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これで起業を危険だと思わないでください!『終わった人』 by 内館牧子

定年定年

ネタバレがありますので、未読の方は気をつけてください。

出版されて3年近くが過ぎ、映画公開からも2ヶ月たちましたので、タイトルおよび記事を修正しネタバレの内容を含めました。

終わった人』は、定年を迎えたサラリーマンを描いた小説です。

主人公は、岩手県に生まれ、中学校で「普通のクラス」に振り分けられたことに奮起して、名門の公立進学高校に進みました。
高校卒業後は現役で東京大学法学部に入学し、卒業後、国内トップのメガバンクに就職しました。

入行後も出世コースを歩んでいましたが、49歳で子会社に出向となり、51歳で転籍、63歳で専務取締役として定年を迎えます。

この経歴は、どう控えめに見てもエリートコースを歩んでいます。
実際、主人公の個人資産は1億3千万円くらいと書かれています。
自宅は奥さん名義で、都内でも評価の高いブランドマンションです。

ところが、主人公は51歳で子会社に転籍になったとき、「俺は終わった」と感じます。
「あの十五歳からの努力や鍛錬は、社会でこんな最後を迎えるためのものだったのか」と脱力感と虚無感に苛まれます。

これには多くの人が違和感を持つのではないでしょうか?

仮に、主人公がメガバンクの頭取になることだけを目標に15歳から生きてきたとしたら、あまりにも未熟です。
仮に、幸運にも頭取になれたとしても、そこで燃え尽きるか、さらなる欲望に突き動かされるだけです。

そのような目標では、人は決して幸せになることはできません。
そんなことは15歳にもなればわかるはずです。

普通の人は、思春期になれば、人間は何のために生きているのかと思い悩みます。
そして、自分なりの結論を出して大人になります。

受験勉強一辺倒やスポーツ一辺倒や音楽一辺倒で育った人の中には、そのような悩みを持たずに大人になり、大人になってから回り道をする人もいます。

ところが、主人公が受験勉強に舵を切ったのは15歳です。
出世だけを目指していたら、このような結果になることはわかるはずです。

むしろ、63歳で国内トップのメガバンク子会社の専務取締役として定年を迎えられたのは、運が良く恵まれていたと考えるべきです。

定年退職のとき、主人公は「定年って生前葬だな」と思います。
「明日からあり余る時間の中に身を置かねばならない。死ぬまでずっとだ。」と途方にくれます。

これもあきれた話です。
何年も前からわかっていたことです。

そんな主人公は、定年後何もやることがなく、公園や図書館やスポーツクラブ、カルチャーセンターに顔を出します。

映画には、ハローワークの紹介で面接に行った会社で、「東大を出てお仕事がないなんて」と笑いものにされるシーンがあります。

映画は定年後何もやることのない人を笑いものにしています。
それを見て観客が溜飲を下げることを期待しているようです。

その後、スポーツクラブで知り合った人の会社の顧問になり、その社長が急死したため、社長を引き受けます。

ところが、ミャンマーの取引先が倒産したため、売掛金を回収できず、その会社も倒産します。
個人保証を引き受けていたため、主人公が1億2千万円を弁済します。

メガバンクにいた主人公が、何のリスクヘッジもしていなかったということです。
映画では、主人公は何もせずに会社を倒産させたかのように描かれています。
どちらにしろ極めて不自然な設定です。

作者の「定年にもかかわらず、会社の経営などに手を出すから、ひどい目に遭うのだ」というメッセージが聞こえてくるようです。

あとがきには、さらに違和感を感じます。

作者によると、定年を迎えると社会的に「終わった人」になるそうです。
そして、社会的に「終わった人」になると皆、同じだということです。

60歳前後になると、若いころよりも個人差は大きくなります。
60年の積み重ねが効いてきます。
見た目も、健康状態も、内面も違います。
いわゆるいい大学を出たかどうかよりも、どう生きてきたかが関係します。

この本が売れたのは、タイトルのおかげだと思います。

エリートサラリーマンだった主人公が定年退職後なにもやることがなく、生きがいをなくした仕事人間のみじめさに、カタルシスを感じる人も多いと思います。

しかし、定年を迎えた会社員は、決して「終わった人」ではありません。

ただし、何もしないと急速に心身ともに衰えます。

社会とつながり、社会に貢献することが必要です。
そのためには起業が一番です。

そして、起業はリスクの大きな選択ではありません。

この本を読んだり、映画を見たりした人が、起業をリスクのあるものだと感じ、躊躇することがあるとすれば、極めて残念なことです。

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