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転生侯爵令嬢は無実の罪で幽閉されましたがゴーストのお陰で快適に過ごしています

なんとか書きかけの小説を仕上げました。

本当はもう少し続きを書きたかったのですが、忙しくてとりあえず読める状態まで書き上がったので投稿してみました。

是非読んでください。



…椅子に座ったまま寝てしまった…

体が痛い。


昨日はオンライン飲み会をしていて、缶チューハイに酔って寝落ちしたみたい。


テーブルに突っ伏したまま目を開ける…

最初に目に入ったのは、栗色の波打つ髪の毛だった。


オンライン飲み会で、仮装したっけ? 

これは、去年の忘年会で使ったウイッグを被ったまま寝てしまったのか…


ウイッグを取ろうと栗色の毛を引っ張る。


痛い!

なんで痛い?ウイッグなのに!


顔を上げると見たことない部屋だった。

まるで明治や大正時代の迎賓館の内装のようだ。

古びた壁紙に、昔は高級であったであろう絨毯、古い洋書が並んだ本棚に、古めかしいカーテン。


この部屋、何?


昨日の記憶を辿る。


自粛期間で在宅ワークをしていた私は、同僚とオンライン飲み会をする事にしたんだ。

飲み会中に、お酒がなくなってしまって、コンビニに行く途中の横断歩道で、トラックが…


いや。待て待て。


昨日は、それどころじゃない!


昨日は私の裁判だった。


裁判長は叫んだ

「ユージニア・ダンカンは幽閉だ!連れて行け!」


私は断罪された。

ユージニア・ダンカン侯爵令嬢として。


…椅子に座ったまま寝てしまった…

体が痛い。


昨日はオンライン飲み会をしていて、缶チューハイに酔って寝落ちしたみたい。


テーブルに突っ伏したまま目を開ける…

最初に目に入ったのは、栗色の波打つ髪の毛だった。


オンライン飲み会で、仮装したっけ? 

これは、去年の忘年会で使ったウイッグを被ったまま寝てしまったのか…


ウイッグを取ろうと栗色の毛を引っ張る。


痛い!

なんで痛い?ウイッグなのに!


顔を上げると見たことない部屋だった。

まるで明治や大正時代の迎賓館の内装のようだ。

古びた壁紙に、昔は高級であったであろう絨毯、古い洋書が並んだ本棚に、古めかしいカーテン。


この部屋、何?


昨日の記憶を辿る。


自粛期間で在宅ワークをしていた私は、同僚とオンライン飲み会をする事にしたんだ。

飲み会中に、お酒がなくなってしまって、コンビニに行く途中の横断歩道で、トラックが…


いや。待て待て。


昨日は、それどころじゃない!


昨日は私の裁判だった。


裁判長は叫んだ

「ユージニア・ダンカンは幽閉だ!連れて行け!」


私は断罪された。

ユージニア・ダンカン侯爵令嬢として。



あれ?

私は香川美夜。29歳の日本人。




香川美夜としての記憶と、ユージニア・ダンカンの記憶が混在している。


そっか。香川美夜は前世なんだ…。


今の私はユージニア・ダンカン18歳の侯爵家令嬢。


ユージニアである私は、婚約者だった第一王子から、可愛げがないだの、顔が好みではないと言われた上に、男爵令嬢の殺人未遂というよくわからない罪状をつけられて、身に覚えのない国家予算横領や詐欺罪をなすりつけられ。

その上、名乗ってもいないのに偽聖女の汚名まで着せられた。私、一度も聖魔法が使えるなんて言ったことないのに…。

そして、今、私は高位貴族専用の独房に幽閉されている。


私の幽閉先は、王家の森のにある塔の上。

この塔には出入口も、上り降りの階段もない。

入り口は、地面から30メートルの高さにあるバルコニーだけ。

ここに、罪人用拘束魔法をかけられて放り込まれた。


ユージニアである私は、侯爵令嬢だったので社交以外何も出来なかった。

それで絶望してテーブルで泣いているうちに寝てしまったみたい…。


今の私は前世である日本人の記憶と、ユージニアとしての記憶がある。

前世では、コロナウイルスのせいで世界中の都市がロックダウンしていた。日本はロックダウンは免れたが外出制限があった。そんな状態なので、ワンルームマンションで誰にも会わずに生活していたんだ。


なんとかなる!私は家事ならできる。


とりあえず、気を取り直して部屋の中を見て回った。



…ご飯は1日一回、魔法で運ばれてくる。

今はご飯の心配はいらないかな…



部屋は、前世のワンルームよりかなり広い。

学校の教室2部屋分くらいかな?

さすが高位貴族専用!

意外と快適かもしれない。



この部屋には、本棚、古い机と椅子、ベッド、トイレ、洗面台、浴室などがあった。

ただし、古くてボロいし、なんだか薄汚れている。

高位貴族専用なんだよね?

ここに閉じ込められる人は、高位貴族だから自分ではなにもできない人しかいなかったはずだし、罪人用だから仕方ないのか。



掃除ができない人しかここに来ないせいなのかな。

なんだか埃っぽいし、空気が澱んでいる。

ベッドのシーツはいつのものか不明。


…この部屋、なんか変な匂いがする…

きっと長い間掃除してなかったせいね。


とりあえず、掃除しよう。


天窓を開けて、バルコニーに出るための窓も開けた。


外は天気がいいから空気はカラッとして気持ちいい。

洗濯日和だ。


外の景色は森しか見えない。

周りからこの塔は見えるのに、こちらからは何も見えない。

魔法がかかっているんだ。

監視魔法が付いていることは知っている。




まずはシーツを湯浴み用の桶で洗濯する事にした。ベッドから剥がしたシーツは、自分の魔法で出した水で洗う。

逃走防止のために魔力制限の足枷がつけられているせいか、水魔法を使おうとしたけど、少ししか水が出ない。

だから、桶に貯めるのに時間がかかった。

でも仕方ない。


洗剤、欲しいなぁ…。

そう思いながら水洗いしたシーツをバルコニーで干した。


ついでに天蓋とカーテンも外した。



冬が終わって少し暖かくなってきていて洗濯にもってこいの日差しだ。

寒いと洗濯できない。 


箒を探したけど見つからないので、風魔法で埃を払う。


棚を片っ端から開けて何かないか探すと、古いシーツと裁縫道具が出てきた。


天蓋とカーテンを踏み洗いをしてバルコニーで干した。


一度も洗っていないであろう天蓋とカーテンは汚かった。

この部屋の人ってこんな汚い部屋で病気にならなかったのかな?



疲れたので湯浴みをすることにした。

制限された魔法の中でも生活魔法である小さな火と、少しの水は使えるから、桶にゆっくりお湯を沸かして、湯浴みをした。


タオル…ないのかぁ。

仕方がないので、魔法の風で、体の水滴を弾いて服を着る。



私は生活のリズムを決めることにした。



朝起きたら、白湯を作って飲んでから朝ヨガをする。

それから部屋の掃除をして、そのあと、瞑想タイム。

瞑想は魔力を高めるのにいい。

魔力封じは、自分の魔力の90%を削がれている。

だから基礎魔力が上がると、使える魔法が増えるはずだ。

そして、その後、魔法の練習。

このベッドを持ち上げるとか、本棚を移動するとか、後は壁紙の色を変えるとか。

まだ出来ないからできるように練習!

お昼になったらご飯がテーブルの上に出てくるから、少しだけ食べて、それから本棚の本を読む。

この国の歴史や法律が中心だけど、何もないより時間が潰せる。

それから、体力作りのために筋トレ。

基礎魔法力を上げるための歌の練習。前世に好きだったバンドの歌を熱唱した。

それから、湯浴みをして、残りのご飯を食べて、瞑想。

そして就寝。



…飽きた

この生活、3日で飽きてしまった。




そもそも無音が辛い。自分の鼻歌や口ずさんだ歌では乗り切れない…。

まず、無音をなんとかしよう。


そうだ!オルゴールを作ろう!


この世界のオルゴールは、レコードの上を魔法の玉が動いて音が鳴るような装置。

小学校の音楽の時間に必ず作る装置で、流れてくる音楽をツルツルの円盤に刻んでいく。刻み終えたら、魔力を込めた玉を転がして音を鳴らす。



まず、魔法の玉を作らなきゃ。

お姫様のような天蓋付きのベッドには豪奢な飾りがたくさんついているので、支柱の先端の丸く球のように加工されている木製の飾りを使うことにした。


丸い飾りを魔法で切って、球に加工するのに3日かかった。

単純な作業はすぐに飽きてしまう…。

魔力が弱いと、以前なら一瞬でできたことが今は長い時間かかる。



次の日から、石畳に音楽を刻んで行く。

好きな曲を10曲刻んで、一度魔力玉を置いたら10曲聴けるようにしよう。

私は石畳に座って、前世の記憶にある大好きだったバンドの曲を頭の中で再生しながら石畳を触っていた。

もちろん、ボーカルの声も再現したつもり。


小学生レベルのこの魔法も、子供より遅いスピードでないとうまくできない。 

しかも硬い石に刻もうとしているから尚更だ。

音が少ないなら、早くできるけど、ギター、ベース、ドラム、キーボード、ボーカル。全てを刻むとなると一曲にかなりの時間がかかる。

少し刻んでは再生を繰り返して…一曲刻むのに数日かかった!

こだわりすぎたかも…。


魔法は魔力量もさることながらコツが大事。

石に音を刻むコツがわかったから2曲目からは早くできるようになって、2週間かかって完成した!



無音の世界からは脱却!



ワクワクしながら、ベッドの飾りだった木製の丸い球に魔力を込めて、音楽を刻んだ石畳の上に置く。


ギターの音が鳴り出して、私の記憶にあるバンドの音が再現できていた!


1人フェスをバルコニーで行う!


コールアンドレスポンスも再現して、フェス気分を味わう。

途中、魔力玉をカラスに持っていかれそうになったけど、カラスと戦って勝利しして、それでも1人フェスを続けた。



1人フェスをして思ったけど、やっぱりドレスって動きづらい。


次は服を作ろう。


気がつけば幽閉から3週間経った。


次の日から、天蓋や掃除中に見つけたシーツを分解して服を作る事にした。


今着ている自分のドレスを元に服の形を取って、シーツを裁断していく。



できれば動きやすい部屋着が欲しい。


布を裁断するにはそれなりの魔力が必要だ。

これから毎日、シーツを裁断することに魔力を集中さ去ることにする。

1センチ切るのにも数十分かかる。



毎日この作業だと飽きるのけど、音楽を聴きながら作業していく。


シーツを切り終えたら、次は、天蓋から、魔法で糸を取り出して紡ぐ。


地味な作業で飽きてくる…。


つむぎ終えると、裁縫道具の中から針をだし、糸に通すと、魔法を使って縫っていく。

手縫いの方が早いけど、でも魔法の訓練だと思って洋服を縫った。


簡単な長袖のシャツとズボンができた。


袖を通してみる!

なんのことはない、パジャマの上下のようなものだけど、ドレスを着ているより、軽くて快適!


次の日から、少しずつ、ベッドの天蓋をつけていた支柱外しに取り掛かった。


音楽をかけてノリノリで作業する。


なんだかんだで1ヶ月半が経過していた。




暖かいので、天窓を開けて生活していたが、ある時、激しい雨で窓を閉めたら、なんだか嫌な匂いがした。

まだ掃除が足りないのかな?


外のオルゴールは雷雨でかき消されて聞こえない。

だからまた無音の世界…。

部屋にもオルゴール作ろうかなって考えながら備え付けの本を読んだりして過ごした。



家庭菜園作りたいなー。

1日一食の食事からトマトの種など野菜の種をよけておくことにした。

いつか作るぞ!

.

この塔は光を遮るものがないので日当たりは良好だ。



雨は通り雨だった様で、そこから数日は晴れていて、窓を開けて過ごしていたので匂いの事は忘れていた。



そしてまた、激しい雨が降った。

急いで窓を閉めたらまた匂いがした。


匂いの原因を探す事に決めた。


クンクンと部屋中の匂いを嗅ぐ。


本棚の方から匂いがする。 

まるでホラー映画の展開だけど、私はここに一生住まないといけないので意を決して、本棚を移動する事にした。



まず、本棚の中のものを出して空っぽにしてから、力任せに押した。



本棚の裏には何もない。

けど匂いは壁から伝わってくる。

壁を隅々まで触ると、凹凸があることがわかった。

裁縫道具からハサミを出して、壁紙を傷つけ、剥がそうとしたけど普通では無理だ。


魔力を込めながら剥がす。


そんなに強い魔法で張り付けていたわけではなかったみたいで、数時間かけて剥がすことができた。



扉が出てきた。


なぜ扉が…


ドアノブは外されているためついてないけど、ドアノブの跡の穴に指を引っ掛けて引っ張った。



開いた!


この先には何があるのか…


怖いけど

一歩踏み込む。


ドアの先にあったのは小さなキッチンで、さらにその先にはドアがあった。


キッチンを見回すが、古い大昔のキッチンだ。

魔力を流す、IHみたいなものが今は主流だけど、昔は魔力で煮炊きした。

システムキッチンに使う魔法システムは、魔法学で勉強したから、公爵令嬢である私は実物は見たことないけど、この世界のキッチンは知っている。


長年換気していないせいか変な匂いがする。



ここまできたらこの先のドアも開けてみよう。

私はドアノブを握ると、勢いよくドアを押した。



ドアの先にあったのは、大きな部屋だった。明らかに高位貴族、それも王族の女性用の部屋だ。



部屋を見回してある事に気づいた。


この部屋は魔力が満ちている。この塔に幽閉されたものは、皆、魔力封じがされたはずなのに、魔力の痕跡を感じるなんて…。

魔力封じがされているのに感じるということは…。


もしかして…。 

ゴーストがいる?



私の生家、ダンカン侯爵家は建国以来続く名家で、昔々より領地にある石造の城に住んでいる。

千年くらい前からある石の城の地下は、迷路になっており、一部ではゴーストが出る。

ゴーストが出るところには、魔力溜まりができる。

この部屋に溜まっているのは、きっとゴーストの魔力だ…。



この世界でゴーストが一般的かというとそういうわけではない。それは前世の日本と同じで、出るという噂があるだけのケースが圧倒的に多い。


私は生家で出会っているので、予備知識はある…つもり。


今のところ、ゴーストは見えない。


カーテンが閉まっているせいか薄暗い。

それにこの部屋も多分、掃除した方がいいだろう…。



「失礼しまーす。私は隣の部屋に住んでいるユージニア・ダンカンと申します。部屋を掃除したいので、入りますよー」


とりあえず、ゴーストに声をかけて部屋に入った。

ゴーストの返事はない。



東側のカーテンをすばやく開ける。

雨が止んだのか雨音がしないので窓も開けた。


それから急いで西側のカーテンを開けて窓を開けた。


はぁ。ゴーストがいると思ったのは気のせいかも…。

そう思ったら…。


『あなた、どこから入ってきたの?』


声がする方を見ると、そこには綺麗なプラチナブロンドを縦ロールにした同じくらいの年齢の綺麗な顔をしたゴーストが、椅子に座っていた。


私は、動揺を隠して淑女のお辞儀をした。  


手縫いの服でドレスは着てないけど。


「部屋に勝手に入って申し訳ございません。現在、この塔に幽閉されておりますユージニア・ダンカンと申します」


ゴーストの特性、はよく知っている。

相手の態度に合わせる事。そうしないと、途端に暴れ出して手がつけられなくなる。


『私はアン。不思議な服を着たあなた、どこからから来たの?

よくこの部屋を見つけられたわね。

どうしてこの部屋に来たの?』


ゴーストは、不思議そうにこちらをみた。



「恐れながらアン様。

この部屋に来たのは偶然です。

幽閉されている部屋におりましたら変な匂いがしまして…。匂いを辿ったらこの部屋にきました。

匂いの原因が分からないので私はこの部屋をお掃除したいと思いますがよろしいでしょうか?」


と聞くと、

『ああ!

あの塔からきたのね。

そういえば塔と空間魔法で繋がってるんだったわ。

それで、アナタはお掃除してくれるの?嬉しいわ!!ここ200年くらい簡単な風魔法でしか掃除してないのよ。』


200年??


「アン様はずっとこの部屋にいらっしゃるんですか?」

興味本位で聞いてみた。


『アンでいいわ。様はつけないでね。

私は200年間この部屋にいるの。

あの塔はそもそも、幽閉のために作った塔ではなくて、気分転換をするお部屋として作ったの。

今キッチンを通ったでしょ?あのキッチンはお城からの取り寄せ魔法をかけてあるからなんでもあるわ。

必要なものがあれば使えばいいわ』


「本当になんでも使ってよろしいのですか?」


『使ってよろしくてよ。』


アンは笑顔で答えてくれた。


私はキッチンがあった部屋に行ってみた。


小さなキッチンのついた部屋は棚がいっぱいあった。

どの棚に何が入っているか分からないので、一つずつ開ける事にした。

90センチ四方の棚を開けると、なんと昔の冷蔵庫だった!200年前から開けてない冷蔵庫のはずなのに、何故か中のものは新鮮だった!

さすが魔法!


次に、足元の棚を開けると、洗剤や掃除用具が入っていた。

他の棚も調べた。

食器類や刃物類。

キッチンの横に色々な大きさの桶が積み重なっていた。

それから、棚の中から、シャボンやタオルも見つかった!

色々と開けていくと、本当にいろんなものがあった。

なぜか、斧や大工道具、釣り竿…。



「なんでも取り寄せできるんですか?」


『王室の倉庫や、王城の冷蔵庫にあるものならね。

その不思議な服は無理よ?』


「これは自分で作ったので、取り寄せができない事は知っていますよ」


『その不思議な服、自分で作ったの?

あなた変わった子ね』


そう言ってアンは笑った。



ふと、自分の開けた扉を見たら、この部屋の壁紙を突き破って出てきた事がわかった。



アンの部屋には大きな穴が空いた。


アンの部屋から窓の外を見たけど、ここは深い深い森の中のようで、塔から見える景色とは全然違っていた…。

ここどこだろう…。




とりあえず、次の日から、アンの部屋を数日かけて掃除をした。

どうやら匂いの原因はキッチンだったようで綺麗に掃除をしたら匂いが無くなった。



アンの話によると、アンの部屋と私の部屋とキッチンはそれぞれ独立して存在しているようだ。

それは景色を見れば全く違うので薄々はわかっていた。

キッチンからは白樺のような木が見える。



アンの部屋とキッチンはどこにあるのかわからない。

アンは

『王家の森よ』としか言わないし、私もそれ以上聞かない事にした。



アンは何故私が塔に住んでいるのか聞いてきたので、今はこの塔は高位貴族専用の牢になっている事、私、ユージニア・ダンカンは元第一王子の婚約者だったが、婚約破棄された上に無実の罪を着せられて幽閉された事を説明した。


『そうなの?それは面白いことになったわね。

アナタの生家はダンカン公爵家だったわね?

建国から続く名家のお嬢様が、何もない部屋に幽閉されるなんて大変ね。』


「思ったより快適ですけど、暇を持て余してます。」


『暇なら手伝ってほしいことがあるのだけどいいかしら?』


「もちろんです」


『明日から1日おきの午後にこの部屋に来てちょうだい。

ただし、お客様が来ることもあるから、その不思議な服はダメよ?

自分のドレスか、無ければこのドレスを。

そして、これからも私のことはアンと呼んでちょうだい。ユージニア、アナタをジニーと呼ぶわ』


アンはそう言うと、クローゼットからドレスを数枚出した。


『生前の私の服だけど、ゴーストは着替えられないから、アナタが着てくれると嬉しいわ』


一枚しかドレスを持っていなかったのでアンにお礼を言った。




次の日から1日おきにアンの部屋に通うようになった。


仕事は、書類の整理や代筆。


ゴーストの代筆って謎だとおもったら、魔法学や魔法論の書類だった。

ゴーストになっても研究中なんて…。

しかも見たことのない理論や装置の図面もいっぱいあった。


アンの部屋に行かない日は、自分で作っている音楽の装置を作り続けたり、ベッドから外した柱で、何を作ろうか考えたり、日干しレンガの続きの作成に取り掛かった。


毎日忙しくて気がつけば幽閉されてから3ヶ月が過ぎた。



そんなある日、いつものようにアンの部屋に行き、代筆をしていると、どこからともなく黒猫が現れた。


黒猫は

ソファーの裏から出てきたようだ。


「こんにちは。

この前もらった書類について聞きたいことがあってきましたー。

って、先日から助手を雇ったと聞いてたけど、まさか若い女性だったとは…」


黒猫は私を見てちょっと驚いていた。


外は小雨が降っていたせいで黒猫は体についた水をブルッと弾いた。


『いらっしゃい、ロン。どの書類?

書類庫から探しますけど、その濡れた体では書類まで濡れてしまいますわ』


そうアンに言われて、ロンと呼ばれた黒猫は魔法で体を乾かした。


『ロン、こちらは助手のジニーよ。

ジニー、こちらはわたくしのお使いをしてくれるロンよ。』


アンに紹介してもらって、私は黒猫のロンと握手をした。


アンは書類をロンに渡した後、魔法でしか育てられない植物について議論を始めた。


私は冷蔵庫からミルクを出して、小さなカップに入れるとロンに出した。


すると

「ジニーありがとう。次からは紅茶またはミルクティーがいいな」

と言われた。猫なのに人間っぽい…。


「わかりました」

と答えると


『あら!ジニー!

あなた、お茶を入れたりできるの?』


アンは驚いた。

この世界では高位貴族はお茶の入れ方など知らないけど、私は日本でなんでも自分でしていた。

前世の自粛期間の間にコーヒー、紅茶、日本茶、通信講座で趣味に出来そうなものは全てしてみたから、紅茶を入れるのも得意。


「ええ、私、なんでもできますよ?」


私がそう答えるとアンはビックリした顔をしていた。


アンのお客様は黒猫のロンだけではないようで、私が帰った後こそお客様が多いようだった。

その証拠に、次から次へと書類が持ち込まれている。


私が書類を見るのは1日おきである。

きっと誰かが来るということだ。


「アン、来客用にお茶やお菓子が必要なら教えてくださいね」


『…?ジニーはお菓子も準備できるの?』


「ええ。冷蔵庫からお菓子も取り寄せできるなら。できないなら簡単なものなら作れます…。」

これも自粛期間、暇すぎてパイを焼いたりクッキーを焼いたりしていたからだ。


『ジニーって高位貴族のお嬢様の割には掃除や縫い物もできるし、お茶を入れたりお菓子まで作れるなんて!

アナタ、出自を疑われたことない?

お嬢様はできないことばかりよ?』


「…お屋敷ではしていなかったから…私が、お茶を入れたりできるのは家族誰もしらない事なんです」

私はうまいい訳が浮かばなかった…。


『ふふふ、ジニーがダンカン公爵家のお嬢様である事は疑っておりませんわ。

アナタの逞しさに驚いているだけですのよ。

さっきのお話だと、来客用にお菓子とお茶を用意してくださるって言ってたけどお願いできるかしら?』


「わかりました」


『この部屋はね、キッチンと繋がっているけど、最初に話した通り別空間なの。

空間の繋ぎ目である魔法錠は本当は開かないはずなのに、ジニーだけが開けたのよ。

鍵として認められていたのは、生前のわたくしと、そのキッチンを使っていたメイドのみ。

ゴーストのわたくしは認められていないの。

鍵に認められた人でないとその先には行けないから、今まで来客があってもお茶を準備した事はないのよ。みんな驚くわ』


アンは笑っていた。

試しにお菓子を作る事にした。


火魔法のオーブンを使いこなすには強い魔力が必要なので今のわたしには使えないから、私が出せる弱い火でもゆっくり焼けるパンケーキを作る事にした。

アンは作っているところを見たいというので、キッチンの戸を開けて作る事にした。


魔法の冷蔵庫から材料を出していく。


小麦粉、ベーキングパウダー、卵、牛乳を混ぜて、弱い火で焼いていく。

焼き上がったら、蜂蜜とバターを塗ってクルクルと巻いた。


それから弱い火でお湯を沸かした後、それで紅茶を入れて準備した。

紅茶はタンブラーに入れて保温した。


『ジニーすごいわ!本当にできるのね!』

アンはビックリしていた。


『たしかにキッチンを見つけたという事はキッチンが使えるから魔法の扉に呼ばれたんだろうけど…』


「今は魔力封じで弱い魔法しか使えないから、カマドやオーブンは使えません」


『わかったわ。使えるようになんとかするわ』

とアンはにっこり笑った。


作ったおやつを自分の分を持って今日のお手伝いは終了した。

私はおやつと紅茶を持って自分の部屋に戻った。

バルコニーの音楽を鳴らして、紅茶とパンケーキで作ったロールケーキを食べた。

うーん、ロックじゃなくてクラッシックもかけたいけれど、通しで一曲知っている曲がほとんどない…。

知っている数曲のオルゴールを作る事にした。


この幽閉生活になってからの楽しみは真っ暗になった後のお風呂だ。

暗闇の中での露天風呂を楽しむために、ベットの天蓋を外して、天蓋を吊るしていた柱などを外に出してもう一度組み直し、その中にお風呂を置いた。

天蓋で外からはお風呂に入っているところは見えないが、こちらからは外が見える。


私は、少ない魔力でお水を出して、ゆっくり温めてからバスタブ用の桶に浸かった。

ほぼ毎日が露天風呂だなんて贅沢すぎるわ〜。




アンのお手伝いをしない日はオルゴールを作る事に費やした。

キッチンを見つけた事によって、白湯ではなくてお茶を飲めるようになった変化は大きかった。


そして次の日の午後、アンのところに行くと、アンは待ってましたと嬉しそうだった。


『ジニーが作ったお菓子、好評でしたわ!

みんなが、ジニーにもっとお菓子を作って欲しいからと、カマドやオーブンを動かす魔法石を置いていったのよ。

それにジニーに欲しいものを聞けですって!

ジニーは何が欲しくて?』


「うーん、今、バルコニーに家庭菜園が欲しいと思っているので、プランターと土、苗ですかね?

後、夜は真っ暗なので、外から見えないランプと、あとは、オルゴールを作る装置を…。無音でつまらなくて。

バルコニーの石畳に音楽を刻むのは骨が折れます。

それから…読書用の本があると嬉しいですね」


『やっぱりジニーって欲しがるものが変わってますわね。

普通の女の子らしく、毎月のファッション通信だとか、最新の洋服だとか。なんとかこっそり抜け出す魔法具とか…

そんなものを欲しがると思ったのに…』


アンはクスクス笑いながらそう言った。


「私、暇だけどそれなりに快適なんです。

人に合わせるより、自分のやりたいようにやれる生活が気に入ってます。

あ!洗濯のための洗剤や、バスオイルなんかすごく嬉しいです」


『わかったわ。

それよりも、皆が言ってましたけど、

今日はまた違うお菓子がいいみたいですわよ?』


「わかりました。ちょっと考えてみます」


そういうと私は書類の代筆や整理に取り掛かかった。


それが終わると、早速もらったばかりのオーブン用の魔法石を使ってオーブンに火を入れた。


それから、前世で好きだったチーズケーキを焼く事にした。

ケーキ型が見つからなくてグラタン皿でケーキを焼いた。


「アン、ケーキ型やクッキー型があるといいなぁって思いますよ」


大きなグラタン皿に焼いたケーキは置いてきて、小さなグラタン皿に焼いたものは自分の部屋に持ってきた。

もちろん、紅茶も準備した。


…コーヒーってあるのかな?

「また明後日の午後に来ます」


部屋に帰って、バルコニーで星を見ながらチーズケーキを食べた。




私が来るようになってからの書類の処理が格段に上がったせいで、持ち込まれる書類が増えてしまった。

そのせなのか、なんなのか。

気がついたら毎日アンの元に通うようになった。


アンのお客様は、私用に、小説や料理本、魔法石やバスオイルを差し入れしてくれる。



黒猫のロンさんとはあれから何回か顔を合わせている。

ロンさんは、アンと会計の話をしているので、貸借対照表などの話を少しだけしたら、それから黒猫さんはしょっちゅう来るようになった。

すごく驚かれた。

「ジニーは会計学がわかるのですか?」


ええ前世でちょっと、

とは言えないので曖昧に笑っていた。

私は、経理をしていた事がある。



黒猫さんはあれから、色々な本を差し入れしてくれる。

本ならなんでも読んでみるから、経済書でも小説でもなんでも読んでしまう。

アンの仕事の手伝いは基本、代筆だし、頭を使わないから読書も楽しく読める。

頭が疲れると読書って無理なんだよねー。




たまに来るのは黒猫のロンさんだけじゃない。

狐のベスさんはどうも女子力が高いらしく、ヘアオイルや化粧水なんかをよくお土産にくれる。


「ジニーさん、女子たるもの常にヘアケアには気をつけないといけませんわ。

私の毛皮はこのヘアオイルの艶の賜物ですのよ」


とベスさんは言っていた。

たしかに、前世のデパートで見た高級毛皮より高級そうな色艶のベスさん。

銀髪のキツネって妖艶なんだねー。



蛇のゴンさんにはプランターや野菜の種を差し入れしてもらったので、朝ヨガの後はプランターの草むしりなどをして過ごしている。


そしてお菓子があまりにも喜ばれるので、午前中からお菓子を作る日も増えた。



夏には、オレンジのタルトや、桃のコンポートを作った。



秋が来たら、外からは見えない魔法のランプで読書用の秋を体験し。

月見団子を作って、それもおやつとして出した。




このころ気がついた。

私の栗色の髪は、ヘアオイルのおかげで艶々になっている。

肌は差し入れでもらったクリームのおかげで、透明感が上がってきめ細かい。

バスソルトもいい感じなのかな?

あとは何よりメイクをやめたから、肌のストレスフリー。

もともと一食しか出ない食事は粗食だし、自分で作ったお菓子を食べたところで全く太らない。

鏡がないからわからないけど、痩せた気がする。

ヨガのおかげかもしれないけど。


社交界やお茶会に出なくて済むし、忙しいのは午後だけ。ストレス感じない。

ストレスフリーって最高!



外を見ると青青としていた森は落ち葉色になっていた。

そろそろハロウィンの季節。

ハロウィンにはパンプキンパイを焼いて、ジャックオーランタンを作った。



クリスマスが近づくと、アドベントカレンダーを作って、アンの部屋にも置いた。


『お客様は、今日のカレンダーを開ければいいのね?』


「そうです」


『これ、毎日違うお菓子が入ってて楽しいって好評ですのよ。こんな楽しいお菓子よく思いつきましたわね!でもなんで25日まで?』


なんと答えればいいかわからなくてにっこり笑った。

この世界にクリスマスがあるはずないよね。



あっという間に次の年になり、バレンタインの季節になった。

お客様用に生チョコを作ったり、チョコチップクッキーを作ったりして過ごした。



この頃になると、お客様とは顔馴染み。





そんなある日、お客様が突然来なくなり、しばらくお菓子作りをしなくて良くなったので、アンに何かあったのか聞いた。


『王の帰還で皆忙しいのですよ。

ここにいたら分かりませんけどね。

そうそう、ジニー、あなたに差し上げたいものがあるの』


そう言うとアンは小さな箱と、クローゼットの中から濃紺のドレスを1着くれた。

ドレスは普段着用のものではなく、上等なシルクでできたものだった。


箱の中にはアンの瞳の色と同じようなブルートパーズのペンダントが入っていた。



『ジニー。

このペンダントはあなたを守護するものだからつけていて欲しいのです。

それから、私のお気に入りだったドレス。

私はもう着れませんけど、ジニーにきっと似合うとおもいますわ。

その2つのアイテムは絶対に必要な時が来ます。

その時に使って欲しいですわ』



「アン、ありがとう!

なんて綺麗なの。こんな綺麗な魔法石見たことない。

それに、このドレスもクラッシックで素敵!

でも必要な時は来ないと思うけど…」


ペンダントトップの大きな宝石は純度の高い魔法石だった。

そういった魔法石はティアラやタイピンなど、装飾品にしてつけるが、その中でも最高級品であることには間違いなかった。



そして、次の日。

大きな変化が訪れた。



3月の初めで外はまだ寒くて、最後の雪がちらつく天気だった。


外は寒いが、

アンからもらった暖炉に使う魔法石で部屋はあったかい。

この気楽な生活が気に入っていて、どこにも行きたくないと思いながら朝ヨガをしている時だった。



突然、食事が運ばれてくるテーブルの上に王家の家紋の入った手紙が届けられた。



開封してもロクなことが書いてないのはわかっている。


私は開封しない事にした。



オルゴールで大好きなバンドの曲を聴きながらもらった薬草の鉢植えに水やりをしている時だった。


突然、バルコニーの窓が開き、

ダンカン家の執事服を着た若い男性執事と侍女が立っていた!

侍女は子供の頃からの付き合いであるカミーユだが、執事は初めて見る人だった。


「ユージニア様!

嘆かわしい。なんですかその不思議な格好は?

それにバルコニーで流れているうるさい音楽はなんですか?

カラス避けですか?

今の姿はかつてのユージニア様とは別人のようです。

さあさあ、今から手紙で送りましたが国王様との謁見があります。

ここから出られるんですよ?

ユージニア様の無罪が認められたのです。

早速準備しましょう!」

と言いながら、カミーユが入ってきて、ドレスなどの準備を始めた。



やっぱりロクな事がない。


「えー。

出たくないから着替えない…」


「ユージニア様…」


子供の頃からお世話をしてくれた侍女のカミーユが泣くので、仕方なく着替える事にした。

今はまだ自作の部屋着は脱ぎたくないのに…。


最近は、アンがくれたクラッシックなドレスが好きだったが、仕方なく渡されたドレスに着替える事にした。


カミーユははヘアメイクの準備をしてくれたが、それを遮って狐のベスさんにもらった金細工の髪飾りをつけて簡単にまとめた。

メイクは薄化粧で、幽閉前のフルメイクはしない。



準備されたドレスは豪奢なレースの淡いグリーンのドレスだった。

フリフリが、いっぱいついていて趣味じゃない。



と思ったが


「パッと見ただけで気づいておりましたが、ユージニア様がこんなに痩せていたなんて…。

以前のお嬢様のドレスと同じサイズで作ってきましたのに、このドレスブカブカですわ…どうしましょう」

メイドは困った顔をした。


たしかに自分で作ったおやつと質素な食事が1日一回。

ヨガをしたり、アンのお手伝いで沢山の本の整理などしていたから、かなりの運動量があったと思う。


体重計がないからわからないけど、すごく痩せたのはわかる。



体型にぴったりなのはアンのドレス。


だから昨日アンにもらったドレスを着る事にした。

ドレスはAラインのロングドレスで、コルセットがついていて、着ると自動的に苦しくないくらいに補正してくれた。

そして同じくアンからもらったネックレスをした。


「ユージニア様、そのドレスは?

すごく素敵なデザインです。

そのネックレスもすごく素敵ですわ!」



私は曖昧に笑った。



そして、移転魔法で国王陛下の謁見の間に連れ出された。



すでに国王陛下や各大臣などが控えている広間。


こういった裁判的なケースでは誰の顔も見えなあのだけど、今回は国王陛下、第一王子、第二王子、第三王子、それから各省庁の大臣や有力貴族が集まっているみたい。


まだ国王陛下から顔をあげて良いと許しを得ていないので膝をついてずっと下を向いているけど…。



「ユージニア・ダンカン公爵令嬢。」


国王陛下はいきなり名前を呼んだ。


「はい」



「この度は無実の罪を着せてしまい申し訳なく思う。

ダンカン公爵家は代々、王家に仕える由緒正しき一族。

その一族が詐欺に加担するなどあるはずがない。

まず、魔力封じを解く」


その声と共に体に力が戻ってきた。

魔力!

帰ったら早速なにしようかな?

ふふふ、楽しみ〜。



「ダンカン公爵家を含む複数の国境を守る貴族のお陰でこの国は安泰なのだ。

今回の事は、王である私とダンカン公爵家を含む複数の魔力が強い公爵家で、魔族討伐に行っている間に起きた。

しかもこの事を知ったのは城に帰還した数日前だ。

本当に申し訳ない。

長い間辛い目にあわせてしまった。

この国のために尽力してくれているダンカン公爵家の家名に傷をつける行為であった。」



本来のユージニアならあの環境で耐えられたかはわからないけど、前世の記憶がある今の私はむしろ快適ですよ、国王陛下。

口には出さないけどね。


「ユージニア嬢、そなたの両親は魔族との戦闘の後、その脚で今は国境を越えようとする他国の軍隊と戦っていてこの場には来れない。

だが、そなたの父からの手紙を預かっている。後でゆっくり読むが良い」


そして、顔をあげて良いと合図が出たので、立ち上がりこの時に初めて周りの状況を見た。


私の様子を見て驚いている貴族が多数いた。


????

クラッシックすぎるドレスのせいかしら?


「さて、ユージニア嬢をこんな目にあわせたコールビート第一王子。そなたに処分を下さねばなるまい」


国王陛下は第一王子の方を向いた。


「父上!

このものはユージニア・ダンカン公爵令嬢ではありません!」



「この後に及んで何を言う?」

国王陛下の声が低くなった。



「まず見た目が全く違うではありませんか。

ユージニア嬢は、こんなに美しくありません。

厚ぼったい化粧にコロコロとした体、艶のない癖毛の栗毛で猫背。

目の間にいるご令嬢は、モデルのような体型で背筋も伸び、綺麗な栗毛ではないですか。

別人を連れてくるならもっと似た人を連れてきてください」



と、コールビート第一王子は獲物を狙うような目でこちらを見た。

無理無理無理無理!

その目、気持ち悪い…。


私は目を逸らした。


…そういえば、ユージニアはぽっちゃりさんだった。

ユージニア的には、それも愛嬌のひとつだと思ってたんだけどなー。

猫背が治ったのはヨガのおかげ。


それに化粧はたしかに厚塗りが好みだった。

…甘いものを食べ過ぎてできるニキビを隠すために。



国王陛下は憤慨して言った。


「何を言う。

コールビート、王族ならば魔力を使って見てみるが良い。

誰がどう見てもユージニア・ダンカン公爵令嬢ではないか!

それとも、自分がした事は正当だとでも言いたいのか?

お前は第一王子という立場を利用して、皆が魔族討伐に行っている間にやりたい放題だったようだな。

ユージニア嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢や踊り子を婚約者候補にして。

それだけではない。国力が急激に弱っているのは、コールビートのせいだとか。」


国王陛下はため息をつくと

「コールビートの行いを検証後、改めて裁判を行う。

衛兵、コールビートを連れて行き、西棟から出すではない。

証拠隠滅をされないためにも見張りをつけろ。

それから加担した貴族の裁判もその時に行う。」


と国王陛下はいい、第一王子は衛兵に連れて行かれた。




国王陛下は数日前に討伐から戻られたばかりなのに、すぐに気にかけてくれたのが嬉しかった。




第一王子の行いについては、国王陛下不在の間に苦しめられたのは私だけではなくて、沢山の貴族がその振る舞いに苦しめられたようだ。

国王陛下は迅速に対応をしてくれるだろう。



とりあえず終わったし帰ってお風呂入りたいなー。



「ユージニア嬢の名誉回復とダンカン公爵家の名誉回復が先決だが、ユージニアにはまずお詫びの品を渡したい。

品物でそなたの貴重な一年が戻るとは思わないがせめてもの償いである。

何が良いか?」


そう聞かれたので、


「では、あの塔を私にください」


と言った。


「????

あのそなたを幽閉していたあの古い塔を?」

国王陛下はびっくりしている。


「ええ。あの塔です。」


「…わかった。あんな古い塔ではなく町屋敷を建てさせようか?」


「いえ国王陛下、あの塔がいいのです。」

私はニッコリ笑った。


「ではそなたの希望するあの塔をユージニア・ダンカン公爵令嬢のものにいたそう」 





とここで国王陛下は何かに気づいた。


国王陛下は同席している貴族達の動揺の原因がどうやら壁にあるらしいと気づき、皆の視線の先にあるものを追った。


そして国王陛下もびっくりした顔をした後、



「ユージニア嬢!その…そのネックレスは?」

とここで会場が更にざわついた。


「これは私の大切な友人からお守りとして渡されたのです。」


「わかった。では…その…ドレスは?」


「頂いたんです」


国王陛下の動揺した様子に困惑しながら、国王陛下の視線の先を見た。

それは私の後ろにかけられている歴代の王の肖像画だった。



私の真後ろに、第8代王位継承者であるアンネクローナ女王の肖像画があった。

8代目にして、初めて、王位継承をした女性だ。



なんと!私と同じドレス、同じネックレスをしている!



それに気づいた貴族達がずっとざわめいていたのだ。



「その…ネックレスはアンネクローナ女王が認めた者しか見つけられない…。

アンネクローナ女王亡き後も、亡き王女が認めた者の所にしかそのネックレスは現れない…。

ユージニア。そなたは…アンネクローナ女王に認められたのか…。」



肖像画は、女王に即位した歴代女王様達はこれと同じネックレスをしているし、王位に即位した歴代王様は、皆同じ王冠をしている。


そんな大切なネックレスだったなんて!

何も知らないから、早く帰らないと、面倒になる!




私は淑女のお辞儀をして退室した。





「それではお嬢様、帰りましょう」

と侍女のカミーユに言われた。


カミーユと執事は控えの間に待機していたので今日の内容は知らないが帰れることはわかっていたみたい。


「やっと終わったー!

じゃ。やる事があるので帰るけど、次来る時は勝手に窓開けないでね?」

とお願いすると


「ユージニア様!

お屋敷へ帰らないのですか?」

と執事が言ったので


「あの塔、快適よ?」

と言うが、なかなか信じてもらえない。


「じゃあ今度、2人を招待します。

そうそう、これからも毎日あの塔にご飯を運んで欲しいのです。

修道院のご飯、低カロリーで気に入っているのでアレでお願いします」

と私は言い残すと、

2人を残して移転魔法で塔まで戻った。



まず、久々の人前で疲れたのでお茶で一服して…。

と言いたいところだけどすぐにアンの所に行った。


アンは相変わらず書類を手に考え事をしていた。

…ゴーストなのに生きているみたいに。


「アン!」


『ジニー。もしかしたらもう会えないのではと思っていましたわ』

アンはにっこり笑った。


「アンがアンネクローナ女王だったなんて。」


『あら、気づいてしまいました?』

アンはわざと驚いた声を出したが顔は笑っていた。


「このドレスとネックレスが肖像画と同じでびっくりしたわ!」


『フフフ、ジニーにすごく似合ってますわ』


肖像画は年齢を重ねた顔をしていたが、目の前のアンは若々しい。


『あの絵は私が50歳くらいの時のですわ。

ゴーストの姿でこの世に残ると決めた時、姿は若い頃の方がいいと思いまして、16歳の姿でゴーストになりましたのよ』


アンはクスクス笑っていた。


『ユージニア、この一年、無実の罪で幽閉されましたのによく頑張りましたね。

あなたはもう自由ですよ。』


アンは優しい笑顔だった。


「アン、私、この生活が快適なので、あの塔から出るつもりはありません。

このままお手伝いを続けますよ。」


私の言葉にアンはびっくりしていたが、嬉しそうだった。


「それから、このネックレス。すごく大切なものなんですね?なのでお返しします」


『ジニーに必要なくなったら勝手に私の元に戻るネックレスだから気にしなくてもいいわ』

と返却を拒否された。



自分の部屋に戻って、いつものように露天風呂に入って、ゆっくり寝ることにした。

ダンカン家のフカフカの布団と枕は必要だから、明日早速持ってきてもらおう!

そう考えながら眠りについた。



それから数日後、コールビート第一王子の裁判があった。

コールビート王子の王位継承権は剥奪、罪人として収容所に送られる事になったみたい。

ここから余罪の追求があって、最悪、死刑になるかもしれないみたい…。

一体何をしたんだか…。


引きこもりの私のために数日に一回、カミーユが様子をみにくる。

その時に教えてもらったのだけど、

ついでに

「夜会やお茶会のお誘いの手紙、お見合いの申し込みが大量に届いて困っています」

と愚痴を言って帰っていった。




あのネックレスのせいかな…。

でも今は外に出る気がないので相変わらず引きこもっている。












最後まで読んでいただいてありがとうございます。

いかがでしたでしょうか。


評価していただけると嬉しいです


ご指摘いただきました女王と王女を間違えた事と、第一王子の名前が途中から変わっていた事を教えていただきましてありがとうございます。


教えてくださった皆様、ありがとうございました!




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