新型コロナウイルス(以下、単に「コロナ」)の流行当初、「日本人はコロナによる死亡者が少ない」と言われていました。この理由についてさまざまな識者がさまざまな意見を述べていました。「日本人はBCGを接種しているからコロナに強い」などというウワサもまことしやかに広がりました。ところが、いつの間にか日本人のコロナによる死亡者が増え、人口10万人あたりの死亡者数は2023年、米国を上回りました。今回はなぜ日本で新型コロナによる死亡者が増えているのか、死亡者を減らすには何が大切なのかを私見を交えて述べます。
当初は少なかった死亡者数
まずコロナの流行当初、日本人はコロナによる死亡者が少なかったことを確認しておきましょう。コロナの流行が始まった20年、世界では180万人以上のコロナによる死亡が報告されました。最も死亡者が多かったのは米国で、米疾病対策センター(CDC)によると35万人が死亡しました。人口10万人あたりでは85人になります。一方、日本での死亡者はわずか3466人で、人口10万人あたり2.8人でした。
世界の人口を80億人とすると10万人あたりのコロナの死者は、世界22.5人、米国85人、日本2.8人となります。日本の人口あたりのコロナによる死亡者数は米国のわずか30分の1に過ぎませんでした。
ところが、23年の死亡者数は、米国7万6446人(人口10万人あたり18.2人)に対して、日本は3万8086人(同31.4人)と、人口10万人あたりの死者数は日本が米国を上回ったのです。
ファクターXの正体
冒頭で述べたように、「日本でコロナの被害者が少ないのはなぜか」についてはさまざまな説が流布されてきました。いつしか被害者が少ない要因が「ファクターX」と呼ばれ(名付け親はノーベル賞受賞の山中伸弥先生)、なかでも「BCG説」については大勢の学者が研究を重ね、いくつもの論文が発表されました。現在でもこの説に固執している人はごく少数だと思われますが、20年当時「幼少時にBCGを接種していないから打ってほしい」という外国人からの依頼が当院に多数寄せられました(そんなことをすると必要な乳児に接種する分が不足してしまいますから全て断りました)。
では、なぜ初期のコロナでは日本人の死亡者が少なかったのでしょうか。これについては過去の連載「新型コロナ 『第6波』後でも日本の死者が欧米より少ない理由」で私見を紹介しました。ここで少し振り返ってみましょう。
まず私は、コロナによる死亡者が少ないのは日本だけではなくアジア諸国全体でいえることに注目しました。そのコラムに掲載したグラフをみ…
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谷口医院院長
たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。谷口医院ウェブサイト 月額110円メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。