津田健次郎から「困難に直面しているあなた」に送るメッセージ/映画『クレイヴン・ザ・ハンター』インタビュー
『ヴェノム』シリーズのソニー・ピクチャーズが放つ、マーベル最新作『クレイヴン・ザ・ハンター』が12月13日(金)日米同時公開となります。
原作のマーベルコミックでクレイヴンはスパイダーマンの宿敵として描かれ、ヴェノムにも匹敵する強さを誇るヴィラン。引き締まった強靭な肉体に野獣のようなパワーとスピード、研ぎ澄まされた五感で戦う、マーベル史上最もバイオレンスなヴィランの誕生譚として描かれています。
クレイヴンを演じるのはアーロン・テイラー= ジョンソン。その日本語版吹き替えを行う津田健次郎さんに本作の魅力、そして一歩踏み込んで「生き方」までを伺ってみました。
大人向けな「苦み」が走る、重厚感のあるドラマを感じてほしい
──今回の作品のテーマの一つに「野生」があると思うんですけど、津田さんご自身が都会で暮らしている中で、野生を意識することはありますか?
津田健次郎さん:都会にいて、現代社会を生きてると、野生が足りない感じがしますよね。
──足りないときに何かしていらっしゃいますか?
津田:あんまりそこを意識して生きてないですけど、……飯をよく食うとか、そういうことですかね。(笑)
──今回、主演のアーロン・テイラー=ジョンソンさんをご担当されました。
津田:アーロン・テイラー=ジョンソンさんは、『ブレット・トレイン』とか『フォールガイ』で、これまで2回やらせていただいてるんですけど、前2作とは違う感じでやろうと思っていました。テスト収録をしたあと、監督からも「ちょっと若くいきましょう」とリクエストがありましたので、そこに加えてドスも効かした感じでやらせてもらいました。特にオープニングのシーンですね。
──津田さんから見てアーロン・テイラー=ジョンソンさんってどういう俳優さんというイメージですか?
津田:ムキムキの、割とワイルドな雰囲気をまとった人なんですが、 でも綺麗な印象もあって、 プラスちょっとキュートな部分もありますね。今回の映画でも、やっぱりキュートな部分を演じてたりするので。
──予告編を観るとアクションばかりなのかな、と思ってたんですが、実際には人間関係のドラマもかなり見ごたえがあります。
津田:かなりドラマ性を重視してる感じしますね。父親との確執、弟との関係性、三人のシーン、いずれも家族のドラマとしても非常に楽しめるところがあります。あまり言えないんですが、作品終盤のやりとりにも注目してほしいところです。
アクションシーンの過激さゆえ、R指定が付くんだとは思うんですけれども、ドラマの部分もかなり大人向けな「苦み」が走る、重厚感のあるドラマだな、という感じです。
──会話劇の良さという観点から、津田さんらしさを出されたおすすめの場面はどこでしょうか。
津田:特に父親とのやり取りですかね……。弟とのやり取りについては、すごく仲が良くてちょっとふざけ合っているけど、後半の方はいろいろな出来事も重なり、戸惑いを感じるような印象に変わってくる。受け入れの芝居と言いますか、リアクションの方を重視しています。
──会話劇の一方で、アクションシーンでのリアルさ、ケモノ感もすごかったです。
津田:肉体状態でどういう風にその声を出しているか、というところに寄り添う感じで演じました。
──実際にそのポージングをしたりするんですか?
津田:いえ、実際にやるとマイクから外れちゃうんで、それに近い体の内側の筋肉を使うイメージです。どこに力が入っているのか、って。ただ、展開がめちゃくちゃ早いので、そのスピードに追い付きながら、という感じでした。
ヴィランでありながらも持っている「明るさ」
──津田さんはアメコミのヒーローとしては『ブラックパンサー』のキルモンガーも演じられていました。今回ヴィランであるクレイヴンと比較して、キャラの違いは大きいと感じましたか?
津田:全然違うなと思います。キルモンガーは品格があったんですが、クレイヴンは本当に“野良”って感じです。(笑) ちっちゃい頃からなんかめちゃくちゃ。それこそライオンが子どもを崖に突き落とすような育てられ方をしているのがいいですよね。死んだら死んだでしょうがねえ、っていう感じ。ワイルドさは強い気がします。
──悪役を演じるときに気をつけられているところってありますか?
津田:ヒーロー側、正義側って 言っちゃいけないことが多いという意味で制限が多いんですね。ヴィランはそういう意味での自由度は高いですよね。ただ、ダークなものが持つトーン、音楽で言うとメジャーではなくマイナーな方の音が出ている感じです。
──セルゲイはそういうマイナーな波長を出していつつも、 あまりヴィランっぽくない印象もあります。
津田:やってることは派手ですよね。ちょっとユーモラスな雰囲気というか明るさがあるんだよな、とは思いました。
──セルゲイのもつ明るさと津田さんの中の明るさで同調する部分はありましたか?
津田:映画を観進めていくと割と重いドラマとか、激しめの暴力シーンとかあるんですが、弟とキャッキャしているところっていうのはなんか非常にほほえましいんですよね。若い兄弟が戯れてて、めちゃくちゃ仲良くて。最初は、そういう感じが出ない人なのかなって思ってたんですが、すごく普通の明るいお兄ちゃんなんだ、っていうのが意外で。なんかいいシーンだな、と思ってました。
──そんな彼が、絶対許せないものに対して猛然と向かっていきます。津田さんが個人的に許せないことってありますか? これやったらボーガンで撃つぞ!っていう。
津田:いや、僕は撃たないですけど(笑)、なんでしょうね……列への割込みとかダメじゃん!みたいな。ゴミはちゃんとゴミ箱に捨てましょうよ、みたいなとこですかね。……そういうことでいいんですか?(笑)
──いや、もう、良くないことって、すごくそういうことだと思います。(笑)
津田:はい。(笑)
困難に直面しているあなたへ
──今回の作品では、別のキーワードとして「能力」という言葉も挙げられると思います。作中の登場人物に限らず、誰でも得意・不得意があって、いろんなフィールドで生きています。津田さんが若い世代の人たちに対しては、どんな「能力」を身に付けてほしいと願いますか?
津田:そうですね……とても夢が見にくい世の中になってしまいましたし、混沌が深まり、大国の思惑だけで破壊が止まる気配もない。大金持ちは大金持ちになり続けてるけど、貧しい人たちに何かする気配もなく、希望を持ちにくい世の中です。けれども、それでもね、明るく生き抜く能力をもってくれるといいな、と思いますね。
暗くなろうと思えばいくらでも暗くなれる世界なので。だからこそ、明るく楽しく、そして生き抜く力を身に付けていただけるといいなと思ってます。
──「生きる力」も先の「能力」と同じく、いろいろありますね。
津田:そうですね。
──今回セルゲイは自分の生きる力を駆使して自分の状況を切り拓いていったキャラクターでした。困難に立ち向かっている人たちは現実にもたくさんいると思いますが、実際に今、困難に直面している人に対して、津田さんがかけてあげられる言葉などがあったらお願いしたいです。
津田:みなさん様々な大きさの困難に直面されていらっしゃるかと思います。僕もこの先どんな困難に遭うかわからないです。ただ、なんかこう、後で考えれば小さなことだったりするのかもしれないし。だから、無理やりにでも少し視野が広げられるといいですね。視野が狭まると、さらに自分を追い込んでしまったりする。
──そういうときってだいたい、視野がキュッと狭まってますよね。思い返すと。
津田:でももし視野が広がるともしかしたら楽になるかもしれないし、突破口が見つかるかもしれない。例えば視点を変えるとか、今の自分を客観的に観たらどうだろうねとか。そんな風にして視点を変えられると良いなとは思いますね。
──津田さんが若い時、しんどかった時なんかはどうしていましたか?
津田:一番大きかったのは、開き直りですかね。最終的に開き直れると、すごく強いなとは感じます。
──それも視野を広げるってことの1つの方法ですもんね。
津田:遅かれ早かれ人間、いつかは死んでしまうので。いろんな信条、いろんな死生観をみなさん持っているとは思いますが、基本的に生きることは一回だ、と考えたときに「やれるだけやっておく」っていうのはいかがでしょうか、と。
とりあえず、今できることっていうのが他にもあるかもしれない。それにチャレンジ出来たら、……もしかしたら楽しいかもしれないです。わからないですけどね(笑)
──ちょっと困っている人の頭の隅に、津田さんの言葉が引っかかったらいいな、と思います。今日はありがとうございました!
津田:ありがとうございました。
『クレイヴン・ザ・ハンター』
原題:Kraven The Hunter
12月13日(金)日米同時公開
監督:J・C・チャンダー(『トリプル・フロンティア』『マージン・コール』)
・脚本:アート・マーカム&マット・ホロウェイ(『アンチャーテッド』『アイアンマン』)、リチャード・ウェンク(『イコライザー』シリーズ)
・出演:アーロン・テイラー=ジョンソン(『アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン』『ブレット・トレイン』)、アリアナ・デボーズ(『ウエスト・サイド・ストーリー』)、フレッド・ヘッキンジャー(『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』)、アレッサンドロ・ニヴォラ(『アメリカン・ドリーマー 理想の代償』)、クリストファー・アボット(『哀れなるものたち』)、ラッセル・クロウ(『ソー:ラブ&サンダー』『ヴァチカンのエクソシスト』)
2024年/アメリカ映画/2時間7分/レーティング:R15+(15歳以上の方がご覧になれます)
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(撮影:オサダコウジ)
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