デジタルオーディオプレーヤー(DAP)の選び方
屋外でも音楽を気軽に楽しめるデジタルオーディオプレーヤー(DAP)は、同じことができるスマートフォンの登場により、販売台数が一時期減少していました。しかし、最近では「ハイレゾ音源」や「ストリーミングサービス」の登場などにより、再び注目を集めています。ここでは、そんなデジタルオーディオプレーヤー(DAP)の選び方を解説します。
2024/11/1 更新
デジタルオーディオプレーヤー(以下、DAP)は、デジタル形式の音楽ファイルの再生に特化したデバイスのことです。本体にバッテリーを内蔵したポータブルタイプの製品が主流で、本体の内蔵ストレージやmicroSDカードなどの外部ストレージに音楽ファイルを保存しておくことで、ヘッドホンやイヤホンで手軽に音楽を楽しむことができます。しかし、スマホの普及とともに「音楽はスマホのアプリで再生するもの」になっていきました。ところが近年、ハイレゾ音源の登場やストリーミングサービスへの対応などにより、再び注目を集めています。この記事では、DAP選びのポイントからスペックの確認方法、主なメーカーまでを紹介。ぜひチェックして、自分にピッタリな製品を選びましょう。
DAPはたくさんの種類があり、選ぶ際には各機能やスペックの意味を理解することが大切です。ここでは、用途ごとに注目したいポイントを解説します。
PCからDAPに音楽ファイルを転送して音楽を楽しむ場合は、保存したい楽曲の数に合わせてストレージ容量を選びましょう。また、Wi-Fiに対応した製品なら、音楽配信サービスにアクセスすることもできます。そのほか、ワイヤレスヘッドホンを使用したい場合はBluetoothに対応しているかどうかも確認しておきましょう。
DAPのストレージ容量は、8〜32GB程度が主流です。スマホのストレージ容量よりも少なく感じますが、DAPには基本的に音楽ファイルのみを保存するため、スマホよりたくさんの楽曲を収録できます。しかしファイルサイズの大きなハイレゾ音源を入れたり、とにかくたくさんの楽曲を入れたりしたい場合は、64GB以上のモデルを選ぶとよいでしょう。また、なかにはmicroSDカードを挿入して容量を増やすことができるモデルもあります。
ストレージ容量と収録可能な曲数の目安
容量 | 4GB | 8GB | 16GB | 32GB | 64GB | 128GB |
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曲数 | 約550曲 | 約1,100曲 | 約2,200曲 | 約4,400曲 | 約8,800曲 | 約17,600曲 |
※MP3ファイル(1曲あたり4分、ビットレート:256kbps)の場合の目安です。
Wi-Fi機能があれば、音楽ストリーミングから直接楽曲を再生できたり、ネットラジオを楽しんだり、家庭内ネットワークを経由して別の部屋にあるスピーカーから音楽を再生できるなど、使い方の幅が大きく広がります。
バッテリー持ちが気になる方は、最大再生時間に注目しましょう。最大再生時間が長いモデルなら毎日充電する手間が省けるほか、通勤通学や旅行中にバッテリー切れすることも少なくなります。なかには、連続再生時間が50時間以上の製品もあります。
最大再生時間で製品を探す
無線通信規格のひとつで、対応するヘッドホンやイヤホン、スピーカーなどをワイヤレスで接続することができる機能です。配線の手間が省ける、ケーブルのわずらわしさがなくなるという点から現在主流になっている接続方式です。ワイヤレス機器を接続したい人は、必ずチェックしておきましょう。
DAPの中には、iOSやAndroid、メーカー独自OSを搭載したモデルがあります。なかにはアプリをインストールしたり、YouTubeなどの動画サービスを利用できたりするモデルもあるので、音楽だけでなく動画も楽しみたい方はチェックしてみましょう。なお、利用にはWi-Fi環境が必要です。
OSで製品を探す
「Apple Music」や「Spotify」、「YouTube Music」などの音楽ストリーミングサービスは、インターネット上の楽曲をリアルタイムに読み込んでDAPやスマホ、PCなどの機器で再生を行う、音楽配信サービスです。機器のストレージにダウンロードしないため、Wi-Fi環境さえあればデータ容量の大きいハイレゾなどの高音質な音源を流しても容量を圧迫しないのがメリットです。また、気に入った音楽は別途ダウンロードしてオフラインで再生することも可能です。
ハイレゾはハイレゾリューションオーディオ (High-Resolution Audio)の略で、従来のCDよりも多くの音の情報を収録した高音質音源のことを指します。近年、楽曲の提供方法がストリーミングやダウンロードが中心になり、生の音を限りなくそのままで伝えたいという考えから、ハイレゾという概念が生まれました。CD音源の約3〜6.5倍の情報量を持っているため、その場の臨場感やライブの息遣いまでを感じ取ることができます。
ワイヤレス機器でハイレゾ音源を再生するには、DAP本体だけでなく使用するワイヤレスヘッドホンやスピーカーもハイレゾ対応のBluetoothコーデック(音声圧縮方式)にしている必要があります。ここでは、主なハイレゾ対応のBluetoothコーデックである「LDAC」「HWA」「aptX HD」の3種類を紹介します。
LDAC
ソニーが開発したBluetoothコーデックです。現在ワイヤレスの中で一番音質がよいとされているコーデックで、日本オーディオ協会がハイレゾと定義する96kHz/24bitの再生が可能なのが特徴。対応するDAPも多く、現在の主流です。
HWA
通信デバイスで有名なファーウェイが開発したコーデックで、サンプリング周波数はLDACと同じ96kHz/24bitですが、データ量を表すビットレートが最大900kbpsと若干LDACより低くなっています。
aptX HD
LDAC、HWAよりも前から存在するaptXの高音質版コーデックです。48kHz/24bitと日本オーディオ協会の定義には届きませんが、通常のCD音源よりは高音質です。
DAPは製品ごとに対応している音楽ファイルのフォーマットが異なるため、購入前に確認しておきましょう。ここでは、主なハイレゾ対応のフォーマットを紹介します。
WAV
Windowsで30年ほど前から使用されている音声ファイル形式。非圧縮形式のため、元の音声データからのロスがないのが特徴です。
AIFF
Appleが開発した音声ファイル形式で、主にmac OSで使用されています。非圧縮形式で元の音声データからのロスがないのはWAVと一緒ですが、メタ情報が保存できるぶん、WAVより使いやすくなっています。
DSD
CDの約6倍の情報量を書き込むことができるSACD(スーパーオーディオCD)に使用される形式です。アナログに近いリアルなサウンドの再現性が魅力ですが、再生するには対応ソフトや機器が必要です。
FLAC
元データの情報を損なわずに圧縮できる、可逆圧縮可能なフォーマットです。非圧縮形式の60%程度まで圧縮できるうえに音質の劣化がないため、ハイレゾ音源フォーマットの主流となっています。
ALAC
FLACとほぼ同じ性質を持つApple開発のフォーマットで、主にiTunesで使用されています。FLACと同じく楽曲情報の書き込みも行えるため、FLACと双璧をなすハイレゾ音源フォーマットです。
MQA
「CDでハイレゾを楽しめる」といううたい文句で登場したオーディオコーディング技術です。コンパクトなファイルサイズながら、ハイレゾに近い高音質な音楽が楽しめます。
「ウォークマン」を展開する、ポータブルオーディオプレーヤーの元祖メーカー。音質全フリのフラッグシップモデル「WM」シリーズ、本体サイズと音質のバランスを追求した「ZX」シリーズ、ハイレゾ対応ながらお手ごろ価格の「A」シリーズ、子どもへのプレゼントや語学学習にも最適な「S」シリーズ、完全防水仕様の「W」シリーズと、幅広いラインアップが展開されています。
「世界の工場」の異名を持つ、中国・深セン市からほど近い位置にある工場地帯・東莞のオーディオメーカー。元々他社ブランドのDAPのOEM開発を担当しており、さまざまな企業のノウハウを網羅。日本に上陸したのは最近ですが、早くもオーディオ市場で存在感を示しつつあります。サイバーパンク風の個性的なデザインを採用した「R4」は、コストパフォーマンスにすぐれた1台として特に人気の1台です。
韓国ドリームアスカンパニー社のオーディオブランドであるアイリバーのハイエンドシリーズです。プロの現場でよく聞かれる「スタジオクオリティサウンド」にこだわった開発を行っており、原音の再現性が特に評価されています。"世界最高峰のハイエンドポータブルプレーヤー"をコンセプトにしたフラッグシップモデルの「A&ultima」シリーズから、パワフルなヘッドホン出力を備えた「KANN」シリーズまで、さまざまなバリエーションモデルから選べます。
中国の広州に本社を置く、世界的に有名なポータブルオーディオ機器メーカーです。2007年の設立以来、ヘッドホンアンプで存在感を示し、現在はDAPやイヤホンを中心に開発・販売を行っています。携帯性にすぐれた「M11S」シリーズから、据え置き用途でも利用できる「M17」まで、初心者から上級者までカバーする豊富なラインアップが魅力です。
ポータブルヘッドホンアンプの開発・販売からスタートした中国・深センに本社を構える老舗ポータブルオーディオメーカー。ハイレゾ黎明期からDAPを手掛けており、Android OSを搭載したハイレゾDAPをいち早く製品化したことでも有名です。上位モデル譲りのクアッドDAC構成を採用した「DX180」はコスパにすぐれた1台として人気を博しています。
Hi-Fiアンプや真空管アンプ、SACDプレーヤーの開発などで有名な、30年以上の歴史を持つ中国のオーディオメーカー。OSにAndroidを搭載しており、さまざまなストリーミングサービスに対応しているのが特徴です。また、幅広い音楽フォーマットに対応しているほか、PCのデジタル音源をアナログ音源に変換するUSB-DAC機能も搭載するなど、機能面も充実しています。
パソコン周辺機器やキッチン家電などを展開する電子機器の総合メーカー。同社が手掛けるDAPは1万円を切る低価格なモデルが多く、ハイレゾ音源再生機能やストリーミングサービス対応などのイマドキの機能はありませんが、ラジオ受信機能搭載モデルや乾電池駆動対応モデルなど、他社にはない尖ったモデルが多数ラインアップされており、手軽に持ち運んで使える1台として人気です。
USB接続したパソコンやスマホ内の音楽ファイルをDAPに転送して再生する機能。音楽再生に特化したDAP側で再生機能を担うため、より高音質なサウンドが楽しめます。なお、音楽の再生以外でも動画やゲームをよりよい音で楽しみたいときにも活用できる機能です。
イヤホンやヘッドホンとDAPを接続する方法のひとつです。通常のヘッドホン端子接続は、左右それぞれのプラスと、左右共有のマイナスの3本で伝送しているためマイナス側でクロストーク(左右の信号の混信)が発生し、ノイズが混ざる可能性があります。バランス接続は、左右のプラスとマイナスを独立させた4本の信号線で接続するためクロストークが発生しにくく、よりクリアなサウンドを楽しめます。
DSD音源をそのまま再生できる機能です。DSDファイルは、一般的に再生時にPCM方式へ変換されますが、「DSDネイティブ再生」機能を搭載した製品なら、DSD音源本来の音質で再生することが可能です。クラッシックやジャズなど、とくに原音にこだわるジャンルのファンから注目を集めています。
音の心臓部分であるDACチップを2基搭載した回路のことです。DACチップがシングルの場合、左右の信号の混信により音のバランス出力が崩れる場合があります。しかしデュアルなら、チャンネルごとに別々の回路が使われているため、より解像感の高い音を楽しむことができます。
Bluetoothを使ってパソコンやスマートフォンで再生している音楽をDAPにワイヤレスで転送し、DAPに接続した有線イヤホンや有線ヘッドホンで楽しめる機能です。Bluetooth接続になるので、DAPに保存している音楽ファイルを直接再生する場合に比べて音質は落ちますが、ワイヤレスで手軽に音楽を楽しめるのは大きなメリットです。
圧縮時のビットレートによって異なります。
MP3形式は、リニアPCMのWAV形式と比べて大幅にファイルサイズをコンパクトにできる不可逆圧縮形式のひとつですが、圧縮のレベルはビットレートによって異なります。ビットレートとは1秒間あたりのデータ量を示す数値で、単位はbps。ビットレートが高いほど高音質で保存できますが、そのぶんファイルサイズも大きくなります。同じMP3でもビットレート128kbpsと320kbpsを比較すると、320kbpsのほうが高音質です。
可能ですが、ハイレゾ音質で再生するには有線接続のヘッドホンや変換アダプタが必要です。
ハイレゾ音源が登場した当初は、OSにiOSを採用したiPod touch/iPhoneなどはハイレゾ音源に対応していない状況が続いていましたが、近年は「Apple Music」でロスレス・ハイレゾ音源の配信がスタートするなど、iOSのデバイスでも楽しめる環境が整ってきています。しかし、現行のiOSデバイスは「LDAC」や「aptX HD」といったハイレゾ対応のBluetoothコーデックに対応していないため、ハイレゾ音質で再生するには「Lightning-3.5mmヘッドフォンジャックアダプタ」で有線タイプのヘッドホンを接続するか、ハイレゾ対応のBluetoothコーデックが利用できるようになる変換アダプタが必要です。また、サンプリングレートが48kHzより大きい、または量子化ビット数が24bitより大きい音源を再生するには、外付けのUSB DACが必要になります。
非圧縮形式
圧縮されていないオリジナルのデータです。最も音質がよいとされていますが、ファイルサイズが大きいのが難点です。よく使用されるフォーマット形式は、「WAV」と「AIFF」です。
可逆圧縮
圧縮したデータを完全に元通りに復元できる圧縮方式です。非可逆圧縮ほどファイルサイズを小さくすることはできませんが、音質をまったく損なわずに保存できるのが特徴で、「ロスレス圧縮」とも呼ばれます。フォーマット形式は、ハイレゾ音源に使用される「FLAC」と「ALAC」が中心です。
非可逆圧縮
人間の耳に聞こえにくい高域のデータを切り捨ててしまうことで効率よく圧縮する手法のことで、「ロッシー圧縮」とも呼ばれます。非可逆圧縮されたデータは展開(解凍)しても元のデータには完全には一致せず、データを完全に復元することができません。そのため、非圧縮形式や可逆圧縮よりも音質が劣るとされています。よく使用されるフォーマット形式は、「MP3」や「AAC」、「WMA」などです。
ロスレス
可逆圧縮形式の「ALAC」や「FLAC」など、音質の「ロス」を抑えた圧縮方式のことです。いっぽう非可逆圧縮方式の「MP3」や「AAC」といった、音質の「ロス」が大きい圧縮方式は「ロッシー」と呼ばれます。
サンプリング周波数
アナログの音声をデジタルデータにする際、1秒間に何回変換するかを表す値です。単位はHzで、サンプリングレートとも呼ばれます。
量子化ビット数
アナログ音声をデジタルデータにする際、信号を何段階に区切って表すかを示す値です。単位はビットで、たとえば音楽CDは16ビットとなっています。
ビットレート
1秒間に送信するデータ量を表す値です。音楽ファイルであれば、1秒間で再生するデータ量のことを意味します。当然、ビットレートが高くなれば音質が向上しますが、そのぶんファイルサイズも大きくなります。