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2012.01.08

総合誌が軒並み不振の時代に高級誌「ニューヨーカー」はなぜ100万部の部数を誇れるのか

茂木 崇 プロフィール

 レムニックに特にお気に入りの作品はと聞くと、『ねじまき鳥クロニクル』(第1-3部、新潮社、1994-1995年)と答えた。こんな理由からである。

 「私はこの作品を読み、魔法のような(magical)作品だと思った。これまでに読んだどんな作品とも違う。村上は真に独創的な表現スタイルの持ち主だ。私は彼の全作品を読んでいるわけではない。『ノルウェイの森』(上・下、講談社、1987年)も好きだが、こちらは『ねじまき鳥クロニクル』と比べると並みのレベルの作品だ。『海辺のカフカ』(上・下、新潮社、2002年)も好きだ。ただ、英語で読んでいるので、多分読み落としている部分もたくさんあるだろう」

ブログ、ビデオなど多彩なデジタル戦略

 「ニューヨーカー」のデジタル戦略はどうなっているだろうか。

 同誌のサイト(http://www.newyorker.com)は、誌面に掲載された記事に加え、ウェブ・オンリーのブログ、オーディオ、ビデオなど盛りだくさんである。

 ただし、サイト上で誌面の全ての記事を無料で公開することは避けてきた。全ての記事を読めるのは定期購読者のみである。レムニックは、取材と執筆には多額のコストがかかるので記事を無料で公開することはできず、「情報は自由を求めている」という考え方は誤りだと考えている。今後、同誌のiPad版の普及により、課金がさらに定着することを望んでいる。

 また、オンライン上では長い記事は読まれないというのは俗説で、同誌のサイトでは長文記事もよく読まれているという。

 そして、デジタル革命は道半ばで、柔軟さをもち、誤った判断をしたら直ちに正していかなければならないが、最も重要なのは読者に必要とされる優れた記事を生み出していることだと語る。

 一方で、プリント版がなくなることはないと考えているという。

「海外でも多く読まれるよう努力していきたい」

 「ニューヨーカー」はニューヨークで編集され発行されているが、記事のテーマはニューヨークに絞られておらず、世界中の森羅万象を扱う。レムニックに最後の質問として、「ニューヨーカー」をニューヨークのインスティトゥーションと考えるか、それとも国際的なインスティトゥーションと考えるかと聞いてみた。

 海外にも読者がいるという点では「ことばのインスティトゥーション」と言えると思うが、海外では名声が広まっている割には読まれておらず、「アメリカの産物」というべきであろう。だが、デジタル技術の普及で世界中の読者に記事を届けやすくなっているので、海外でもより多く読まれるよう努力していきたいというのがレムニックの答えだった。

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