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先へと続くその光


「ィ゛、ぐ、ィ、ぇ……、――――」


 魂喰いが、力尽きた。


【レベルが上がりました】

【LV1229→LV1789】


 目の前には肉まじりの瓦礫の山。

 表現するなら、そんな感じだ。

 ゾンビは残骸めいたヘドロに戻っている。

 動き出す気配はない。


「…………」


 そういえば、戦いの最中にスキルレベルが上がっていた。

 上がったのは【パラライズ】と【ポイズン】。

 定められた使用回数に達したのだろうか?

 やはりスキル経験値は使用した相手の人数に依存か?

 もしくは使用した相手の強さによって加算される?

 スキル経験値は何に依存するのか。

 まだスキル方面はわからないことが多い。

 ただ、


「魂喰いに囚われていた魂たちにも効果が出ていたとしたら、けっこうな数にスキルを使用したことになるのかもな……」

 

 もし魂たちも毒で苦しませてしまっていたら。

 さすがにイイ気はしない。


「苦しませちまったなら、悪かったな――ん?」


 突如、魂喰いの死骸が青白く光り始めた。


「「――ォ、……ホォォォオオオオオオ! ォォオオオオォォォォオオオオオオオオ――――――――ッ!」」


 大量の霊体が、怒涛の勢いで魂喰いの死骸から飛び出した。

 似た光景を以前テレビか何かで見た気がした。

 海中を駆け巡る連なった大量の魚群。

 あんな感じの印象を受ける。

 霊体群はぐるりとエリア内を一周。

 最後は天井にぶち当たった――ように見えた。

 霊体の大群は天井部分へ到達すると、弾け散った。


 青白く光る粒子が舞い落ちてくる。


 まるで、静かな夜にハラハラと降る雪のように――



     ▽



「――――――――」


 声。


 声が、きこえる。



”おまえといちばん最初にここで会ったのはおれだったよな。背後のミノタウロスに気づいて逃げてくれた時は、ホッとしたぜ。ほんっと、よくがんばったなぁ……”



 ここで最初に出遭ったのは、頭蓋骨が半分だけのドクロだった。



”すまなかったね。私の斧ではあの四つ腕の鳥人の皮膚を傷つけることはできなかったようだ。でも、よく生き残ってくれた。自分のことのように嬉しいよ”



 麻痺した鳥頭のところへ行く途中、俺は斧を見つけた。

 超硬の皮膚を傷つけることは、できなかったが。



”僕の外套が途中まで君のお役に立てたみたいでよかったよ。最後はあの大賢者に着せられるなんて、少し恐縮しちゃったけどね。とにかく……ありがとう”



 遺跡帯で交換するまで着ていた黒い外套。

 あれは、最初の転送場所の骸骨から拝借したものだった。



”あの短剣はそこそこ質のいいものだったんだけど、ここの魔物相手には荷が重すぎたみたいね? ふふ、ミノタウロスの目玉を食べようとした時はびっくりしたわよ? なんにせよ……魂喰いを倒してくれて、ありがとね……”



 ミノタウロスの目玉を抉り出した短剣。

 あれも、転送場所の骸骨の荷物から持ち出したものだった。



”あのドラゴンゾンビを倒しちまうなんてすげぇよなぁ! がはは! オレなんか、追い詰められて沼に落ちて死んじまったってのによ! 間抜けな死にざまだよな! とにもかくにも、よくやった! おまえさんはすげぇやつだ!”



 鍾乳洞エリアの沼に浮かんでいた骸骨。



”あ、あの――”



 人の姿をした半透明の青白いものが立っていた。

 覚えのある服装。

 思い出す。

 忘れるわけもない。

 リザードマンが悲鳴の物真似をしていた廃棄者。

 その骸骨が着ていた服。

 優しげな顔立ちの女だった。

 彼女に起こった出来事を考えると、心が痛む程度には。

 女が両手のこぶしをグッと握り込む。



”こ、こんな風に言うのは少し野蛮かもしれないんですけど……残酷なリザードマンどもをこてんぱんにやっつけてくれて、わたし――す、スカッとしました! あいつらにひと泡吹かせてくれて、あ、ありがとうございます!”



 ペコッ


 頭を下げられた。

 軽くだが反射的に会釈を返す。

 救われたような微笑みを残して、女は消えていった。



”スカッとしたのはワシも同じだよ。まさかあいつらが死ぬ姿を拝めるとは思っておらんかったからな……わざわざ他の魔物のオモチャにならんよう配慮してくれたことにも、感謝しておるよ。心から幸運を祈っておるぞ、少年”



 今の服装にも見覚えがある。

 火だるまにされた時の物真似をされていた男。



”ぼ、僕らもスカッとしました! あの豹人たちは本当に、ひどいやつらで……っ”


”わざわざ遊具を分解して私たちを洞窟の窪みに並べてくれましたよね? ありがとうございました。あなたは、とてもお優しい方なのですね”



 双頭豹がヌンチャクみたいな遊具にしていた二つのドクロ。



”地上へ出たら俺たちの宝石を役立ててくれると嬉しい。そこそこの高値で売れるはずだとは思うんだが……今の時代の経済状況がわからないから、意外と今は安いかもしれないな。その……安値だったら、すまない……”


”でも、銀貨の方は同じ価値だと思うわよ! んっと……たぶん、だけどね? ふふ、にしてもあの遺跡帯の魔物を倒しちゃうなんて、アンタってすごいヤツなのね! 地上へ出たあとの無事を祈ってるわ! がんばってね!”



 一組の男女。

 二人は親しげに手を繋いでいる。

 服装を記憶と照らし合わせずともわかった。

 遺跡エリアの部屋で手を繋ぎ、寄り添っていたペアの骸骨。



「で……最後はやっぱ、あんたか……」



 最後に現れたのは五人の男女だった。

 先頭の男の出で立ちにはとても見覚えがある。


 


 大賢者アングリン。

 またの名を、暗黒の勇者。

 後ろにいるのは、このエリアで死んでいた廃棄者たちだろうか。



”     ”



 何か語りかけてきている。

 しかし”声”が聞こえない。

 かろうじて口の動きで”ありがとう”だけはわかった。

 必死に読み取ろうとするが……読み取れない。

 理解を司る部位が靄にでも包まれているかのようだった。

 ただし、相手は伝わっているつもりで話しているらしい。

 ほんの一分も経たぬうちに、五人の姿が薄れ始める。

 大賢者が何か言った。



”         ”



 言い終えると、大賢者は後ろを振り向いた。

 他の四人が暖かく彼を迎え入れる。


”おかえり”


 そう言っているようにも見えた。

 後ろの四人が俺に手を振ってくる。

 口の動きで”ありがとう”と言ったのがわかった。

 俺は少しだけ手を上げて応える。


「…………」


 最後の大賢者の言葉。

 あの言葉だけ、はっきりとわかった。



”ど う か 、 あ の 女 神 を”



     ▽



「……、――っ?」


 ハッとする。

 ウトウトしていた、のか?

 急な眠気にでもやられた、か……?


「それに、今の――」


 まぼろし、だったのだろうか?


 不思議な感覚だった。

 俺は孤独に廃棄遺跡を彷徨っているつもりだった。

 だが、一人ではなかったのだろうか?

 大先輩たちが、静かに見守ってくれていたのだろうか?

 真相はわからない。

 おそらくは、これからもずっと。

 けれど悪い気分ではなかった。

 感じたのは、叔父夫婦と似た温かさ。


「…………」


 あの時、大賢者が残した最後の言葉。

 続きはなんだったのか?


”どうか、あの女神を――”


 止めてくれ?

 倒してくれ?

 殺してくれ?


 が、意図はしっかりと伝わった。

 廃棄者全員の意思を、彼が代表したのだろうか。


「ただまあ……別に、俺がその頼みを引き受ける義務もねぇんだがな。ま、とはいえ……安心しな」


 右のてのひらに、左のこぶしを打ちつける。


 パシッ!


「それなりの時間はかかるかもしれねぇが――」


 虚空に浮かぶ記憶の中の女神を、めつける。



「最後にはきっちりあのクソ女神に、落とし前はつけさせてやるからよ」



 魂喰いの残骸から金色の石を拾うと、俺は立ち上がった。

 次に皮袋を回収し、階段を上がる。

 階段をのぼりきったところで一度、俺は後ろを振り返った。


「…………じゃあな」


 誰へ向けた別れの言葉だったのか。

 自分でもよくわからない。

 金色の石を窪みに嵌め込む。

 振動。

 扉が、開いていく。

 開く扉の隙間から、光が溢れ出してくる。



 最初に俺を出迎えたのは、どこか懐かしい、温かな太陽の光だった。



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