焦点:中ロ間の資源貿易決済、ドルから元に 制裁で加速

焦点:中ロ間の資源貿易決済、ドルから元に 制裁で加速
 中国は過去1年間、ロシア産コモディティー輸入決済で人民元の使用を劇的に増やしており、石油、石炭、一部金属のほぼ全てをドルではなく人民元で決済するようになった。写真はイメージ。2022年9月撮影(2023年 ロイター/Dado Ruvic)
[シンガポール 11日 ロイター] - 中国は過去1年間、ロシア産コモディティー輸入決済で人民元の使用を劇的に増やしており、石油、石炭、一部金属のほぼ全てをドルではなく人民元で決済するようになった。
ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、約880億ドル(約11兆8800億円)のコモディティー取引の大半が人民元決済に移行。これにより中国による人民元国際化の取り組みが加速してはいるが、厳しい資本統制があるため、近い将来に人民元が国際的役割を果たせる可能性は小さそうだ。
人民元は3月、中国の対外取引決済で初めてドルを抜いて首位に立ったことが、公式データで分かる。しかしSWIFT(国際銀行間通信協会)によると、決済通貨としての世界シェアはドルの39.4%、ユーロの35.8%と比較して2.5%とまだ小さい。
BNPパリバ・アセット・マネジメント(香港)のシニア投資ストラテジスト、チー・ロー氏は、ドル利用のリスクを減らすために「人民元ブロック」に加わる国が増え、長期的に「雪だるま式」に人民元の利用が増えると予想。「米国主導の対ロシア制裁による影響を目の当たりにした後では」、特にそうなりやすいと分析した。
ロー氏は「今後10年、20年、はたまた30年に及ぶ非常に長期的な動きになる。今のところ、そして今後数年間は、人民元を使った貿易はコモディティーとエネルギーに集中するだろう」との見方を示した。
中国は10年以上前から人民元の国際化を進めてきた。しかし石油、ガス、銅、石炭などの世界的な取引のほとんどはドルの指標に基づいて価格が決まるため、人民元は中国による大口のコモディティー購入で散発的に使われる程度だった。
それが昨年、対ロシア制裁によって欧米の買い手がロシア産の購入を敬遠するようになると、状況は一変。中国の買い手は安くなったロシア産の原油、石炭、アルミニウムを買い求め、同国からのコモディティー輸入は昨年、金額ベースで52%増えた。
「ゼロコロナ政策」で疲弊した中国経済は、これによって何十億ドルも節約できた格好。経済の回復に伴い、今年も購入額は増加する見通しだ。
SWIFTに代わる中国独自の国際銀行間決済システム「CIPS」の決済総額は昨年、前年比21.5%増の96兆7000億元(14兆0200億ドル)に上ったことが、中国人民銀行(中央銀行)のデータで分かる。
中国がロシアから輸入する石油のほぼ全てが現在人民元で決済されていると、この問題を直接知る5人の貿易会社幹部がロイターに語った。中国の税関によると、中国は昨年、ロシアから原油と燃料油合わせて603億ドル相当を輸入したという。
人民元の利用は世界的に勢いを増している。アルゼンチンは先月、ドル準備の減少を和らげるため、中国からの輸入の支払いを人民元で開始すると発表。フランスの石油大手トタルエナジーズは3月、初めて人民元決済で中国に液化天然ガス(LNG)貨物を販売した。
こうした変化は、ウクライナ侵攻を受けロシアの主要銀行がSWIFTから排除された昨年4月に始まった。
このため中国の一部輸入企業は当初、ドル建ての貿易金融を確保するのに苦労し、現金での前払いに相当する電信送金を余儀なくされた。このことは特に、資金の乏しい独立系の精製企業に課題を突きつけたとトレーダーらは話している。
貿易面の対ロ制裁はまず、米国がロシアからの輸入を禁止し、欧州がロシアの輸出業者に対する規制を強化し、最終的に貿易禁止措置に発展した。昨年12月5日には欧米がロシア産原油輸出に価格上限が設け、こうした中で人民元決済は急増していった。
ある貿易会社の幹部は、「海上輸送によるロシア産原油の中国向け販売は、価格上限が設定されて以降全て人民元で決済されるようになり、最後までドルを扱っていた少数の銀行も影を潜めた」と述べた。
「価格上限制の下で、ドル建て取引は非常に複雑化している。銀行にとっては、より多くの法令順守業務が発生することになる」という。
ロシア中央銀行が3月に発表したところでは、昨年のロシアの輸入決済に占める人民元の割合は4%から23%に跳ね上がった。
ロシアのノバク副首相は先月、同国がドルやユーロからの脱却を目指し、ルーブルや人民元によるエネルギー輸出の支払い受け入れを今後も増やしていくと述べた。
ロシアのプーチン大統領は、中ロ貿易の3分の2が現在ルーブルか人民元で決済されていると述べた。
コモディティー輸入の急増により、中国の対ロシア貿易赤字は昨年380億ドルに達した。もっとも今年1―4月に赤字は縮小している。
<人民元シフト、当初は難航も>
人民元建て決済への移行は、常にスムーズに進んできたわけではない。
中国石油天然ガス集団(CNPC)は昨年、ロシアのガスプロムからのパイプラインによるガス輸入が削減される可能性を数カ月間にわたって心配していた。中国工商銀行(ICBC)と中国銀行が二次制裁を恐れ、この決済業務からの撤退を検討していたからだ。消息筋が明らかにした。
実際、CNPCは約半年間ガスプロムにドルで支払うことができなかったが、中国交通銀行が両行から業務を引き継ぎ、人民元建てでの支払いにシフトしたという。
ガスプロムは昨年9月、CNPCと人民元決済に合意したと発表している。
(Chen Aizhu記者)

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