「弘法筆を選ばず」という言葉がある。「本当の名人は、道具の良し悪しなど問題にしない」という例えであり、現代でいえば「プロ」や「職人」といわれる人たちを指す言葉だ。
しかし、いくらいい言葉であっても平安時代初期の言葉。今やさまざまな道具は進歩し研磨され、むしろ「道具は人を選ばなくなっている」のではないか? というのも、ちょっとこれを見てほしい。
例えばほら、スマホで簡単に背景がボケたような写真が撮れる! プロっぽい!!
なぜ突然こんなことを言い出したかというと、新しいスマホを買って、カメラの進化に感動したんです。ものすごく簡単にプロっぽい写真が撮れちゃう。
これだけカメラがすごくなってしまうと、誰が撮っても違いがわからないのでは? そこでこんなことを思いつきました。
ということで、「道具」や「場所」などの条件を同じにして、プロのカメラマンと素人で撮影対決をしてみようと思う。同じ条件で写真を撮ったときに「弘法筆を選ばず」であればプロは圧倒的にすごいはず!!
カメラは「写ルンです」を使用する。理由として、ここ数年で人気が再燃していることと、機材の差をなくすためだ。シャッターを押すだけなので、カメラの扱いにおける技術差もなくなる。
当たり前のように写ルンですを紹介しているけど、今の10代の人たちはそもそも知っているのだろうか…。知っていても触ったことない人多そう…
今回の写真対決では、素人カメラマンとして僕が参加。そしてプロカメラマンは、業界からひっぱりダコの売れっ子カメラマンである青山 裕企さんに来てもらった。
胸につけたカメラのブローチがかわいい…
■青山 裕企(@yukiao)
著作が50冊を超えており、少年の視点で切り取られた『スクールガール・コンプレックス』や、サラリーマンが空を飛ぶ『むすめと!ソラリーマン』は各メディアで取り上げられ、台湾や韓国でも発売されている。吉高由里子や指原莉乃、乃木坂46の生駒里奈など著名人の撮影も数多く手がけている。
プロフィールを読んでもらえばわかると思うが、超すごいカメラマンなのである。今回のこの企画にも忙しい合間を縫って参加してもらった(後日すぐに台湾出張に行くとのことだった)。
今回は被写体に「女の子」もあるので、モデルの吉岡真緒(@mao1er7est)さんにも来てもらった。かわいいい…対決どうでもいいからひたすら写真撮りたい…!
さっそく企画の説明をして写ルンですを開封していると、自然と全員が懐かしさで笑顔に
青山さんと写ルンです話で盛り上がってしまったが、これはあくまでも対決なのである。和やかになっている場合ではない! 本気で立ち向かわなければ検証にならない!! いざスタート!
ということで、まずは1つ目の対決として赤レンガが特徴的な東京駅を撮影しよう。
東京駅は「関東の駅百選」にも選ばれており、直接見るとその大きさと赤レンガの色鮮やかさに目を奪われる。写ルンですはフィルムのレトロな雰囲気の写真が撮れるので、赤レンガの建物と相性がよさそう。
撮影の対象物は決まっているが好きな場所に行き、それぞれ自由に写真を撮って対決を行う。まずはお互い正面からとりあえずのぞいてみるところから始まった (というか、青山さんがやっていたのでマネした)
とりあえず僕はウロウロと動いて写真を撮ってみるが、どこから撮ればいい写真になるのか検討もつかない。とりあえず東京駅の大きさを写真で表現したかったので、正面からひたすら何枚か撮ってみた
しばらく写真撮影をして、8枚ほど撮ったところで終了。今回は写ルンですの39枚撮りを使用しており、枚数が切れないようにしないといけない。まだ先は長いのだ。
僕は撮り終わったので、青山さんがどこにいるのか探してみたところ…。
なぜか東京駅と真反対のほうをじっと見ていたり…
駅の通路をゆっくりと歩いていたり…
撮るときには寝転がったり…
とにかく動き回ってシャッターを切っていた。そして撮る場所を決めてからシャッターを押すまで迷いなくものすごく早いのである。じっくり構えてゆっくり撮るものだと思っていたので驚いた。早撃ちガンマンみたいに撮っている。
ということでさっそく、僕と青山さんが撮った写真をそれぞれ見ていきましょう。
写ルンですは現像やデータ化されるまでどんな写真が撮れているのかわからない。データ化したときに「あれ? 意外にいい写真が撮れている!!」と自分で感動した。
やはり写ルンですの色合いがいい。東京駅と色合いが実にマッチしている。これ、そこそこいい写真撮れているから勝てるんじゃないか…?
僕の写真は同じような正面からの構図であるのに対し、青山さんは距離や角度などさまざまな場所から撮っているのがわかる。
結果は最後に投票で決めてもらうので、ここではとりあえずどんな写真が撮れたかの紹介で終わります。
写ルンですを久しぶりに使った青山さんは「シンプルなだけに自分が動いて調整するしかないので、やっぱり難しいですね」と言っており、やはり普段使わない道具に苦戦はしているようであった。
ただプロ曰く「写ルンですでキレイに撮れる人は本当にうまい人なんですよね。写真を学ぶときに、一眼レフを買う人は多いけど、写ルンですでまずは練習するのもありかもしれないですね」とのこと。写真がうまくなりたい人はたまに使ってみるものありかもしれない。
そのほかにも建物を撮るときのポイントをいくつか教えてもらいました。
また、写ルンですを使用するときはパララックス(視差)に気を付けたほうがいいとのこと。「実際に写真が映るレンズとのぞき穴の位置が違うので、のぞいてものぞいたとおりに撮れないんですよね」。なるほど…。
一応「対決」のはずで進めているんだけどめちゃくちゃ教えてもらいました。勉強になる…。
2つ目の撮影ポイントは東京駅近くの丸ノ内線仲通りだ。会社員や買い物帰りの主婦などさまざまな人が行き交う。そしてテラス席や移動販売の車などもあるオシャレ丸出しの通り。
人が行き交う「街並み」をうまく撮れるかどうかがカギになるはず。ということで今度はさっそく撮影した写真を見てほしい。
やはり僕のは「街並み」を撮ろうということを意識しすぎて、とにかく「通路」をキレイに撮ろうとしている結果、先ほどの東京駅と一緒で、同じような写真ばかりが並んでしまっている。
一方、青山さんが撮った写真は、のぼりや熊のオブジェなど丸ノ内線仲通りにしかないものが撮れていることがわかる。
「街中で撮るスナップ写真は気になったものを残しておくようにしています。そうすると全体で写真の構成を見ていくときに、街中の風景がどんなだったかがわかるじゃないですか」ということだ。確かに、青山さんの写真を連続で見返すとどんな通りなのか想像しやすい。
そして驚いたのは、移動販売の店員さんに話しかけて写真を撮っていたところ!! コミュニケーション能力高すぎる。…と思っていたら、「コミュニケーション能力はカメラマンとしてめちゃくちゃ大事なんです。女の子の表情にも影響してきますしね。僕は完全にビジネスコミュニケーションなので普段は無口なんですけどね(笑)」と笑っていた。まさにこれがプロだ…。
青山さんの撮影した通りの写真を見返すと、言っていたとおり、真正面に何もない写真が撮れている。確かに奥行きが広く感じる…!
ちなみに街中で撮影をする際は「太陽の位置」なども計算してスポットを決めるらしい(青山さんは普段「Sun Seeker」というアプリを使っているとのこと)。特にこういったオフィス街だとビルとビルの間に太陽光が入る時間が限られているので、こういった計算は大切。あらためて思うとかなり天候に左右される職業だよな…。
お次は日比谷公園に移動して「女の子」の撮影。普段から女優やモデルを撮影し、数多くの本を手がけている青山さん相手だと、竹やり対ウルトラマンくらいの戦力の差があり、負け戦確定の雰囲気しかない…。しかし、やるしかない。
対決方法として、広い日比谷公園内を自由に使い、モデルの吉岡さんをそれぞれ順番に撮影するということに。青山さんのやり方を見てしまうと、僕がマネしてしまうので先に僕から撮り、次に青山さんが撮影することにしました。
そしてそれぞれが撮影した写真がこちらである。
どうやら僕は女性が髪の毛を耳にかけている横顔が好きらしい…。思わぬところで自分の性癖がでてしまった。
ただそれだけでなく、女の子を撮影なんてしたことなかったので、何をどう撮ったらいいのかまったく検討もつかないのである。
女の子と2人で撮影ってめちゃくちゃ緊張するんですよ。「じゃ…じゃあ、こ…このポーズ撮って」と、自分が童貞かと思うくらい何をしていいのかわからなかったです。
バリエーションがすごいー!!!!
シチュエーションはもちろん、吉岡さんの表情の引き出し方もすごい…全部が同じ場所で撮ったとは思えないほどそれぞれ違う写真に見える。
この写真は青山さんの『スクールガール・コンプレックス』という本で用いられているような、日常にあるチラリズムや妄想、または少年の視点で切り取ったような写真を撮る方法だそう。こんな表現を使ってくるなんて…本気で勝負に来ている…!
とにかく引き出しの数が多い。いつネタ尽きるの? ってくらいに次々と新しいシチュエーションを生み出して写真を撮っていく。これ止めなかったらあと10時間くらい撮影続けているのでは? というくらい次々に思いついたものを撮影していた。
青山さんが撮影しているところを見て「こりゃ勝てるはずがない!!」と思ったので、急遽吉岡さんを棒立ちにして同じシチュエーションで写真を撮影してみることにした。
こちらは僕が撮影した写真。棒立ちのポーズと指定されていれば、そこまで写真に差がでないはずだ。ということで、続いてが青山さんの写真。
はかない〜〜〜!!!
何この今にも壊れそうな感じ。天気もよくて光もガンガンにあたっているのに、吉岡さんからはかなさを感じる。家で写真確認しているときに1人で「はかない〜〜!!!」って叫びましたよ。
この日は天気がよかったので絶好の撮影日和かと思ったが、天気がよすぎると逆に難しいらしい。「太陽が高い位置にあって光と影の部分が明確に別れていると、まつげや前髪の影が顔にできてしまうんですよね」ということらしい。ただ明るい場所で撮ればいいってもんでもないのか…。
だから本当は日陰で撮りたいのだけど、写ルンですだと一眼レフと違って光の調整ができないため暗い場所は不向きなのだそう。悩ましい…!
あとやはり撮影中に笑顔を引き出すのがうまい。冗談を入れつつ撮影を行っているので、モデル側も緊張せずに写れるのかもしれない。
関係ないですが、写ルンです使ってる女の子ってかわいくないですか? このかがんで小さくなった感じとか…たまらない…!
最後の撮影は食べ物の写真。今回は日比谷公園の中にある「日比谷サロー」さんに協力してもらった。テラス席が南国風の開放的なお店です。
実は撮影が長引いてしまいお店はとっくに休憩時間に入っていたのだが、店長さんのご厚意で料理を作ってくれて撮影させてもらえることに! いい人すぎる…。
洋食やアジア料理など数多くの料理が取り揃えられていた。今回はその中でもおすすめのガパオライスを注文
ではさっそく写真をご覧いただこう。
写ルンですで食べ物の写真を撮るのはかなり難しい…。背景をぼかすことができないし、写ルンですはパッケージにも書いてあるとおり1m以上は離れて撮るのが適切な距離なのだ。僕はそれを知らなかったので、近距離で撮ってしまい焦点が合わず白飛びした写真になってしまった。
一方で青山さんはそれらを理解していたので、光をあまり当てずに、距離をしっかりと離して撮影していた。1枚目の俯瞰で撮るテクニックは料理雑誌などでもよく使われる構図。
食べ物をうまく撮るコツとして一番簡単なのは「レストランで食べている感じ」をだすこと。そのために食器や調味料などは気を使って配置する。食器などを自分が食べているときのように置いておくと、「本当にこれから食べる」雰囲気が写真からもしておいしそうに映るということだった。
ということで、ここまで記事を見た人は青山さんが圧倒的に勝っていると思うかもしれないが、審査するのはあくまで記事を読んでいない人なのでまだわからない。
判定をするためにさっそく写真をデータ化。写ルンですはカメラのキタムラなどの店頭に行けば、1,000円ほどでフィルムの写真をデータにしてくれる。現像も1枚80円ほどとかなり安価。
そしてデータ化した写真でアンケートを作成し、どちらが撮ったかわからない状態で、写真をそれぞれ並べて「Aの写真とBの写真どちらがうまいと思いますか?」という質問に答えてもらう方式にした。そのアンケートを知り合いや、知り合いの知り合い(他人)にまで頼み合計で100人に回答してもらった。
このアンケートの多数決によってプロと素人の勝敗をハッキリとつけようと思う! ということでさっそく結果発表に行ってみよう!!
もう圧倒的だ。これはもう文句のつけようがない。
誰が見てもそうだと思う。というか写真を撮っている時点で青山さんを見て「あ、これ99%勝てない」と思い、終わったあとに写真データを見て「100%勝てない」と確信した。やっぱりプロはすごい。当たり前だけどすべてが違った。
特に青山さんが得意としている女の子の写真については、見ていて感嘆してしまうほど。データ化した写真を家で見て素で「かわいい…」と声を漏らしてしまうくらいいい写真が多い。
というか「対決」って体でやっていたけれど、途中途中で撮り方のコツを教えてもらっている時点でね…勝てないよね…。
対決は終わりましたが、青山さんには実は東京駅〜日比谷公園の各ポイントで、モデルの吉岡さんの写真を別の写ルンですで撮ってもらっていた。
贅沢すぎる…!!
そして最後は、この日歩いた場所を青山さんが撮影した写真でお別れしたいと思います。
いやーこれに勝てるわけがない…すばらしい…!
ということで最後にあらためて今回の検証結果を載せて終わります。