カシオから2022年9月29日に発売された電子ピアノ「PX-S7000」は、抜け感のある美しいデザインが特徴。実際に2023年4月末には、毎年すぐれたデザインの製品に贈られる「iFデザイン賞」の中でも最高賞の「iFゴールドアワード」を受賞しました。また、カシオ電子楽器アンバサダーであるピアニストの角野隼斗さんが本モデルを使い、楽器専門店「島村楽器」でゲリラライブ。その様子がSNSに投稿されたことでも注目を集めました。今回は、そんな話題の本モデルをメーカーからお借りし、自宅で約2週間じっくり使ってみて、その魅力に迫ります。
価格.comの最安価格は「PX-S7000HM(ハーモニアスマスタード)」が275,000円、「PX-S7000BK(ブラック)」と「PX-S7000WE(ホワイト)」が253,000円(2023年5月15時点)
「PX-S7000」は「音楽も生活も自由なスタイルで」をテーマに、洗練されたスタイルとサウンド、革新的な機能を盛り込んだ「Privia(プリヴィア)」シリーズの最上位モデル。従来のスタンド・ペダル一体型電子ピアノとは一線を画す、360度どこから見てもモダンで美しいデザインに加え、独立駆動する4つのスピーカーが実現する、演奏空間に応じた音作りと、高品質な400種類の音色などにより、新たな演奏体験が楽しめます。
スタンド・ペダル一体型の電子ピアノ「PX-S7000」。本体サイズ(固定3本ペダルユニット装着時)は1,340(幅)×449(奥行)×741(高さ)mm
ここからは、「PX-S7000」の特徴をそれぞれじっくり見ていきましょう。まず、筆者が何よりも特筆すべき魅力だと感じたのが、アコースティックピアノとしての様式美を持ちつつも、生活環境に調和する新しいデザイン。本体カラーが「マスタード」だと聞いた当初は、部屋に配置した際のイメージが湧かなかったのですが、実際に置いてみると、茶色をベースとした床材や、白や黒を基調とした家具の色とマッチしてとてもよい色合いだと感じました。洗練された深みのあるイエローは、インテリア空間に自然と溶け込みつつ、ちょっとしたアクセントにもなる、まさに優秀なカラーと言えるでしょう。
本体色に合わせたペダルユニットや透明のアクリル素材を使った譜面台など、細部までこだわりが感じられるデザイン。カラーは、本体側面にグランドピアノのようなポリッシュ仕上げを施した「ハーモニアスマスタード」のほか、「ブラック」「ホワイト」の3色をラインアップします
背面に配置されたファブリック素材のスピーカーネットが、落ち着いた雰囲気を演出
ふんわりとした手触りのフェルト素材に、レザー調のハンドルがワンポイントになったピアノカバーが付属します
LEDタッチボタンとタッチリングを搭載した操作部分は、シンプルでおしゃれな印象
次に紹介したい特徴は、本体と一体化したペダル。一般的な電子ピアノでよく見られる「後付けの黒いペダル」の場合、踏むたびにペダルが動いてしまい、ストレスを感じることが多々ありますが、本モデルは本体に固定されているので踏み込みやすく、安定感があります。
しっとりとした踏み心地が印象的で、ショパンの「幻想即興曲」やドビュッシーの「喜びの島」といった繊細な曲も心地よく弾けました。ただし、ペダルの高さは調整できないので、子どもが使用する場合は、事前に足がペダルに届くか確認しましょう。
十分な長さがあり、余裕を持って踏み込める3本のペダル。右端のダンパーペダルは連続可変式を採用しているため、細かいニュアンスの変化を出しやすいと感じました。左端のソフトペダルは、2段階調整が可能
ペダルを支える支柱には空洞がなく、中までしっかり素材が詰まった状態。適度な重量感と安定感があります
次に紹介したいのが鍵盤です。こちらはグランドピアノにも採用されている「木材(スプルース)」と樹脂のハイブリッド構造が採用されているほか、白鍵には象牙のような自然な感触のシボ加工が施されています。安価な電子ピアノに採用されているプラスチック製の鍵盤だと、指が滑ってしまい、速いパッセージの曲が弾きにくいときがありますが、本機の鍵盤は指にしっくりなじんで安定感が得られるため、夏場など汗をかきやすい季節や長時間の練習においても、快適に演奏できる印象です。
叩くたびに木材がチラッと見えて、高級感のある鍵盤
また、アコースティックグランドピアノと同じように、微妙な弾き方のニュアンスに応じて繊細な音色変化が得られるほか、連打やトリルもアコースティックグランドと同じように違和感なく表現できました。アコースティックピアノの鍵盤に近い手応えを味わえる「スマートハイブリッドハンマーアクション鍵盤」を採用している点も、本機ならではの魅力と言えるでしょう。
これまでお伝えしてきたように、「PX-S7000」は美しいデザインとグランドピアノのように本格的なタッチ感を兼ね備えている点が魅力ではありますが、もちろん特筆すべきなのは、それだけではありません。そのひとつが「Privia」最上位モデルならではの機能であるサウンドシステム。本機は、音が持つ周波数の特性、音量、広がり方といった要素を個別に調整し、4つのスピーカーから出力する音を空間上で合成する「スペイシャルサウンドシステム」を備えています。
独立駆動のフルレンジスピーカーが左右に2つずつ、計4つ配置されています。この4つのスピーカーで独立して音を調節し、それぞれから出る音を空間で合成することによって豊かな響きを作り出します
この「スペイシャルサウンドシステム」を使ったユニークな機能のひとつが「ピアノポジション機能」。ピアノの設置場所に合わせて最適な音響を楽しめるという機能で、標準設定の「Standard」、壁際に置いたときにぴったりな「Wall」、部屋の真ん中で置いたときに広がりを感じる「Center」、テーブルの上に置いたときの反射による音の乱れを抑える「Table」の4種類から選択できます。
壁際に置くときは「Wall」に設定して演奏するのがおすすめ
一般的な電子ピアノは壁際に置くとスピーカーの目の前に壁が立ちはだかるため、こもったような音になりがちですが、「Wall」に設定した本機でピアノの前に座って弾いてみると、広い部屋で弾いたときのような音の広がりを感じられたことに驚きました。演奏者にとってベストな音響に設定されているため、人が弾いているときに離れた場所で聴くと、それほど音の広がりを感じないのも面白いポイント。
また、誰かとセッションするときは、設定を「Center」にすると、離れた場所で聴いていても音に広がりを感じられますし、ピアノの前にいる演奏者にもよく響いた深みのある音が届きます。反響板がない普通の部屋でこれだけの響きを感じられるのはとても贅沢な体験。置いた場所に合わせてスピーカーから出てくる音を調節できるのは、まさに電子ピアノならではの強みでしょう。
設定を「Center」にすると、遠くの人にも自分にも心地のよい音が届きます。セッションがはかどりそう!
最後に紹介したいのが、演奏したい曲やシーンに合わせて選べる多彩な演奏機能。「PX-S7000」には400種類もの音色が搭載されており、ピアノやオルガン、弦楽器、パーカッションなど、さまざまな音色が楽しめます。
【カシオ公式音源サンプル】
なかでも特に楽しいと感じたのは、名曲で使用された楽器の特性だけではなく、楽器の反応や響き、さらにはエフェクトやレコーディングの質感までこだわって表現されている音色を集めた「BEST-HIT PIANOS」と「CLASSIC E.PIANOS 1」という音色メニュー。音を聴くと「あ、これはあの曲だ!」とちょっと感動するような、名曲の響きをチューニングいらずで(ボタン1つで)再現できちゃいます。「定番のクラシックだけではなく、弾き語りにも挑戦したい!」という人にも打ってつけ。オルガンの音色でバッハを弾いたり、チェレスタの音色で映画「ハリーポッター」のテーマソングを弾いたりと、誰もが1度は聴いたことがあるような名曲も手軽に楽しめました。
【動画:「BEST-HIT PIANOS」と「CLASSIC E.PIANOS 1」の音色メニューで弾いてみた!】
とはいえ、400種類もの中から弾きたい音色を探して設定するのはなかなか大変ですよね。そんなときは、付属の「ワイヤレスMIDI & AUDIOアダプター」を公式アプリ「CASIO MUSIC SPACE」(※)と連携させると、より簡単かつ手軽に操作できますよ。
iPadに公式アプリを入れて、本機と連携させてみました
まずは、1つの鍵盤を左右に分けて音を変えられる「スプリット」という機能を使い、「HUMAN PIANO」と「GM HARMONICA」を組み合わせてみました。アプリを使うと、どこで音を切り替えるのかを画面で確認しながら直感的に設定できるので便利です。ほかにも、2つの音色を重ねて音を鳴らせる「レイヤー機能」や、鍵盤の中央から右と左で同じ音域を設定し、2人の演奏者でまったく同じ音が弾ける「デュエット機能」など、豊富な機能を使ってさまざまな楽しみ方が味わえます。
※:iOS 13.0/iPadOS 13.0以降、もしくはAndroid OS 8.0以降に対応した端末で使用できます
【動画:「スプリット機能」と「レイヤー機能」を試してみた!】
ちなみに、青く光る「タッチリング」を動かせば本体だけでも音色を選択できますが、アプリのほうが一覧を見ながら操作できるので手軽です
「デュエット機能」を使えば、鍵盤の中央から左右に分けて同じ音域の音が出せるので、ピアノの先生と生徒で練習したいときにもぴったり
また、和音を弾くと自動でアルペジオになる「アルペジエーター」や、ピッチをリアルタイムに変化させられる「ピッチベンドホイール」を使うと、さらに表現の幅が広がります。音色の選択だけでなく、タッチレスポンスなどの鍵盤タッチの設定や、メトロノーム、チューニングなどをアプリで細かく設定できるため、これ1台でピアノの練習からプロのステージ演奏まで、幅広くカバーできると感じました。
【動画:リアルタイムにピッチが変化する「ピッチベンドホイール機能」を試してみた!】
鍵盤の反応も自分好みに合わせて「軽い〜重い(オフを含む)」の6段階から細かく調節できます
先述の「ピアノポジション機能」の設定も、アプリなら最適な場面を絵で確認しながら操作できます
最後に、個人的に楽しかったのが「ライブを体験する」の機能。1人で弾いているにもかかわらず、観客のレスポンスを体感できるので気分が盛り上がりました。
【動画:観客のレスポンスを体感できる「ライブを体験をする機能」を試してみた!】
「PX-S7000」をじっくり使ってみると、打鍵に対する音の反応速度、深み、鍵盤やペダルの使い心地がとにかく快適で、アコースティックピアノに慣れた人でも違和感なく、思いどおりに表現できる1台だと思いました。木目調のスタンドやアクリル素材の譜面台など、デザインに“抜け感”があるので、部屋に置いても圧迫感を感じさせない点も大きな魅力です。
1960〜1980年代に活躍し、名曲として今なお愛されている楽曲には、グランドピアノやエレクトリックピアノなどで弾かれた、その楽曲ならではの印象的な音が多数存在します。それらの名曲をただピアノで弾くだけではなく、原曲に近い音色を再現しながら楽しめる「BEST-HIT PIANOS」と「CLASSIC E.PIANOS 1」は、大人になってからピアノを再び始めたいという人が「PX-S7000」を購入する後押しになるのではないでしょうか。