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いずれ、訪れる日に向けて。

作者: 小雨川蛙

 

「それでは最後の挨拶を」

 私がそう言うと年若い夫婦が少し寂しそうな顔をして静かに眠る赤子にキスをした。

「また会いましょうね」

 瞳に涙を浮かべた妻の言葉に夫は苦笑いをしながら付け加える。

「まぁ、その頃にはお父さんたちはお爺さんになっているかもしれないが」

「もうっ」

 そう言って妻は軽く夫を叩き、夫は「悪かったよ」と茶化す。

 二人共、その目に涙を浮かべたまま。

 私は微笑むと二人の前で一礼をする。

「ご安心ください。必ずご子息はお守りします」

 その言葉に二人は我に返り強く、哀れになる程信頼を込めた目を私に向けて言った。

「お願いします」


 夫婦と別れた後、私は小さな瞬間冷凍装置に穏やかに眠る赤子を入れる。

 苦痛はない。

 ボタンを押す短い時間……それこそ瞬きよりも短い時間で赤ん坊は冷凍され生命活動を停止させられる。

 しかし、それは命を失うと言うわけではない。

 この子の命は文字通り凍っているだけ。

 解凍されればこの子は通常の人間と同じように生きていける。

「酷いビジネスだ」

 私はそう呟いてため息をつく。

 私の会社は未来ある子供達を平和な時代へと連れて行くことを目的としている。

 少なくとも、そう掲げている。

 戦争、貧困、飢えに病気。

 あらゆる恐ろしいことが起こるこの時代において新たな命を生んだ親たちの一番の悩み。

 それは『我が子は幸せになれるだろうか』という切実且つ慈しみ深いもの。

 私達の会社はそれを叶えるため、赤子を平和な時代まで守り続けるのだ。

「馬鹿らしい」

 私は呟いて踵を返す。

 平和な時代など人類が生きている限り訪れるはずもない。

 カツカツと響く自分の足音に苛立ちながら、数え切れないほどの赤子が冷凍された『倉庫』を私は後にした。

 彼らが目覚めることは決してないと確信しながら。


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