春節のこの時期、中国人旅行者が大挙して日本で商品を買い込んでいる。買うのは自分自身用のものだけではない。日本に旅行するときくや知人友人から買ってきて欲しいとオーダーされたものや、転売用のものもある。
日本で買うものの決め手として大きいのが口コミ。また若い世代の視線はここ1~2年で、街頭広告やディスプレイ広告からスマートフォンへ向かっている。移動中やショッピングセンターでの買い物中に、スマートフォンを片手にお気に入りのニュースアプリを開いたり、気になることを検索することが多く、ネットでの情報も重要となる。上海では地下鉄駅やショッピングセンター内に、ICチップが入ったストラップをかざすと、割引券が出てくるという機械が置かれ、割引券の中には日本の家電量販店の割引券もあったのだが、どうもこの仕組みもスマートフォン化に負けたようだ。
中国のネット検閲は強化されていて、Googleは利用できない。百度を利用しようにも中文はともかく、中文以外の精度は酷い有様で(試しに中文版百度で日本語や英語を検索して見ればわかる)、中国国外の優良な情報にたどり着くことは難しく、結局中国国内の情報に頼らざるを得ない。海外の買い物旅行のためにわざわざ苦労してVPNなどを利用しながら中国国外の情報を調べようなんて思うこともなく、そのVPN自体も中国政府が封じているのだから、百度で「日本旅遊」や「東京旅遊」などで検索した結果を利用するしかない。
こうしたネット環境の中国で、この春節時期にあわせ、日本買い物指南的な記事が登場した。いくつか紹介しよう。
「旅行で買いたい日本十大人気薬品」というニュースがあった。それによれば、「ロート ナノアイ(目薬)」「ペアアクネクリーム(吹き出物、ニキビ対策)」「イブ頭痛薬」「ウナコーワクール(かゆみ止め)」「新ビオフェルミンS(整腸剤)」「新ルルA(かぜ薬)」「サカムケア(液体絆創膏)」「口内炎パッチ大正A」「パブロンゴールド(かぜ薬)」「休足時間(足用冷却ジェルシート)」が挙げられていた。
中国人に知られている日本の医薬品は他にもある。筆者自身、サプリメント系のニーズは高いことはよく聞く。中国の医薬品といえば漢方薬で、化学的な医薬品を拒み、自然の治癒力を利用した漢方薬を好む人々が相当数いるが、一方で若い世代で「伝統よりも安心安全な日本製品」という人が増えてきた証左か。
また別のメディアでは「日本の買い物旅行で購入価値のあるモノ」というニュースを掲載した。それによれば、「三菱製の蛇口取り付け型浄水器」「象印やタイガーの炊飯器」「象印製魔法瓶」「デジタル一眼レフカメラやレンズ」「登山用ブランドウェア」「アシックスの靴」「包丁」「味霸」「青汁」「じゃがポックル」「ヨックモック」「札幌農学校ビスケット」「Royce生チョコレート」「中古のブランドバック」「薬品」「絵はがき」などが挙げられていた。
デジタル一眼レフカメラやレンズ、それに登山用ブランドウェアやアシックスの靴は中国でも売られているが、中古のブランドバック同様、中国よりも安い、というのがお勧めの理由だという。他の記事では「シェーバー」や「腕時計」をお勧めしていた。
対して、「日本でこれを買ってはならない」という記事も取り上げられ、そこでは「食品は高いから買うな」「PSPは中国と大差ない価格だから買うな」「デジカメやデジタルビデオカメラは若干中国より安いけれど、メニューに中文がないから買うな」という内容が書かれていた。
あるメディアの記事では、安いからデジカメを買うべきといい、別のメディアではデジカメは高いから買うなと書いてある。またあるメディアの記事では、日本のお菓子を勧めていないが、別のメディアでは日本のお菓子を勧めている。記事の書き手によって、お勧めするものはバラバラなのだ。
百度で「日本旅遊」や「東京旅遊」を検索ワードとして検索すると、「ma蜂窩」や「ctrip」などの著名な旅行サイトや、百度のコンテンツ「百度旅遊」の、日本旅行特集ページが検索結果上位にくる。これらのページでは、日本の観光地についてウェブサイトとして公開しているほか、PDFファイルでオリジナル旅行ガイドを会員向けに丸ごと公開しているサイトもある。こちらでは「どこに行くべき」というのはあるが、「何を買うべき」という具体的な商品購入のアドバイスをするコンテンツはあまりない。
日本の情報がバラバラながら、数少ない日本のお勧め商品に関するネットニュース発の情報が見られ、いつしか知識となり、口コミとして広がる。ならば中国で展開するPR会社や、実績あるコンサルティング会社に依頼して、中国の著名ニュースサイトで日本のお勧め商品をPRしていくのは、有用な手段といえよう。
- 山谷剛史(やまやたけし)
- フリーランスライター
- 2002年より中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、アセアンのITや消費トレンドをIT系メディア・経済系メディア・トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014 」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち 」など。