スタートアップのお金と指標入門講座:利益と利益率 (Profit & Margin)
今回は利益についてです。引き続き読者対象はSeries A 以前の、CFO のいないスタートアップを想定しています。以下はこの入門講座のシリーズのリストです。
- バーンレート
- 収益 (Revenue & MRR & SaaS Quick Ratio)
- 利益と利益率 (Profit & Margin) <- ここ
- チャーンレート
- ユニットエコノミクス (CAC & LTV)
- 成長率 (MoM & CMGR)
- まとめ
この連載は、リンク先の管理表を埋められるようになり、起業家と投資家がある程度同じ用語で話ができるようになるレベルを目標としています。また今回の利益の話を読めば、以下の表ようなスタートアップのパフォーマンスの一部が読めるようになることを目指しています。
利益の 2 種類:利益 (Profit) と利益率 (Margin)
利益について話すとき、利益 (Profit) と利益率 (Margin) の二つが混同して話されることがあります。プロフィットとマージンを同じ意味で使うのは慣用的には許される使われ方ですが、念のため使い分けるほうがコミュニケーションを行うときには便利なので、本稿でも使い分けながら解説します。詳しくは Wikipedia (Gross Margin) を参照してみてください。
- 利益(絶対額):プロフィット (Profit)
- 利益率(パーセンテージ, %):マージン (Margin)
また、収益 (Revenue) と利益 (Profit) の意味が違う点は念のため確認してください。
会話の例
起業家「売上は 1,000 万円、利益率は 70% です。投資してください」
投資家「その利益率はグロスですか? それともオペレーティングでしょうか、ネットですか?」
起業家「…」
4 つの Profit と Margin
スタートアップでよく使われる利益の種類は以下の 4 つです。それぞれ意味が異なるので注意しながら利用してください。
- 粗利益、売上総利益(Gross Profit / Gross Margin)
- 営業利益(Operating Profit / Operating Margin)
- 純利益(Net Profit / Net Margin)
- 限界利益(Contribution Profit / Contribution Margin)
また実際の会話の中では profit のところが income となったり、margin なのに絶対額が使われたりするので注意してください。
Gross Profit (売上総利益、粗利益) / Gross Margin (売上総利益率、粗利益率)
Gross Profit は基本的な利益として用いられることが多く、プロダクトやサービスの競争力を表す指標として用いられます。Gross Profit (売上総利益、粗利益) と Gross Margin (売上総利益率、粗利益率) の関係は以下の図のようになります。
収益から COGS を引いたものが Gross Profit です。ここで COGS とは Cost of Goods Sold (売上原価) の略で、主に以下の様なものが含まれます。
- 部品代
- 減価償却費
- サーバー費用
- ソフトウェアライセンス費用
- レベニューシェアの費用
- 直接労務費(保険なども含む)
注意いただきたいのは、普段よく使われる「固定費」「変動費」という用語が入っておらず、COGS には固定費も変動費もそれぞれ混合されてることです。たとえば卸売業や小売業であれば、変動費と COGS はほぼ等しい関係にあります。一方、サービス業や製造業では、人件費や工場経費が COGS に含まれるため、多くの固定費が COGS に入ります。
Gross Margin (%) の計算式は以下のとおりです。
一般的に、ソフトウェア企業の場合は Gross Margin が 80% 以上、製造業や小売業の場合は Gross Margin が 20 -30% 程度になることが多いとされています。
Operating Profi (営業利益) / Operating Margin (営業利益率)
Gross Profit から OPEX を引いたものが Operating Profit (営業利益) と呼ばれます。投資家は主に Operating Profit を気にすることが多いです。
Operating Profit と Revenue の関係を以下に示します。
OPEX は Operating Expense (販売費および一般管理費) の略で、主に以下のようなものが含まれます。
- オフィスの賃貸料
- メンテンナンスや修繕料金
- サプライ購入費
- 弁護士費用など
- 通信費
- 出張費用
- R&D の費用
- SGA (Selling, General and Administrative Expense)
- Sales & Marketing 費用
Operating Margin (%) の計算式は以下のとおりです。
Net Profit (当期純利益) / Net Margin (当期純利益率)
実際の利益が Net Profit (当期純利益) です。Operating Profit から税金や利息、特別損益などを引いたものが Net Profit になります。スタートアップにとっては Operating Profit から税金を引いたものがほぼ Net Profit にイコールになることが多いです。
Contribution Profit (限界利益) / Contribution Margin (限界利益率)
Contribution Margin (限界利益) とは管理会計で用いられる、プロダクトやサービスの競争力を表す指標です。Revenue との関係を以下のようになります。
Contribution Profit は COGS や OPEX の中の変動費のみをコストとみなして、Revenue から変動費を引いたものになります。
計算式は以下のとおりです。
Contribution Margin は Customer Lifetime Value (LTV) でも使われますので覚えておいてください。
業種による Margin の違い
Atlassian の Gross Margin と上場 SaaS 企業の Gross Margin の中央値を比較した図は以下のとおりで、Atlassian は 80% 近い Gross Margin を出している企業ということが分かります。
一方ハードウェアスタートアップの COGS などはソフトウェアに比べて高く、例えば以下のようなものが必要になります。
その結果、あくまで例ですが、ハードウェアの利益はスケールしないとなかなか出づらい結果となります。自社のビジネスがどのようなコスト構造と利益構造を持っているかは、Series A の投資を受ける前にはきちんと説明できるようになっておくことをおすすめします。
SaaS の 40% ルール
SaaS スタートアップが健全な状態かどうかを測るための、40% ルールというものが提唱されています。計算式は以下のとおりです。
たとえば、年間の収益成長率が 100% なら Operating Margin は -60% (赤字) でよく、年間の収益成長率が 40% なら収支がゼロの状態、年間の収益成長率が 20% なら Operating Margin は 20% 欲しい、といったような計算です。一つの参考にしてみてください。
その他にも利益の種類はあります
今回は主に使われる 4 つを解説しましたが、その他にも経常利益や税引前利益などもあります。上記の 4 つを抑えた後は残りは理解しやすいと思うので、必要に応じて調べてみてください。
参考資料
連載内容はスライドにもまとめています。