『石鹸洗剤業界から見える世界のジェンダー平等と
女性・女児のエンパワーメント』より
9月4日、当工業会の国際委員会の前に実施した
ゲスト講演の一部をお伝えします。
石川 雅恵さん
UN Women(国連女性機関) 日本事務所 所長
UN Womenは193の国連加盟国の知見を活かし、世界中でジェンダー平等と女性と女児のエンパワーメント(権限付与)を支援しています。政府との対話や政策提言、人々の行動を促す機運の醸成や議論の場づくりにも注力しています。
●世界人口の半分を占める、女性や女児の人権のために
女性は世界人口の半分を占めますが、その潜在能力は十分に発揮されているとは言えません。UN Womenが活動する4つの領域 [A] すべてでジェンダー平等を達成した国は、日本を含めてまだ一国もないというのが現状です。
私たちが注力するのはジェンダー平等と、女性と女児のエンパワーメントです。その実現には、女性による意思決定への参画や経済的な自立の支援、女性への暴力の撤廃、紛争や災害下での女性支援などが必要です。そうした活動はジェンダーに特化したSDGsの目標5 [B] とも密接です。女性も男性も等しくSDGsの全目標と関係していますので、目標5への取り組みが、SDGsを達成する手段となります。
●UN Womenの活動と、石鹸・洗剤との関わり
世界では約30億人が家に水と石鹸がなく、手や体を洗えない不衛生な環境で暮らしています。不衛生な状態から起こる下痢や感染症で毎年何十万人もが命を落とし、教育や雇用の機会を奪われています。そのような状況下では、家事・育児を担う多くの女性の経済的な自立も、より困難になります。この課題に対して石鹸や洗剤は、衛生環境の向上だけでなく、ジェンダー平等やSDGsの目標5の視点からも貢献ができます。たとえばUN Womenは、新型コロナウイルス流行時には、現地でマスクや石鹸の作り方を習得する研修を実施するなど、女性の就労や収入の増加、経済的自立の支援も行なっています。
また、女性の生理については世界的に理解が進んでいません。トイレやシャワーが使えないことは、生理中の女性の尊厳に関わります。この問題は紛争下や災害時に増大しますので、UN Womenでは避難所の女性や女児に石鹸を含むディグニティー(尊厳)キットを配布しています(石鹸、歯磨き、生理用品、下着、懐中電灯などの日用品セット)。
人道援助や災害支援の活動では、最初に水、食べ物、住居の3つを考えますが、実は石鹸や洗剤などの日用品も、生命を保つ必需品ではないとしても、人間が尊厳を保ち、人間らしい生活をするために、とても大事な役割を果たすのです。
日本のみなさんには、ニュースであまり報じられない開発途上国の紛争下や災害時における女性や女児への影響を、どうか想像してみて欲しいと思います。そして、ご自身が所属する組織に、女性や女児の人権を守る仕組みがあるかどうか、考えてみていただきたいのです。
ジェンダー平等や女性のエンパワーメントの視点は、産業界のイノベーションの秘訣ともなります。科学、技術、工学、数学を横断するSTEM(ステム)分野の女性を増やす支援をしたり、企業が国連の提唱するWEPs(女性のエンパワーメント原則)に署名して女性活躍を推進したり、広告表現におけるジェンダー平等を目指す「アンステレオタイプアライアンス」に参加したりすることも、業界や企業の発展によい効果をもたらすはずです。
ぜひUN Womenの事業に関心を持っていただき、なんらかの形で支援や参加、協働をお願いできればと思います。