心臓移植の適応外となった重症心不全の患者は、これまで治療の選択肢が極めて少なかった。昨年5月、その状況が大きく変わった。移植が受けられる人しか公的医療保険で使えなかった植え込み型の補助人工心臓が、移植の対象にならない人にも適用拡大されたのだ。それから5カ月後、体外設置型の人工心臓から植え込み型に替えた40代の女性患者は「これで自宅に帰れる」と喜びを語った。植え込み型人工心臓の適用拡大の意義と課題を取材した。
厳格な心臓移植の適応条件
重度の心不全状態になると、全身に必要な血液を送ることができなくなる。弱った心臓のポンプ機能を補うのが人工心臓だ。心臓を支援するポンプを体外に設置するのが「体外設置型」、体内に入れるのが「植え込み型」だ。
一般に、体外設置型は発病したばかりで入院中の急性期の患者、植え込み型は急性期を乗り越えた慢性期の患者が装着することが多い。しかし、日本では、植え込み型は心臓移植を待つ患者しか、保険で使うことができなかった。
日本で心臓移植を受けられるのは、65歳未満で、がんや心臓以外の内臓などの病気がないなど、厳しい条件に合致した患者になる。提供を受けた心臓を、大切に長く使い続けられる人に限定しているためだ。心臓移植の適応になれば、移植までの「橋渡し」として植え込み型を保険で付けることができ、自宅で療養しながら提供を待つことになる。
一方、高齢者やがんなどになった人は、同じような重い心不全を抱えていても植え込み型を保険で使えず、入院して体外設置型を使い続けるか、やむなく寿命を迎えるしか治療の選択肢がなかった。
高性能の植え込み型の登場
国内の植え込み型人工心臓の成績は高く、2010年に始まった移植待機患者が装着した状況を登録する事業「J-MACS」のデータによると、5年生存率は約7割だった。移植適応ではない患者を対象にした臨床試験も実施され、J-MACSと同様の結果だった。そこで、移植を選択できない患者に対しても保険適用が拡大されることになったという。
技術革新も後押しした。今回、適用になったのは米アボット社製の「ハートメイト3」だ。
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