椎名林檎のNHKサッカーテーマ曲、その“右翼ごっこ”より問題なこと
⇒【動画】http://youtu.be/UMlqTEVMZFE
(編集部注:5/26に先行アップされた別の動画には、「涙出てくる」「神風特攻隊みたいでめっちゃかっこいいやんっっっ!!w 戦時中思い出しますwww」「一瞬『馬鹿にしてんのか?』と思ってしまったwwwサッカーに興味なさそうだなwww」「在日と売国ブサヨがこのテーマ曲を『右翼』だの『軍国主義』だの『精神論』だのとやかましいが、とてもイイ曲ですね」など、さっそく香ばしいコメントも)
愛車にヒトラーと名付けたり、ライブで旭日旗風の旗を配ったり、展示会で「同期の桜」の歌詞を自筆で書いて展示したりと、これまでにも色々と波風を立ててきた彼女らしいと言えばそれまでなのでしょうが、しかしもっと問題なのはこれがNHKのワールドカップ中継全体のテーマソングだということです。つまり日本戦以外の中継でもこの『NIPPON』がかかってしまう。
たとえばグループHのアルジェリアVS韓国の一戦を中継したとしましょう。当然そのハイライトやエンディングでも『NIPPON』が流れることになる。
<万歳!万歳!日本晴れ 列島草いきれ 天晴>
一体アルジェリアと韓国に何の関係があるのでしょうか。かといってドイツとポルトガルの試合ならばフィットするというものでもない。少し気が早いですが、仮にブラジルが優勝したとしましょう。ネイマールがカップにキスをする映像の背後で「列島草いきれ」と啖呵を切るような椎名林檎の歌が聞こえてくる情けなさといったらありません。ブラジルは広大な陸地です。
やはりどんなシーンを想定しても、日本代表の試合以外では使えない曲なのです。
※フルバージョンの歌詞はコチラ
http://www1.nhk.or.jp/sports/soccer_theme/
そうなると『NIPPON』がワールドカップ中継のテーマ曲として成功するためには、もう日本代表が優勝するしかなくなる。それでは日本が優勝する可能性は一体どれぐらいあるのでしょうか。イギリスの大手ブックメーカー「ウィリアム・ヒル」のオッズによれば、6月10日時点で126倍。スイスやコートジボワールと同じ数字です。全くないとは言えないものの、やはり大穴に近いダークホース的存在と考えるのが妥当でしょう。
となると、この日本に限定されたテーマソングが大会の開催期間中ずっと流れることになるのも、相当にハイリスクだと言わざるを得ない。
当然日本の放送局で使われる楽曲ですから、多少日本代表を応援するようなフレーズが入るのは分かります。しかし、椎名林檎の『NIPPON』は不必要なまでに過剰です。「淡い死の匂い」などというフレーズに至っては、明らかにTPOをわきまえていない。
そもそも日本以前にサッカーという競技そのものを想起させる瞬間すらない。
もちろん日本を愛そうが憎もうがそれは個人の自由です。しかしその自由に深く依存して作品を作ることが、いかに危うい行為であるかは心に留めておく必要があるように思います。せめて日本代表がベスト8ぐらいまで進出してくれれば格好はつくのでしょうが……。
※初出記事の「軍歌に特化したイベントをしたり」は事実誤認でした。「ライブで旭日旗風の旗を配ったり、展示会で『同期の桜』の歌詞を自筆で書いて展示したり」と訂正致しました。
<TEXT/音楽批評・石黒隆之>
6月11日にリリースされる椎名林檎のニューシングル『NIPPON』がNHKワールドカップ中継のテーマソングに選ばれました。はためく白地の中心に赤く塗られたサッカーボールという構図のジャケットがなかなかに鮮烈ですが、それ以上にその歌詞が早くも物議を醸しているようです。
浦和レッズの一部サポーターによる「JAPANESE ONLY」横断幕事件の影響もあってか、特に次の一節に引っかかるという人もいるかもしれません。
<この地球上で いちばん 混じり気の無い気高い青>
「青」はつまり“サムライブルー”と称される日本代表のことですね。すると、このフレーズは「純血主義の気高い日本代表」と読めなくもない。ネトウヨ熱狂、リベラル発狂といったところでしょうか。
日本と関係ない試合でこれが流れるマヌケさ
椎名林檎が、日本を愛そうが憎もうが自由だけれど……
石黒隆之
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4