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パナ除湿機の新しい「エコ・ハイブリッド方式」は何がすごいの?
2024年7月9日 08:05
家電に詳しい人なら、除湿機には「コンプレッサー式」「デシカント式」「ハイブリッド式」の主に3つの方式があることを知っていると思います。ところが、今年5月にパナソニックが第4の除湿方式となる「エコ・ハイブリッド方式」を搭載した衣類乾燥除湿機「F-YEX120B」を発売しました。
新方式だけに従来よりも高性能なはずですが、実際エコ・ハイブリッド方式はどういった仕組みで、どのようなメリットがあるのでしょうか?
除湿方式にはそれぞれメリットとデメリットがある!
新方式のメリットを知るには、従来の除湿方式についても知る必要があります。除湿方式について既に知っているという場合は、次の章から読み始めても問題ありません。
基本として知ってほしいのは「空気は温かいほど多くの水分(水蒸気)を抱えられる」ということ。このため暑い夏は空気がムシムシとし、冬は空気がカラッと乾燥しがち。そこで除湿機は空気を冷やすことで「空気が抱えられる水分量」を減らすのです。そして空気が冷やされることで抱えられなくなった水分は、水(結露)になって除湿機のタンクに溜まります。
除湿機で一番メジャーな「コンプレッサー式」は、コンプレッサー(圧縮機)でギュッと圧縮すると熱くなり、減圧するとキンキンに冷たくなる「冷媒」を使った除湿方式。冷媒で冷たく冷やした「冷却器」に風を通すことで空気を冷やして結露を促します。
ただし空気を冷やして除湿するには大きな「温度差」が必要です。このため、コンプレッサー式は空気が冷たい冬になると除湿能力が落ちてしまいます。そこで出てくるのが「デシカント式」の除湿機。
デシカント式は本体内にゼオライトという乾燥剤を配置し、ここに空気中の水分を吸着させて除湿するのです。このため、季節を問わず一定の除湿能力が期待できます。とはいえ乾燥剤には吸着できる水分の限界があります。そこでデシカント式はヒーターで温めた温風で乾燥剤を乾かし、温かい空気を熱交換器に当てることで湿気を水に変えるのです。
デシカント式は一年中除湿能力が落ちませんが、ヒーターを利用するのでコンプレッサー式より電気代がかかるというデメリットがあります。
そこで登場するのが「ハイブリッド式」です。ハイブリッド式除湿機は、コンプレッサー式とデシカント式を組み合わせた方式で、室温が高いときはコンプレッサー式の比率をアップし、室温が低いとデシカント式をメインに除湿します。このため一年中一定以上の除湿ができるうえ、暖かい季節は電気代も抑えられるというわけです。
エコ・ハイブリッド方式最大の魅力はズバリ「省エネ」
従来のハイブリッド方式はコンプレッサー式の冷却器と放熱器の間にデシカント式の乾燥剤が挟まっている構造でした。一方、新除湿方式であるエコ・ハイブリッド方式は電気代がかかるデシカント式除湿方式のかわりに、空冷式の熱交換器を挟んでいます。
コンプレッサー式冷却器は、減圧した冷媒で冷却器を冷やしますが、空冷式熱交換器は名前の通り「空気の力だけで冷やす」仕組みです。熱いコーヒーを冷やすときにフーフーと息を吹きかけますが、空冷式はそれと同じようなものと考えれば良いでしょう。
もちろん、空気を吹き付けただけでは、コンプレッサー式冷却器ほどキンキンに冷えません。そこでエコ・ハイブリッド式には「メイン風路」と「サブ風路」のふたつの風路を作りました。大量の風が通るメイン風路は「冷却器」→「空冷式熱交換器」→「放熱器」の順番に通過。冷却器でキンキンに冷やされた風が空冷式熱交換器を通るため、空冷式熱交換器も冷たくなるのです。
この冷えた空冷式熱交換器に、サブ風路から室温の風を通すことでサブ風路からの風も除湿できるという仕組み。今までのコンプレッサー式除湿機は「冷却器で冷やした風」を放熱器で温め直して室内に戻していましたが、これはある意味せっかく冷やした空気を無駄にしているようなもの。エコ・ハイブリッド方式は冷えた風を無駄にせず、もう一度除湿に使うことで「冷たさ」をリサイクル利用しているのです。
このため、エコ・ハイブリッド式は従来の3方式よりもかなり省エネ。エコ・ハイブリッド方式を採用している「F-YEX120B」は除湿能力12.5L/日ですが、同社の同じ能力のハイブリッド式除湿機「F-YHVX120」と比較すると、消費電力は約1/3*1にも下がります。
冬もしっかり除湿するための「バイパス風路」という仕組み
従来のハイブリッド式は、冬に除湿能力が落ちるコンプレッサー式のデメリットを補うためにデシカント式を併用しています。しかし、新エコ・ハイブリッド式はデシカント式の乾燥剤もヒーターもないため、冬に除湿能力が落ちるのは避けられません。このため、エコ・ハイブリッド式除湿機に搭載されているのが「バイパス風路」という仕組みです。
寒い季節になるとコンプレッサー除湿機の能力が落ちる理由は、じつは2つあります。
- 室温が低いと冷却器と室温の温度差が確保できないため
- 冷却器についた霜を取る「霜取り運転」で除湿運転が止まるため
1は先にも説明しましたが、除湿機は室温と冷却器の温度差が大きいほど除湿能力が高くなるため、寒い季節は能力が落ちるという現象です。
2は冷却器が冷えすぎてしまい、冷却器が凍って霜がついた場合に発生する問題。冷却器に霜がつくと風が通り抜ける隙間がなくなるため、除湿機は「霜取り運転」として冷却器を冷やす運転を一時的に休止せざるをえません。霜取り運転中は除湿ができないので、その分除湿能力が落ちてしまいます。
この2つの問題を軽減してくれるのがエコ・ハイブリッド式の「バイパス風路」の存在。バイパス風路とは、メイン風路とサブ風路のほかに用意された「第3の風路」のこと。
この風路では、風を直接放熱器に吹き付けます。放熱器からしっかり熱を奪うと冷却器をパワフルに冷やせるので、暖かい季節はこれで除湿能力を上げることができるのです。一方、寒い季節になると、ダンパーがこのバイパス風路を遮断。その分、メイン風路の風量がアップします。冷却器に強い風を当て、冷却器の余分な「冷たさ」を奪い取ることで冷却器が凍結しにくくなります。その分、一般的なコンプレッサー式よりも霜取り運転を減らせるというわけです。
結局エコ・ハイブリッド式はどのような場面で活躍するのか
ここまでの説明の通り、エコ・ハイブリッド式はコンプレッサー式より冬の除湿能力が落ちにくいというメリットがあります。とはいえ、冬はヒーターを搭載するハイブリッド式やデシカント式のほうが除湿能力は上。「最新の除湿方式」だからといって、すべての能力が既存方式より高いわけではありません。
それでは、なぜ今回パナソニックはエコ・ハイブリッド方式の除湿機を開発したのでしょうか? パナソニック 空質空調社 家電企画推進部 商品課の片岡ひかるさんによると、それはズバリ省エネ性能の高い除湿機が求められているためだそう。
少し前までは「乾燥時間」で除湿機を選ぶユーザーが多くいました。しかし今は、除湿機を部屋干しの衣類乾燥サポートとして一年中利用する家庭が増えています。そのうえ部屋干しのスタイルも「夜寝る前に部屋干しをして、朝取り込む」あるいは「出勤前に部屋干しをして帰宅後取り込む」といった家庭が多いのが現状です。
こういった家庭にとっては、乾燥時間が15分や30分短縮されても大きなメリットにはなりません。それより、頻繁に洗濯をする家庭なら一年を通した除湿機の電気代が大きく下がるほうが良いはず。そこで、パナソニックは「消費電力を抑えつつ、一年中しっかり除湿できる除湿機」として新エコ・ハイブリッド方式の「F-YEX120B」を開発したのです。
もちろん「一年中パワフルに除湿したい、除湿能力をとにかく重視したい」という人のために、従来と同じハイブリッド式のパワフルモデル「F-YHX200B」もラインナップとして選べるようになっています。「一番新しい方式だからエコ・ハイブリッド方式を選ぶ」のではなく、自分のライフスタイルに合った選択肢が増えたということです。
ちなみに、現在よくみかける「ハイブリッド方式」は2005年に世界で初めてパナソニックが開発した除湿方式です。今では色々なメーカーがハイブリッド方式の除湿機を発売していますが、新エコ・ハイブリッド方式も今後他社メーカーが追随するのか、注目したいと思います。
*1 <除湿性能>JIS基準による除湿量12.5L/日の消費電力、「F-YEX120B」(225W)と同社従来品「F-YHVX120」(715W)との比較。<衣類乾燥性能>JEMA自主基準[JEMA-HD090:2017](60Hz20℃・衣類量約2kg)における消費電力量と乾燥時間、「F-YEX120B」(312Wh・約90分)と同社従来品「F-YHVX120」(885Wh・約75分)との比較。なお、実使用時の乾燥時間は、設置環境や衣類の種類・量・干し方により異なります。