不快感でやる気が上がる
今まで試したことのないことに挑戦するときは誰でも緊張し、ストレスを感じるものです。
また、新しいことに挑戦するときに感じる不快感を、「この挑戦は自分の手に負えない挑戦であるサインだ」と解釈して、行動を中断するのはよくあることです。
「こんなにも不安が強いのだからやめておいたほうがいいかも」と思って新しいスキルを学ぶための機会を放棄してしまうのです。
しかし、このような種類のストレスや心地の悪さはただ回避するのではなく、それらを自己学習の一部として受け入れることが、個人が成長するための動機づけにつながります。
不快感を学習の指標にしてみて
2022年に、コーネル大学SCジョンソン・カレッジ・オブ・ビジネスのケイトリン・ウーリー、シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネスのアイレット・フィッシュバッハ博士らは、2,163人の成人を対象とした研究を通じて、不快感が個人の成長の動機付けになることを突き止めました。
この実験では、即興的な演奏技術や表現豊かな文章を書いたり、COVID-19のリスク、自分が持つものとは反対の政治的視点、銃乱射などの判断の難しいテーマについて学んだりしました。
この際に、一部の被験者には「不快感を学習の指標」とするように指示を出しました。
その結果、不快感を学習の指標として受け入れるように促した人たちはより意欲的に物事に挑戦するようになったのです。
やる気、集中力、達成感がアップ
彼らは、演奏の練習をより長く続け、表現力豊かな文章を書く練習に取り組み、理解が難しいけれど重要な情報に対しても心を開くことができました。
不快感を受け入れるように指示された参加者は、よりリスクを取った動きをしていると評価され、挑戦へのモチベーションがアップし、作業に対する集中力を長く持続させることができました。
また、不快感を受け入れようとした学生は、授業の終了後には達成感をより強く感じていました。
逆にやる気が下がる考え方
一方で、「自分がスキルを身につけている」「上達を感じている」「新しいことを学ぶ」といった感覚に注意をするように指示をされた参加者は、リスクを避け、創造的なリスクをとらなくなる傾向があると評価されました。
また、不快感を伴わない作業では、「不快感を受け入れよう!」という認知的な操作をおこなっても効果がありませんでした。
まぁ、不快感が実際にないので、これは当然と言えば当然の結果ですね。
不快感を意識することが重要
さらに、「不快感を学習に利用してください」ではなく、単に「不快感を意識して感じてください」と指示を受けた場合でも、同じような効果が表れることがわかりました。
どうやら私たちは、不快感を求めているとき、たとえ明示的にそうするよう促されていなくても、自発的に不快感を肯定的な手がかりとして再評価する心理が働くようです。
つまり、重要なのは「不快感を意識すること」なんですね。
まぁもちろん、「不快感を利用してやろう!」と思っているほうが、行動する前のモチベーションアップにつながるとは思いますが。
ネガティブな経験は進歩のしるし
実際のところ、挑戦することや成長することは、時に居心地が悪いものです。
しかし、逆に言うと、この居心地の悪さをなくしては、私たちは成長することはありません。
これを例えるなら筋トレがわかりやすいでしょう。
筋トレは高い負荷を与えることで筋肉を一時的に破壊しますが、そのあとでより強くなるよう成長を促します。
心もこれと同じです。
私たちの心は、挑戦による不快感やストレスという負荷を一時的に受けることで、より強く大きく成長することができるのです。実際に筋肉がある人ほどストレスに強くなるという研究もあります。
努力とは基本的にそれ自体は不愉快なものです。努力が良いものに感じられるためには、目標にたどり着き、達成感を得る必要があります。つまり、達成感を得るまではただただ不愉快で辛いのが努力なのです。逆に言うと、仕事も趣味も別に辛くていいんです。なぜならそれが努力と成長の証だからです。
— 心理学を解説する ちょっぺ〜先生 (@kruchoro) August 21, 2022
つまり、ドMになれ!
不快感を受け入れるというこの心理戦略は、「不快感は悪いものではない」という認知的再評価を利用しています。
これによって、実際に不快感を経験する前にそこに新たな意味を付与することができ、不快感を行動停止の合図ではなく、モチベーションの源として機能させることを可能にします。
なので、もしもあなたがやる気を上げて結果につなげたい目標を持っているのなら、その目標の達成に必要な挑戦から感じられる不快感を受け入れてみてください。
わかりやすい言葉で言うのなら、「ドMになれ!」ってことですね。不快感を感じたらむしろ喜ぶくらいがいいでしょう笑。
これは実に深い話ですね。不快感だけに。
参考論文
Woolley, Kaitlin, and Ayelet Fishbach. “Motivating Personal Growth by Seeking Discomfort.” Psychological Science, vol. 33, no. 4, Apr. 2022, pp. 510–523, doi:10.1177/09567976211044685.