企業向けのパブリッククラウドサービスは、まさに戦国時代の様相を呈している。Amazon Web Services(AWS)を筆頭に、MicrosoftのAzure、VMwareのvCloud Airが日本の企業の要件に合ったサービスを提供している。それらに対し、国内のホスティング事業者も価格やサービス面で対抗できるサービスとサポート内容で応戦している。
クラウドのセキュリティや堅牢性に不安を感じる企業は、もともと利用している閉域ネットワークサービスなどを提供している国内キャリアのクラウドを選択する傾向にある。今や、企業にとってクラウドは、利用するかしないかではなく、どのサービスを選択するかという段階に移行しようとしている。
ここ2年で企業のクラウドに対する姿勢は180度変わった。少なくとも2~3年前までは、IaaSはテスト環境や評価環境、短期間のキャンペーン用ウェブサイトとしての利用がメインであったのが、現在では多数の企業の本番サーバがクラウドへの移行を始めていると感じる。
システムダウンのリスクを最小限に抑えることのできるクラウドの可用性、最先端の侵入防御の技術や監視体制を敷いたクラウドのセキュリティ、これらは企業規模の大小にかかわらず世界的に知名度の高い会社が多く、システムダウンや情報漏えいが許されない日本の企業には非常に重要な点であり、今後クラウドの利用が主流となっていく大きな要因とされる。
2014年から2015年にかけて「ハイブリッドクラウド」という言葉が浸透しているが、これはクラウドとオンプレミス、プライベートクラウドとパブリッククラウドの組み合わせであり、クラウド事業者にとっては、企業ユーザーを引き込むための有効なコンセプトである。このハイブリッドクラウドへの変遷は、異なる環境間のシステム移行を可能なものにしている。
例えば、オンプレミスにあるシステムをクラウドに移行することができる。こういった移行がすすむと、これまでそれぞれのクラウドで完結していたシステムを用途や利用状況によって、オンプレミスや他のクラウドに分散、移行ができるということになる。異なるクラウド間の移行が頻繁に実施できるようになると、複数のクラウド利用が可能になり、複数のクラウドを同時に利用する「マルチクラウド」が浸透していく。
コストや可用性、セキュリティ、サポート体制、オンプレミスの既存システムとの連携、そういった要素によって、利用者はクラウドサービスを選択し、使い分けるようになる。例えば、外部のウェブシステムはこのクラウド、社内の基幹系システムはオンプレミスとこのクラウドの組み合わせ、情報系はこのクラウドといったような使い方が近い将来現実になっていく。
このように、複数のクラウドやオンプレミスを組み合わせて利用するマルチクラウドの時代に突入した場合、企業にとって何が重要になってくるのか。非常に重要視されるものにデータ保護やデータ活用が挙げられる。メーカーやサービス業の企業は何年も前からあらゆるデータを保存、分析して製品やサービスの開発に役立てている。
対象となるデータも日に日に範囲が広がっていき、自社に関係するツイートやSNSの投稿を企業が分析することも珍しくなくなった。今や利用価値のないデータはないともいわれている。