空戦はお好きですか?
いわゆるドッグファイト、戦闘機が敵機の光背に食らいつき機銃弾を浴びせる、あるいは遠距離から空対空ミサイルを撃ち放すアレです。
私は空戦に限らず戦闘描写につい比喩や演出を用いたくなってしまうタイプなのですが、本作はこれでもかと装飾物を排除したような、鉱物のごとく極めて硬質の表現を用いてそれを表しています。極めつけが要所で用いられる管制官との交信で、一部を抜粋すれば以下の通り。
《Hornet 3-1, mission number 2849, single F/A-18C, position 20 miles to be east.》
(こちらホーネット3-1、ミッション番号2849、 こちらはF/A-18C一機、東20マイルで飛行中)
――――カッコ良すぎでしょうこれ。感情の描写も何も無い、ただの無線のやりとりが却って緊張感を煽るというものです。
物語の構成は1章3~4話、それぞれの女性パイロットの活躍をオムニバス形式で追うスタイルをとっていますが、実は彼女らの活躍は全て一つに繋がっています。次第に明らかになる「群体」という名の脅威、彼ら彼女らは、人類は何と戦っているのか?
Mig-29ラーストチカ、F/A-18ホーネット、F-14トムキャット、そしてF-2。マニアでなくとも名前くらいは聞いたことのある機体がこれでもかと登場、緊迫感のある空戦を繰り広げるこの作品。ミリタリー好きの方も、SF好きの方も、女性パイロットの活躍を見たい! という方も、是非ご一読くださいませ。
《All players, all players…….》
(全機に告ぐ、全機に告ぐ……)
まず目を引くのは、緻密な空戦の描写です。
兵器の描写だけではない。
フライトや攻撃照準のリアルな手順に、人間性を一切排除した交信。
「戦闘妖精・雪風」を想起しましたが、戦術面が更新されたことで、その上位アップデートであると感じました。
同時に本作は、人間、特に女性パイロットたちの物語となっています。
国家が崩壊していく未来に、彼女たちはパイロットとしての道を歩んでいく。
描写は慎ましやかですが、友情を超えた交流が伺えます。
けれど「百合」ではなく「シスターフッド」がタグにあるのは、
様々な境遇に翻弄されながら、連帯していく様を、表現したのだと思います。
そして、本作をSFたらしめる「群体」。
新たな生態系を生み出す結末は、驚愕です。
「群体」に抵抗するのが、人類にとって最善の道なのかどうか、
即答を躊躇うような、新たな世界が展開されます。
紹介文に「最後の抵抗」とありますが、本作で物語は終わらないと感じました。
人類としての最善解は、分からない。
でも間違いなく、彼女たちは、飛び続けるからです。
ミリタリー、シスターフッド、SF。
どれか一つでも興味があれば、ぜひ本作を手に取ってください。面白かったです。