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ライフハック交差点

第3回「情報ダイエット」シンプル・ライフを

簡単な計算をしてみましょう。毎日、あなたは何分間テレビを見ていますか? 新聞、ラジオはどうでしょう? インターネットでもニュースを読んだり、RSSを追ったり、お気に入りのSNSで友人の日記を読んで、面白い動画があるというのでYouTubeに行ってみたりすることも多いと思います。この全てに、トータルでどのくらい時間を使っているでしょうか?

今は膨大な情報が私たちの注意を引こうとやっきになっている時代です。仕事は忙しいですし、それでなくても自由時間は少ないというのに、新しいドラマは見たいですし、やりかけのゲームもクリアしたい、でも人並みに読書もしたいし、音楽も聴きたいし、メタボリックが気になるから運動もしたいと思うわけです。

しかし、どんなに効率的なツールを使っても、全ての情報を摂取し、全ての活動を行うには私たちの生活には時間が足りなすぎます。何かをあきらめるべき時が来ているのです。でも、何をあきらめればいいのでしょう?

情報ダイエットの登場

最近「The 4-Hour Workweek」という本で一躍有名になったTim Ferrisが一日でメール地獄から解放される方法という記事を公開して、アメリカのライフハック系ブログに賛同と反発がわき起こりました。

要約すると、この方法は次の2点を徹底することにかかっています。

  1. 1日に2回しかメールをチェックしない
  2. 自分がこの習慣を実践していることを周囲の人にも徹底して教えこむことと、⁠了解しました」⁠ありがとう」だけのメールは互いに送信しないという、周囲の人と約束を取り付ける

前半は「情報の食事制限」とでもいうもので、1日に何回にもわけてメールを読むよりも、昼と夕方の2回だけに制限して集中してメールの処理をすることで、メールに費やす総時間を減らすという手法です。メールソフトをそれ以外の時間には起動しない、メールを自動的に受信して通知することなどもしないという制限も自らに課します。

物議をかもしたのは後半で、周囲の人との間に「自分はメールを1日2回しか読まないから、緊急の場合は電話してください⁠⁠、⁠逆にいうと、緊急でないなら電話はしないでください⁠⁠、⁠無駄なメールを送るのもやめてください」といったルールを形成するステップです。ダイエットや禁煙でいう、⁠周囲の協力」に近いものです。

Tim Ferrisは著書の中でこのほかにも様々な情報ダイエットを提案していますが、そのほとんどがこの二つの考え方に根ざしています。たとえば、テレビをそもそも見ないこと、ニュースも新聞も読まないこと、SNSやTwitterに誘われても断り、Skypeでチャットをする場合はまずメールか電話でアポイントを取ってから、などといったことです。

テレビを見ないでどうして世の中についていけるのかと言われそうですが、人によっては、たとえばニュースはGoogle Newsの必要なカテゴリだけを時間制限付きで閲覧するだけで十分といった場合もあります。肝心なのは、情報をシャットアウトすることではなくて、自分にとって不必要な情報をそぎ落とすことで「情報肥満」の状態から脱却して、満足の得られるバランスを作り上げるという点です。

また、周囲の協力を戦略的に取り付けてゆくのも情報ダイエットの特徴です。

私の知っている方に携帯電話の電源を常に切っている人がいますが、自分が電話をするときだけ電源を入れるので、その人が周囲に緊急の連絡をすることは可能でも、周囲の人が彼に連絡をすることはできません。周囲の人も最初は不便に思っていましたが、そのうち慣れてきて、この人に用事がある場合はメールが最も早いという風に落ち着きました。

職場の環境によって可能・不可能なことがあるとは思いますが、電話、メール、携帯、Skypeの全回線から情報が流れ込んでくる飽和状態を見直して、どれとどれを消去しても問題がないかという新しい防衛ラインを作る作業だと考えてみてください。やってみると、案外周囲の了解が得られたりするものです。

情報ダイエットの実践

さて、情報ダイエットの基本が理解できたところで、どういった無駄な情報をそぎ落としていくことができるでしょうか? まずは周囲の人との軋轢(あつれき)がすくなそうな、テレビとインターネットを例に挙げて考えてみましょう。

テレビを制限する

テレビの平均視聴時間は日本人の平均で週に25時間にもなると言われています(NHK放送文化研究所まとめ⁠⁠。⁠ながら見」はその1/3ほどと言われていますので、その分を除いたとしても、思い切ってテレビを捨てるだけで自動的に16時間ほどの自由時間が追加される計算になります。週が7日間ではなく、8日間になる効果があるといってもいいでしょう。

ここまで極端ではなくても、テレビの視聴の仕方を見直すだけで、大きな情報ダイエットの効果が期待できます。まずは自分が週に何時間テレビをみているのかを正確に測ってみて、どの部分を減らしても満足度が変わらないか考えてみる、いわば「テレビ視聴時間ハッキング」が最初の一歩になります。

インターネットを制限する

だらだらとネットサーフィンをするのは楽しいものですが、1時間ウェブを見るのと2時間見るのとで、2時間の方が倍楽しいとはあまり言えないはずです。

ここは一つハッカーらしく、あえて時間制限を加え、その制限の中で面白い記事だけに目を通せるようにするための工夫をこらしてみます。RSSを最適化したり、はてなブックマークdel.icio.usのようなソーシャル・ブックマークの集合知を利用して、自分に興味のある記事だけを読めるようにライブブックマークを作成するといった方法が考えられます。ようするに、自分に興味のある話題(シグナル)とそうでないもの(ノイズ)の S/N比を向上して、自分にとっての定番の情報収集の方法を決めてゆく作業です。

テレビやインターネットの制限は自分だけで主体的に実現可能な情報ダイエットですが、これに無駄の多いメールや電話のやりとり、内容の少ない携帯メールの送受信などといった他人とのやりとりにまで広げてゆくところに挑戦があります。目的は満足度を下げずに時間を解放することですから、⁠もう電話しないでくれ!(ガチャ⁠⁠」といきなり交信を断つよりは、相手とゆっくりと新しいルール作りをしてゆくつもりで行ったほうが良いでしょう。

情報ダイエットを進めるときのポイントは、⁠計測」です。自分がどのような活動にどのくらいの時間を割いているのかを正確に計測して、偏っていないかを吟味してゆきます。

目標としては一日1時間の情報ダイエットが目安になると思います。一年間365日の毎日から1時間をダイエットできるなら、解放される時間は365時間。単純計算で、なんと週休2日8時間労働の職場の2ヶ月分の勤務に相当する時間を解放することができるのです。

本当に大事なことのために時間を空ける

しかしこうして時間を空けてみても、何も考えずにいると次第にその時間は無駄な情報摂取で埋められてしまいます。時間は空のままではいられません。何か自分にとって大事なことで埋めてゆくことが次の大事なステップです。

解放された時間を何で埋めるのかは一人一人の価値観が大きくかかわるところだと思いますが、おすすめなのが「時間のかかる趣味」「人との会話」です。

「時間のかかる趣味」というのは、言語の習得や、訓練が必要なスポーツ、長い時間をかけて制作するものなどです。これらは全て節約した時間が形となって残るものですので、解放した時間の価値が積み上がってさらに大きな満足を呼び寄せてくれます。

「人との会話」は携帯やメールではなく、肉声での会話のことです。これも解放された時間の使い方としては最適です。一見、時間がまた宙に消えてゆくようにもみえますが、人間関係を維持するのは長期的にみて最も大事な時間投資の一つです。節約した一時間で交わした会話が、後の人生全体に波及するような無限の効果をもつことだってあり得ます。

こうした「情報ダイエット」の考え方がアメリカのライフハック界で大きな反響を呼んだのは、⁠能率的に仕事量を増やそう」というライフハックの当初の考え方に反しているように見えながら、実は「人生そのものをハックして幸せになろう」という最も大事な点を貫いていたからだと思います。

「忙しい」⁠最近ばたばたしていて」といつも言っている人生か、それとも「ちょっと時間ができたんだ」と口にできる人生を選ぶのか。

あなたは、どちらを選びますか?

さて次回は、今回紹介したThe 4-Hour Workweekなどを含む、ライフハック界での新しい流れについてご紹介します。

Happy Lifehacking!

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