企業ITがクラウド環境へと移行する中、データやシステムの連携を効率化する仕組みとしてiPaaS(integration Platform as a Service)と呼ばれるサービスが注目を集めている。そのiPaaSベンダーの中の1社が、Dell Technologies傘下のDell Boomiになる。
近年、デルの事業戦略において存在感を示しているだけでなく、Gartnerが発表した2019年のエンタープライズiPaaS分野のMagic Quadrantで“リーダー”に位置付けられるなど、市場からも高い評価を受けている。
デジタル変革(DX)への取り組みが活発化するタイミングで、日本市場での事業展開を本格化させている。Dell Boomi アジア太平洋・日本地域担当マネージングディレクターのAjit Melarkode氏にサービスの特徴や日本での事業戦略について聞いた。
Dell Boomi アジア太平洋・日本地域担当マネージングディレクターのAjit Melarkode氏
--Dell Boomiの成り立ちやビジネスモデルについて説明してほしい。
7つのテクノロジーブランド(Dell、Dell EMC、Pivotal、RSA、Secureworks、Virtustream、VMware)が結集するDell Technologiesの中で、われわれは新しい8つ目のブランドという位置付けになる。他のブランドと同様に、元々は米国で10年前に買収されたサービスである。エンタープライズITや同社の製品群を山に見立てた場合、裾野になる部分はインフラ、つまりDellやEMCのサーバーやストレージに相当し、中腹部分にVMwareなどのミドルウェアやサービスがある。われわれはその頂上に位置しているイメージだ。
Dell Boomiは、Dellのサーバー上のアプリケーション、もしくはストレージ上にあるデータを統合するためのツールやプラットフォームを提供しており、その全てを統合する役割を担うという意味でグループ内の重要なポジションにいると考えている。
--サービスの特徴や優位性はどこにあるのか。
Boomiのサービスは、クラウドベースの統合プラットフォームとして提供される。「アプリケーション/データの統合」を中心に、「マスターデータハブ」「B2B/EDI管理」「APIの設計・管理」「ワークフロー自動化とアプリケーション開発」という計5つの要素で構成されている。
中核となる統合基盤では、現在200種超のアプリケーションに特化したコネクターを用意している。日本は独自開発のアプリケーションが多いが、ソフトウェア開発キット(SDK)を使って独自をコネクターを作ることもできる。
電子データ交換(EDI)を用いた企業間のデータ連携やAPIの管理/カタログ化、散在するデータを一元化して単一のビューで見るマスターデータ管理、ローコード開発によるビジネスプロセスフローの改善も可能になる。
--レガシーシステムがデジタル変革の足かせになっていると言われている。
日本は自社開発のシステムが多いため、思うようにDXが進まないという現状がある。レガシーシステムのデータを資産として活用できるかがポイントになるが、われわれが提供する5つの構成技術によって、迅速なクラウドの展開やデータの有効活用を進められる。つまり、Boomiを使えば企業のDXを加速させられるというわけだ。
--日本企業のDXへの取り組みはどの段階にあると考えているか。
企業がシステムを移行する目的は、それぞれの段階に応じて「コネクト」「モダナイズ」「トランスフォーム」「イノベート」という4つのパターンに分けられる。コネクトは、レガシーとクラウド、あるいは買収した組織同士のシステムをつないでいくこと。モダナイズとは、レガシーシステムからクラウドシステムに変える、もしくはアプリケーションをアップグレードするなどテクノロジーの刷新。この2つの部分が終わった段階で、テクノロジーとビジネスを組み合わせ、現在の業務の進め方や方法を全く新しいやり方に変えるトランスフォーメーションのフェーズ、全く新しいビジネスをどう作っていくかというイノベーションのフェーズへと発展していく。
現時点での日本企業のDXレベルは「コネクト」「モダナイズ」の段階にある。背景としては、自社製のレガシーアプリケーションが多いことが挙げられる。3~5年でその先に進むと考えられるが、その際にもそれぞれの段階に応じたケーススタディーを用意しているので、それをもとに支援ができる。
--具体的にどのようなステップを踏んでいけばよいのか。
方法は3つある。1つ目は特に製造業についてはEDIを使うことでシンプルにデータを取れるようになる。次に、製造業以外の部分はAPIを使い、APIのカタログを作って管理することで複雑なデータ連携をシンプルにできる。3つ目は、200種類以上を用意するコネクターを使用することだ。該当するコネクターがなければSDKで作ることもできる。
コネクターを開発する際は、約9000社の顧客と100万件の実装から得たデータをもとに、人工知能(AI)や機械学習を使ったサジェスト機能でサポートする。他にもBoomi社内に導入支援の実部隊があり、フェースツーフェースで対応できる。
--日本ではシステムの開発や運用を外注任せにしていることも多い。Boomiではどのような販売戦略をとるのか。
日本では、システムインテグレーター(SIer)への依存度が高いことは分かっている。ただ、SIerを使わずにクラウドに移行しようとしているユーザーもいるので、双方にアプローチしていく。Boomiには多様なコネクターがあるが、SIerは得意領域を生かした提案ができるようになるはずだ。SDKを使ってSIerが独自にコネクターを実装したり、インテグレーションプラットフォームを構築したりする使い方もできるだろう。
現時点でのSIパートナーは10社以下だが、日本はアジア太平洋地域の中でも最も重要な地域と考えている。日本市場に参入しても他社に買収されたり、すぐに撤退したりするケースもあるようだが、われわれのバックボーンにはDell Technologiesがいるのでそのようなことは決してない。