ひらがな、
カタカナ、
漢字。
その多彩な書き文字はひとつの物事に複数の面から光を当て、さまざまな掛けことばを可能とします。
また、長い歴史を歩んできた同一文化を基とする民族を読者とするので、微細なニュアンスの使い分けを読み取って貰えます。
習得する難しさを除けば、その置かれた状況も含めて、日本語は書き言葉として世界最高の言語であります。私はそのnative speaker であることを誇りに思います。
特に今作のような傑作に出逢えたときにはとくに…
本作は喪われゆく伝統芸とその職人を題材とされていて、初めて読んだときなどは
ーーそこに注目するのか!!
と、作者の鋭い着眼点に驚きを禁じ得ませんでした。
この物語がなるべく多くの人に読まれ、日本の誇る伝統の火が消えることないよう願っております。
廃業の迫られている伝統的ちんちん伸ばし職人の取材というのは、一見して情報を提供し、スポンサーから利益を得るマスメディアとしての立場から考えるとあまり合理的ではない。それというのも、廃れている伝統、という主題だけでは集客力が見込めない為である。
それでも取材班がこのちんちん伸ばし職を営むKさんに着目したのは、一重に彼自身の真摯さにあったのではあるまいか、と思わせられる。Kさんの毎日は決して派手とは言えない地道なものだ。毎回の同じ工程をただただ丁寧に、気を抜かずに一回一回をやり切る。その繰り返しに過ぎない。しかしそれは彼自身にとっては非常に重要な事でもある。
Kさん自身、その繰り返しや積み重ねが自分や家族を支える糧となっており、またそれは先代までの伝統、そしてこれから先までも繋がるのを心の底から信じていると、読者はこの記事を通して伝わってくる事だろう。
ただし残念ながら、おそらくKさんの支えてきた仕事と同様、この記録も時とともに過去へと埋もれていくだろう。しかしこの世界にはKさんが育んできた家族、またKさんの伸ばしてきた数々のちんちん、またそのちんちんによって支えられたちんちんが確かに息づいているのである。