2023年度から全国の学校で「生命(いのち)の安全教育」が始まります。「子どもたちを性暴力の被害者にも、加害者にも、傍観者にもしない」。それがこの教育の目的です。
子どもたちが一斉に学び始める前に、私たち大人は「子どもからのSOSを受け取る準備」をする必要があります。それはなぜでしょうか。また具体的に、どのような準備をしておくことができるのか、今回は皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
「大人に相談すること」を学ぶ子どもたち
「生命の安全教育」では、プライベートゾーン、SNS(ネット交流サービス)、デートDV(ドメスティックバイオレンス)、性的同意などについて、段階的に積み重ねて学びます。各クラス担任の先生が道徳などの時間に教えることが想定されているようです。
これは、性教育の世界的な指針である国連教育科学文化機関(ユネスコ)による「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」のキーコンセプト4「暴力と安全確保」(https://sexology.life/data/4_violence_and_staying_safe.pdf)に相当します。内閣府と文部科学省が作成した教材は「幼児期」「小学校低・中学年」「小学校高学年」「中学校」「高校」「高校(卒業直前)・大学・一般」の全6種類。文科省のウェブサイトでそれぞれ内容を確認できます(https://www.mext.go.jp/a_menu/danjo/anzen/index.html)。
子どもたちはまず、どのような状況が性暴力に当たるのかを学びます。そして、一番大切なことを教わります。
「性被害に遭った時、あなたは100%悪くない。悪いのは完全に加害者の方なんだよ。だから必ず誰かに相談してね」と。
子どもたちが、大人に相談することを学べば、これまで私たちが知りえなかったような性被害が明るみに出る可能性があります。
以前、中学3年生で私の性教育の講演を聴いた子が、養護教諭に「パパとしていることが、赤ちゃんができる行為だと初めて分かった」と言いました。彼女は児童相談所経由で私の思春期外来につながり、受診できました。
性暴力の被害に遭った時に相談したことで、加害者に立ち向かえた友人がいます。彼女はネット婚活で知り合った男性に、「体の相性を試さないと結婚できるかどうか決められない」と迫られ、まだそのタイミングだと思っていなかったけれどもいずれ結婚するならと思って求めに応じました。
ある日、何の気なしにネットを見ていた彼女はその人が妻帯者であると気付いたのです。夜中だったので、当時、性被害に関する相談を受けてくれるところは限られていましたが、性暴力救援センター・大阪SACHICO(https://sachicoosaka.wixsite.com/sachico)に電話しました。
「これは性暴力でしょうか?」と相談したところ、「それは性暴力ですよ」と受け止めてもらい、法テラス(日本司法支援センター)を紹介され、弁護士さんにサポートしていただくことができました。
これは10年近く前の出来事だったのですが、もし大阪SACHICOではなく、私、高橋幸子が相談を受けていたとしたら、「それは性暴力ですよ」と伝えてあげられたかどうか……。
性暴力や性的同意について学…
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埼玉医科大学医療人育成支援センター・地域医学推進センター助教/産婦人科医
2000年山形大学医学部医学科卒業。埼玉医科大学地域医学医療センターなどを経て、現在、埼玉医科大学医療人育成支援センター・地域医学推進センター助教。埼玉医科大学医学教育センター、埼玉医科大学病院産婦人科助教を兼担。日本家族計画協会クリニック非常勤医師。SAIPE 彩の国連携力育成プロジェクトメンバー、IPW実習 教員FT、SCAP(埼玉医科大学こども養育支援チーム)委員、GID医学・医療推進委員会委員。全国の小学校・中学校・高等学校にて性教育の講演を行う(2019年は135件)。著書に、「サッコ先生と! からだこころ研究所 小学生と考える「性ってなに?」(2020年、リトル・モア)がある。産婦人科専門医、社会医学専門医。