炭疽症
炭疽症(たんそしょう)または炭疽(たんそ)とは、炭疽菌による感染症。ヒツジやヤギなどの家畜や野生動物の感染症であるが、ヒトに感染することもある人獣共通感染症である。ヒトへは、感染動物との接触やその毛皮や肉から感染する。ヒトからヒトへは感染しない(言い換えれば、非常に危険な感染症であるが、伝染病ではない)。感染症法における四類感染症、家畜伝染病予防法における家畜伝染病である。以下、とくに断りがない限りヒトにおける記述である。皮膚からの感染が最も多いが、芽胞を吸いこんだり、汚染した肉を不十分な加熱で食べた場合にも感染する。自然発生は極めてまれ。
炭疽とは「炭のかさぶた」の意味であり、英語名のAnthraxはギリシャ語で「炭」の意味である。この名称は皮膚炭疽の症状で黒いかさぶた(瘡蓋)ができることにちなむ。
炭疽症の種類
編集- 皮膚炭疽症
- 炭疽菌が顔、首、手などの皮膚の小さな傷から侵入すると、1 - 7日後ニキビ様の小さな掻痒性または無痛性の丘疹が現れ、周囲には発疹と浮腫が現われる。丘疹は崩壊し潰瘍となり黒いかさぶたを形成し、高熱が出る。炭疽症の大部分はこれに含まれる。
- 未治療の場合の致死率は10 - 20%[1]
- 肺炭疽症
- 炭疽菌が空気とともに肺に吸入された場合、インフルエンザ様症状を示し高熱、咳、膿や血痰を出し呼吸困難となる。
- 未治療での致死率が非常に高く、90%以上である[1]。
- 腸炭疽症
- 炭疽菌が食物とともに口から入ると、頸部のリンパ節炎、腹水貯留、高熱、吐血、腹部の激痛、激しい下痢(膿や血が混じる)がおこる。
- 未治療での致死率は25 - 50%[1]
予防と治療
編集予防
編集炭疽症にかかった家畜は殺して焼却し、汚染物は焼却するか厳重に消毒するようにする。また、原因不明の病気にかかった家畜の肉は食べないようにすることである。また、ワクチンは日本には無く、アメリカで1社が製造するのみ。しかも3 - 6回の接種が必要で、副作用の可能性が高く、予防接種はあまり推奨されない。除染法は、汚染場所にヨウ素・塩素などの殺胞子剤を撒く。緊急時には、塩素系漂白剤を10倍に薄めて霧吹きなどで噴霧する。殺菌用の紫外線放射機器を使用してもよい。
治療
編集抗生物質により治療可能。ペニシリン・テトラサイクリンなど。他人には感染しないので、隔離の必要は無い。手遅れでなければ治癒する。
日本の発症例
編集ロシアの発生例
編集病原診断
編集炭疽菌の特徴
編集ヒト・家畜を問わず、死亡率・感染力が高い。世界各地で見られる。潜伏期間は1 - 7日間と短いが、環境の変化などには芽胞の状態で何十年も生き続ける。培養しやすく、増殖力が強い。
生物兵器
編集炭疽菌はその致死率の高さから生物兵器としての開発が行われ、アメリカ、ソビエト、イラクなどが保有した。特に旧ソ連では炭疽菌の芽胞を量産し、これをICBMに搭載した生物兵器を配備していたとされている。
1993年、オウム真理教はこれを散布するバイオテロを実行したが、失敗に終わった(亀戸異臭事件、首都圏炭疽菌散布計画)。
ヒト以外の動物における炭疽症
編集牛、馬、羊、山羊などでは感受性が高く急性敗血症や尿毒症で死亡する、犬や豚では比較的感受性は低い。莢膜染色、アスコリーテスト、パールテスト、ファージテスト、ポリメラーゼ連鎖反応 (PCR) などが診断に用いられる。生前に診断されることは稀。牛、馬、羊、山羊、豚では家畜伝染病予防法に基づき、焼却処分(やむを得ず埋却処分を行う場合は原則として20年間発掘禁止)を行う。予防には無莢膜弱毒変異株による生ワクチンが使用される。緊急予防的に同居牛に対してペニシリンの大量投与を行う場合がある。
脚注
編集関連項目
編集外部リンク
編集- 感染症の話2005年第12週 炭疽[リンク切れ] (国立感染症研究所 感染症情報センター)
- 炭疽 (Anthrax) (PDF, 46 KiB) - 日本医師会
- 生物兵器テロの可能性が高い感染症について(2001年10月15日、厚生労働省)
- 炭疽 - メルクマニュアル家庭版
- 炭疽血清(牛)[リンク切れ] - 農林水産省
- 炭疽血清(馬)[リンク切れ] - 農林水産省