんだ?」


 時には命を賭けてでも得ようとするもの。


「大半はお金と言えるでしょう。率先して血闘をする者の目的もお金ですし、傭兵団に引き上げてもらいたい者や、足を洗いたい者にしても、お金さえあれば基本的に所有者から”自分の身を買い戻す”制度を使えるわけですから」


 血闘士は一定の金額で自由の身を買える。

 モンロイの血闘場にはそんな制度があるそうだ。

 いわゆる”上がり”というやつだろう。

 この制度のおかげで血闘士になりたがる奴隷も多いという。

 束縛された身分から抜け出せるかもしれない。

 そんな一縷の望みを抱けるわけだ。

 結果、血闘時のモチベーションは上がる。

 すると血闘が盛り上がる。

 必然的に見せ場も増える。

 客は喜ぶ。

 話題になって、客が客を呼ぶ。

 運営側にとってもメリットのある制度といえる。


「ただし血闘士が”自由の身”を買うには、やはり莫大なお金が必要になるようです」

「莫大な金、か」


 懐に手を入れる。

 俺は青竜石の入った小袋を握り込んだ。


「目立つからなるべく避けるべきだとは、思うんだが」


 ちょうど”莫大な金”を得るのにうってつけの換金物が、手もとにあるんだよな……。




 物語がどこか区切りのよいところまで進みましたら、登場人物リストを作りたいと思います。

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