現場主義ルポライター・村田らむが観た“不食スリラー”『クラブゼロ』「自分は賢いと思っている人がカルトにハマりやすい」
とある名門校を舞台に、謎めいた栄養学の教師ノヴァク(ミア・ワシコウスカ)が、“意識的な食事(=食べないこと)”という恐ろしい健康法を説き、様々な目的を持った生徒たちがそれぞれの信念に従って教師が唱える食事法に心酔しやがて破滅へと向かっていくさまを描いた、イニシエーション・スリラー『クラブゼロ』が公開中です。
異変に気づいた親たちの言うことにも聞く耳を持たず、ノヴァク先生の教えだけが正しいと信じ込み洗脳されていくさまが描かれる『クラブゼロ』。数々の宗教団体や自己啓発セミナー等に潜入経験のあるルポライターの村田らむさんに本作の魅力や、洗脳にまつわるお話を伺いました。
――まずは本作をご覧になった感想を教えてください。
本当に何にも情報入れずに見たので、最初はドキュメンタリーなのかな?と思うほどのリアリティがある作品だなと思いました。ノヴァク先生以外の登場人物たちが俳優ぽくなくて、ピアノが下手な感じも妙にリアル(笑)。不気味な雰囲気も良かったですし、洗脳の様子も上手に描かれているなと思いました。
――これまで様々な宗教団体や自己啓発セミナーの実態を見てきたらむさんから見てもリアルな部分が多かったのですね。
カルト宗教というより動物愛護団体とかを想起しましたけどね。今、宗教ってちょっと人気ないんですよ。日本でもカリスマ教祖の死によって求心力が減っていることもありますし、「神様を信じる」という行為に人気が無い。カルト宗教=神様を猛進している人たちというイメージがありますけれど、今は「安全そう」な団体に罠がある。宗教のシステムは現役で生きていて、古いところで言うと共産主義者ですよね。共産党は神様のない宗教の元祖で、実は神様がいなくてもシステムだけでも人は動くんだということは分かってしまった。その流れの中で、動物愛護団体だったり、過激なヴィーガン団体が今一番宗教的だなと僕は感じています。
――本作ではティーンが餌食になってしまいますよね。
そうそう、学生をテーマに描いた所が良いなと多いました。これは誰しもがそうですが、若い頃って圧倒的に経験不足なので、経験不足の人は、自分の頭をガツンと叩かれるようなことがあると信じちゃうんですよ。高校生にも限らず、オウム真理教も大学で勧誘活動を行っていましたし、僕が中学生の時とかは信じられないけれど、メディアに麻原彰晃が出て人気もあったわけですから。
みんな、神様を信じることは少なくなったけれど、占いは信じていたり、陰謀論、第六感、なんかは信じている人が多いじゃないですか。だから『クラブゼロ』みたいな状況もあり得るなと思いました。
――『クラブゼロ』のような“食事をとらない”という提唱も、めちゃくちゃなんですけど「身体に良いんだ」とか「環境に良いんだ」と信じてしまう人がいそうな怖さがありますよね…。
実際に“不食”って一部では流行っていて、人間って水を飲んでいればなかなか死なないし、塩とビタミンがあればさらに死なないから「ほら、食べなくても大丈夫でしょ」って理論を見せやすい。ノヴァク先生は極端なことを言っていますけれど、日本のテレビでも同じ様なこと言っているじゃないですか。酒飲むなとかタバコ吸うなとか塩分・糖分とりすぎるなとかね。そうやって健康に関する情報が頭に入っていればいるほど、「そうか食べなくていいのか」と思う人が何万人に1人でもいるかもしれない。カルトってその確率で人が引っ掛かれば良いわけです。
「100歳まで生きよう」とか言っているのって、僕からするとカルト的なんですが、ちょっと行き過ぎただけでカルトになるんですよね。SDGsが流行っていますけれど、本来の意味では良い考え方なのですが、新興宗教も、怪しげな団体も、みんなSDGsを利用するんですよね。自分のことだけを考えているのではなく、周りや地球のためにも良いのだという考え方をする人がハマりやすい怖さがあるのかなと。
――恐ろしいですね。その他らむさんがご覧になって「この表現良くできているな」と思ったシーンや演出はありますか?
生徒の中に、最初反抗的な男の子(ベン)がいたじゃないですか。僕がカルト団体を取材していても、ああいうタイプはハマりやすいですね。入り口が懐疑的だった方がハマる。最近は行っていないですけれど、よく宗教団体やカルト団体に潜入取材をしていた時に「らむさんの真似をして、僕も潜入してきます!」とか手紙やDMをいただくことがありました。そういう人が、本当に信者になっちゃうことってありましたね。
「自分は賢い」と思っている人がハマりやすくて、「悪い組織の闇を暴こう」とか「バカにしてやろう」と思って行ってみたらまんまと取り込まれてしまう。団体のトップって高学歴だったり賢い人が多いので、議論したら負けるんですよ。自分は賢いと思っていた人が論破されたら一気に信じて出られなくなるっていうね。よくあります。
――映画の中でもまさにそういった現象が起きていましたものね。
あと、2人の生徒が抜けるタイミングがあって、ああいうことがあるとさらに結束が固まるんですよね。残っている生徒は当然抜けた人の悪口を言うわけです。「真実にたどり着けない人たちだ」「愚か者だ」って。そこからするともう勝ち残りゲームですから。
宗教もマルチビジネスも、昔からの知り合いを勧誘して断られて、孤独になっていく。『クラブゼロ』でも、あの子たちって学校で多分浮いていると思うんですよ。食べないし。孤独になるのって結構怖いことだし、ティーンにとっては特にそれが大きいので一人になりたくないからあのグループも抜けられない。監視し合いという関係が出来ているので、もちろん先生が引き金だけど、実は生徒たち1人1人も加害者だという。
――おっしゃるとおり、ノヴァク先生の目的が最後までよく分からないところが不気味でしたし、そこも個人的に好きでした。
あの先生もはめられた側である可能性はありますよね。彼女が自分の利益や立場を得ようとしているとはとても見えないし、本気で信じているからこそ生徒たちの心に響いてしまったかもしれない…。新興宗教にいる人は大体みんな良い人で優しくて親切で、他人の気持ちが分かる様な人なんですよね。本気で“世界が良くなってほしい”と思っているような人が、実は一番ヤバいことをしでかすというのが、カルトのヤバいところだと思います。ぜひこの映画をみなさんの反面教師にしてください。
――今日は大変貴重なお話をありがとうございました!
◆村田らむさん
https://twitter.com/rumrumrumrum [リンク]
1972年生まれ。名古屋出身。ホームレス、ゴミ屋敷、青木ヶ原樹海、スラム、廃墟などアングラでニッチなネタが得意。ウロウロといろいろな場所を歩き回って、コツコツと記事を作るのが好き。『人怖』『樹海怪談』『ホームレス消滅 』『ゴミ屋敷奮闘記』『「非会社員」の知られざる稼ぎ方』『にっぽんダークサイド見聞録』など著書多数。最近ではYouTubeチャンネル『リアル現場主義!!』でいろいろ配信中。
撮影:オサダコウジ
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