取材・文/山口義正(経済ジャーナリスト)
精密機器メーカーのオリンパスが不透明な資金支出の疑惑に揺れている。2008年に実施した無謀なM&A(企業の買収・合併)で経営トップに特別背任の疑いが浮上し、国境をまたいだ経済事件へと発展しそうな気配だ。闇の勢力へ巨額の資金が流れた可能性もある。にもかかわらず、オリンパスではそうした疑惑をきちんと説明していないばかりか、解任したマイケル・ウッドフォード前社長が英フィナンシャルタイムズのインタビューで疑惑を告発したことに対し、機密漏えいで訴えると息巻いている。騒ぎは日本を飛び越えて、欧米でも広がっている。
一連の騒動のきっかけは、筆者が月刊誌『FACTA』8月号で書いた「オリンパス 『無謀M&A』巨額損失の怪」だった。今年4月に就任したばかりのウッドフォード前社長が、これらの記事を読んで、「怖くなった」と述懐したほど驚愕の内容で満ちていた。
精密機械メーカーと言えば、キヤノンやニコンなど、洗練された優良企業というイメージが強い。それはオリンパスも同じだろう。医療用内視鏡の世界シェアトップであり、知らない人がいないほど有名なカメラメーカーでもあるからだ。
しかしその内部ではそうしたクリーンなイメージとはかけ離れた、決して外部に明かすことのできない事態が進行し、会社を蝕んでいたのだ。そして問題視されているM&Aは、これを暴いた筆者にウッドフォード氏が人を介して「身の安全にはくれぐれも気をつけた方がいい」と気遣ってくれたほど、深い闇の中にある。
売上高2億円がわずか5年で200億円になるという杜撰な試算
ここでオリンパス“事件”について、改めて説明しよう。筆者がFACTA8月号に書いた記事ではオリンパスが、①2008年3月期にほとんど価値がない零細企業を3社まとめて約700億円で買収し、わずか1年後に買収額のほぼ全額を損失処理した、②そうした買収が行われたことも、それによって発生した巨額損失の詳細もほとんど投資家に開示されていない、③英医療機器メーカーのジャイラス社を買収したときに法外な手数料が優先株を買い取る形でファイナンシャル・アドバイザーに支払われた――などを指摘した。
上で指摘した零細企業とは、産業廃棄物処理のアルティス(東京都港区)、電子レンジ容器を企画・販売するNEWS CHEF(同)、化粧品や健康食品を通信販売するヒューマラボ(同)の3社だ。
筆者が入手した内部資料によれば、いずれも設立後わずか2~3年での零細企業を、買収後わずか4~5年で売上高が数十倍から200倍近い急成長を遂げることを前提に、極めて高額で買い取っていた。年間売上高が2億円足らずの会社が、わずか5年で200億円以上に成長するなど、常識的に考えてあり得まい。
現実性の乏しい成長を前提として、ほとんど価値のない会社を3社まとめて、およそ700億円で買収するなど、意図的に大損するためにやっているようなものだろう。株主価値を毀損してしまう蛮行と言っていい。収益源の多角化でも純粋な投資でもない、何かどす黒い目的を持った金融取引ではないのか。