酒税法
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酒税法(しゅぜいほう)は、酒税の賦課徴収、酒類の製造及び販売業免許等について定めた日本の法律。法令番号は昭和28年法律第6号、1940年に制定された旧酒税法(昭和15年法律第35号)を全部改正する形で制定され、1953年(昭和28年)2月28日に公布された。
酒税法 | |
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日本の法令 | |
法令番号 | 昭和28年法律第6号 |
種類 | 租税法 |
効力 | 現行法 |
成立 | 1953年2月27日 |
公布 | 1953年2月28日 |
施行 | 1953年3月1日 |
所管 |
(大蔵省→) 財務省[主税局] 国税庁[課税部] |
主な内容 | 酒税の賦課徴収 |
関連法令 | 消費税法、たばこ税法、アルコール事業法、二十歳未満ノ者ノ飲酒ノ禁止ニ関スル法律、沖縄の復帰に伴う特別措置に関する法律 |
条文リンク | e-Gov法令検索 |
アルコール分1度(容量パーセント濃度で1パーセント)以上の飲料[注釈 1]が「酒類」として定義される。アルコール分90度以上で産業用に使用するアルコールについてはアルコール事業法(平成12年法律第36号)で扱われる。
所管官庁
編集アルコール事業法を所管する経済産業省製造産業局素材産業課[2]、薬機法を所管する厚生労働省医薬局総務課と連携して執行にあたる。
構成
編集税率政策
編集かつては日本古来の焼酎を「大衆酒」と位置付けて低税率とするいっぽう、ウイスキー、ブランデーなどの洋酒は「高級酒」とされて高税率であった。これについて、洋酒生産国から『非関税障壁である』との批判を受けて、2008年(平成20年)に税率が改正され、焼酎とウイスキー、ブランデー、スピリッツはアルコール度数37度以上の場合、等しい税額を賦課されている[注釈 2]。
またかつては日本酒は品評会により、特級・一級・二級の区分がなされ、高等級の酒ほど高税率を賦課されていた。しかし、日本酒級別制度は生産者の申請によるものであり、等級審査を経なければ「二級酒」として扱われた。そのため、特級や一級に相当する品質の酒について、あえて審査を申請せず、無審査二級酒として販売する業者が増加した。こうしたこともあって、1992年4月に日本酒級別制度は廃止され、一律の税率が賦課されるようになっている。
2017年(平成29年)現在では、ビールに対する高税率を回避するために開発された、発泡酒や「第三のビール」の税率が引き上げられる傾向にある。2018年(平成30年)の税制改正により、2020年(令和2年)から2026年(令和8年)にかけ、段階的にビールの税率を引き下げ、発泡酒や第三のビールについては税率を引き上げすることで、ビール類の税率を統一させることが決まっている。
定義
編集酒税法第3条では17種類に分類されている。税率はアルコール度数だけではなく、原料の割合や製造法が加味されている。また醸造免許も分類ごとに法定製造数量が異なる。
日本酒については、特定名称酒制度など詳細な規定が存在するが、ウイスキーやワインなど、元来日本になかった酒類については大まかな規定しかない。また、スコッチ・ウイスキーやフランスワインのような原産地の保護に関する規定がなく、原酒が輸入品でも日本で瓶詰め・ブレンドを行えば『国産』と表記できるため、輸入されたブドウや濃縮果汁を使用した『国産ワイン』が出回っていた。2018年(平成30年)から『日本ワイン』の定義は厳格化されたが、ウイスキーに関しては、輸入したバルクウイスキーを日本で瓶詰めしただけで『ジャパニーズ・ウイスキー』を名乗れる状態である[3]。
またビールは、当初富裕層が飲むものとされたため税率が高かったが、冷蔵庫の普及や生活水準の向上などにより庶民にも広まった。しかしその後も高い税率が維持されたため、酒造メーカーでは日本のビールの定義を利用し、発泡酒や第三のビールなどの『節税ビール』を発売した。税収を確保するため法改正がなされたことで、酒の定義は更に細かくなり、酒税負担が重くなるなどの税制上の歪みも発生している。
ただし、アルコール事業法の適用を受けるもの[注釈 3]や医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)の規定により製造・輸入・販売の許可を受けたアルコール含有医薬品・医薬部外品などは酒税法上の酒類から除かれる。
酒類製造の制限
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日本において酒類製造免許がない状態でのアルコール分を1%以上含む酒類の製造は、酒税法により原則禁止されている。これに違反し、製造した者は酒税法第54条により10年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科せられる。かつては家庭においてリキュールを作ることさえ不可能で厳格な法律であったが、一部については規制緩和が行われた。
規制緩和
編集1961年(昭和36年)、当時の石橋内閣のもとで広報参与を務めていた読売新聞出身の石田穣が、日本経済新聞紙上に梅酒に関連した随筆を寄稿したことから、酒税法をめぐる騒動が発生する。石田の随筆の内容は、当時の酒税法に違反する内容であったためである。それまでも一般家庭では、梅酒やリキュールなどの自家製造は広く行われていたが、結局この失言騒動めいた経緯が決め手となり、翌1962年(昭和37年)に正式に法改正が行われ、家庭で梅酒などリキュールを作ることが可能となった[4][5]。
ただし、漬け込むアルコールの度数は20度以上とするなど条件は厳しく、著しく例外規定的なものであった。一例として、2007年(平成19年)6月14日、テレビ番組『きょうの料理』(日本放送協会)の「特集★わが家に伝わる漬け物・保存食~梅酒~」にて、みりんを使った梅酒のつくり方を放送したが、そのレシピに従い、個人が梅酒を作ると違法となることが判明し、後日、謝罪放送がされるという事態が発生した。
既存の小売業者を保護し、酒税の安定した賦課徴収を図るために、新規参入者に対しては、酒税法に基づく厳格な制限が課されていた。しかし1998年(平成10年)3月に第2次橋本改造内閣で閣議決定された、規制緩和推進3カ年計画に基づき、2001年(平成13年)1月に距離基準(既存の販売場から一定距離を保つ規制)が廃止され、2003年(平成15年)9月には人口基準(一定人口ごとに酒類販売業免許を付与する規制)が廃止された。これにより、酒類の販売が事実上「自由化」されたものの、租税徴収と脱税防止のため、酒の販売に当たり『酒類販売業免許』が必要であることに変わりはない。
なお酒類販売の「自由化」と同時に、既存業者を保護することを目的とした議員立法(酒類小売業者の経営の改善等に関する緊急措置法)が制定され、かえって規制が強化された地域(特別調整区域)が存在するようになった。同法は2年間の時限立法であったため、2005年(平成17年)8月31日に失効しているが、失効前の改正によって規制強化は2006年(平成18年)8月31日まで存続した。
注意点
編集酒税法上、酒類製造免許がない者が、梅酒やサングリアなどの混成酒を造る場合、アルコール度数20度以上の酒を使用することが、酒税法により定められている。そのため通常、レシピのサングリアはワインが20度もアルコール度数がないため、酒税法違反となる[注釈 4][6]。また店舗で提供する場合は、税務署への届け出と20度以上の蒸留酒を用いることが酒税法により定められている。サングリアを提供する店舗をハイパーリンクして紹介するウェブサイトがあるが、注意が必要である[注釈 5][7]。どうしても作りたい場合は、酒税法43条10項の「消費の直前において酒類と他の物品(酒類を含む)との混和をする場合で政令で定めるときについては、適用しない」より、飲む直前に混ぜることになる。
市販の酒類を蒸留しエタノールを抽出する行為も酒類の製造と見なされ、中学校の理科など基礎科学実験で多いみりんやワインを蒸留する実験[8][9][10]には、飲料に使えないように添加物を加えたりアルコール事業法の制限(90度)に抵触しないように配慮しなければ違法となる[11]。しかし、国税庁は教育現場では「工業用アルコール」を使用しているとの建前で監査なども行わず、放置状態である[11]。
酒税法上の分類
編集法律改正により2006年5月より分類・品目が変更され、一部の定義なども変更されている。
分類 | 品目 | 酒税法の定義 | 備考 |
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発泡性酒類 | ビール | 第3条第12号 | |
発泡酒 | 第3条第18号 | ||
その他の発泡性酒類 | アルコールが10度未満で発泡性を有するもの。 | ||
醸造酒類 | 清酒 | 第3条第7号 | 清酒 |
果実酒 | 第3条第13号 | ワインなど | |
その他の醸造酒 | 第3条第19号 | どぶろく・黄酒・蜂蜜酒など | |
蒸留酒類 | 連続式蒸留焼酎 | 第3条第9号 | 焼酎甲類 |
単式蒸留焼酎 | 第3条第10号 | 焼酎乙類 | |
ウイスキー | 第3条第15号 | ||
ブランデー | 第3条第16号 | ||
原料用アルコール | 第3条第17号 | ||
スピリッツ | 第3条第20号 | ||
混成酒類 | 合成清酒 | 第3条第8号 | |
みりん | 第3条第11号 | ||
甘味果実酒 | 第3条第14号 | ||
リキュール | 第3条第21号 | ||
粉末酒 | 第3条第22号 | ||
雑酒 | 第3条第23号 | その他の混成酒、みりん類似、灰持酒・百歳酒など |
改正前の定義
編集なお参考として改正前の分類と定義を記す。
脚注
編集注釈
編集- ^ 薄めてアルコール分1度以上の飲料とすることができるもの(アルコール分が90度以上のアルコールのうち、第7条第1項の規定による酒類の製造免許を受けた者が酒類の原料として当該製造免許を受けた製造場において製造するもの以外のものを除く)または溶解してアルコール分1度以上の飲料とすることができる粉末状のものを含む。
- ^ 第23条。1キロリットル当たりの酒税は、焼酎を含む蒸留酒類は21度未満が20万円、それ以上は度数×1万円であるが、ウイスキーなどは37度以下が一律37万円と異なる。ただし、一部に35度ウイスキーなどが存在する以外、一般に40度以上なので実質は同額である。
- ^ 同法の規定する特定アルコールを精製し又はアルコール分を90度未満に薄めたもので、明らかに飲用以外の用途に供されると認められるものを含む
- ^ サングリアはレシピなどが出回っているが、酒税法違反がほとんどである。日本酒サングリアも日本酒が20度以上あるものが少ないため違反となっているケースが多い。
- ^ ワインは蒸留酒ではないし、アルコール度数も15度以下のため、店舗での提供は事実上不可能となる。
- ^ 一般に「焼酎乙類」と表記。「焼酎甲類」より劣ると誤解されないように「本格焼酎」という表現も用いられるが、焼酎乙類には糖分などを2度未満加えることが可能なのに対して、本格焼酎は無添加のものに限られるなどの違いがある。
出典
編集- ^ 酒のしおり(令和6年6月) - 国税庁Webサイト。
- ^ アルコール事業法の理解を深める - 経済産業省Webサイト。
- ^ 「ジャパニーズウイスキー」の悲しすぎる現実 - 東洋経済オンライン
- ^ 本郷明美『どはどぶろくのど 失われた酒を訪ねて』講談社
- ^ MSN産経ニュース - 産経抄 - 2011年12月5日(2011年12月4日時点のアーカイブ)
- ^ “消費者が自宅で梅酒を作ることに問題はありますか”. 2016年8月18日閲覧。
- ^ “旅館等で自家製の梅酒を食前酒として提供することに問題はありますか”. 2016年8月18日閲覧。
- ^ 実験10みりん、ワインの蒸留/1年理科『化学』/takaの授業記録2002 - 中学校の教諭が生徒に持参させた酒類を蒸留する実験の記録
- ^ 蒸留でエタノールを取り出す - お茶の水女子大学附属中学校の教諭が中学向けの簡素な実験手順を紹介した事例。みりんやワインを使用する際の注意点も書かれている。
- ^ アルコールの蒸留 文系学生実験 - 慶應義塾大学自然科学研究教育センターが文化系の学部生向けに行っている基礎化学の実習。ワインまたは焼酎を蒸留している。
- ^ a b 消毒用アルコールが無いなら赤ワインから合法的に作ってみる。 薬剤師 植芝亮太 - 薬剤師がワインから消毒用アルコールを製造するため国税庁などに問い合わせた事例。