ryomiyagi
2019/10/22
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2019/10/22
極度な糖質制限やタンパク質の強化などによって、がん細胞だけを弱らせ正常細胞を元気にするがんの支持療法「免疫栄養ケトン食」。しかし、この治療による回復はがん活動の一時停止にとどまり、完全消失には至りませんでした。そして近年、ついに「がんを殺す力」を向上させる、「がん体質」を改善するために必要な栄養素の存在が明らかになったのです。
※本稿は、古川健司『ビタミンDとケトン食 最強のがん治療』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
新型栄養失調が現代病の温床である。こう聞くと、ほとんどの人が首を傾げるかもしれません。
飢餓に苦しむアフリカなどの人たちは別として、たしかにこの飽食の時代、栄養の補給は十分すぎるほど事足りているはずだからです。
なのに、なぜ栄養失調なのでしょうか。
現代病は、都市化や産業化に伴う生活習慣や環境の変化に起因します。近年になり、がんをはじめとして、糖尿病や認知症、インフルエンザ、花粉症やアトピーなどのアレルギー、骨粗しょう症、脳卒中、心筋梗塞、高血圧、そしてストレス社会が生み出すうつ病……などの患者さんが年々増えています。
こうした現代病にほぼ共通して、ある一つの栄養素だけが決定的に不足しているのが、最近の研究で明らかにされてきたのです。
その正体こそビタミンDです。
がんの支持療法として「免疫栄養ケトン食」を展開してきた私にしても、ビタミンDの重要性を重々に認識していたつもりでした。
そのため患者さんには、がん治療に特化した栄養指導の他、ビタミンDサプリメントの摂取も勧めてきましたが、その絶対量が圧倒的に不足していたのです。
これは、私が2018年1月、「がん患者におけるビタミンD欠乏の状況と治療」と題し、日本病態栄養学会で発表した臨床研究をコンパクトにまとめたものです。
対象者は私が勤務する病院の146人のがん患者さん。このなかには、手術などで寛解した患者さんも含まれています。
患者さんの平均年齢は69・9歳。大腸がんをはじめとする6種類のがんについて、「血中25-OHビタミンD」濃度を調べました。
血中ビタミンD濃度の正常範囲は、30~100/ml(ナノグラム・パー・ミリリットル。1ナノグラム=10億分の1グラム)、それ未満が「不足」と見なされ、20/ml未満になると「欠乏症」と診断されます(以下、血中ビタミンD濃度について特に説明のない場合は、「25-OHビタミンD」を指す)。
以上のことを前提として、もう一度図表1に目を移してください。結果が驚くようなものであることは一目瞭然でしょう。
全体の90%以上に当たる132人もの患者さんにビタミンDの欠乏症が見られたのです。血中ビタミンD濃度の平均値も、わずか14・1/ml。
なかでも胃がんやすい臓がんの患者さんは、ほぼ全員が欠乏症です。平均濃度は胃がんが11・9/ml。すい臓がんは13・2/mlと、全体の平均濃度をさらに下回っていました。
この2つのがん種の血中ビタミンD濃度が特に低いのは、いずれの臓器も消化機能を司っており、したがってビタミンDの吸収に影響を与えていることが考えられます。
その証拠として、消化器系ではない乳がんと脳腫瘍の患者さんは、低値ではあるものの、いずれも平均血中濃度は21/mlと、辛うじて欠乏症を免れているのがわかります。
しかし、いずれも血中ビタミンD濃度が不足していることに変わりはなく、がん患者さんのほとんどが、ビタミンDの欠乏症であることが、この測定結果から明らかになったのです。
この事実を踏まえた上で、次に私が検討したのが、術後にがんが再発した患者さんと、再発していない患者さんでは、血中ビタミンD濃度が、どれほど違うのかということでした。
検討対象としたのは、患者数が多く、全員が手術を経験した大腸がんと胃がんの患者さんです。
ビタミンDはビタミンAとの相乗効果で、免疫機能を調整したり、がん細胞をアポトーシス(細胞死)に誘導したりする働きを持っています。
このことから当初の私は、再発群は血中ビタミンD濃度が低く、無再発群はその濃度が、ある程度一定に保たれているのではないかと予想していました。
ところが、意外な結果が待ち受けていたのです。
図表2にあるように、血中ビタミンD濃度の測定に協力してくれた大腸がんの患者さんは93人。そのうちの23人が再発群で、平均血中濃度は16・8/mlと完全な欠乏症でした。
残りの70人は無再発群ですが、私の予想に反して、平均血中濃度が15・2/mlと、むしろ再発群よりもビタミンDが欠乏していたのです。
また、胃がんの患者さんに関しては、29人中、再発群が8人で、その平均血中濃度は11・4/ml。残りの無再発群21人の平均血中濃度は12・1/mlでした。
以上のことから、大腸がん、胃がんに限って言えば、再発群と無再発群では、ビタミンDの血中濃度に、統計的に有意な差がないことがわかりました。再発していない患者さんといえども、欠乏症を脱していなかったのです。
つまり、がん患者さんの場合、寛解後もがん体質は変わらず、がんの芽が依然として体内に潜んでいることが、私の研究から浮き彫りにされてきたのです。
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