「よくわからない解雇理由」で社員を解雇したブラック企業に対して「裁判官が放った第一声」
会社が社員を解雇するには相応の理由が必要だ。ではでっちあげで解雇したらどうなるのか? 裁判所は静寂に包まれた――
長年、悪徳企業・経営者との闘いを繰り広げてきたブラック企業被害対策弁護団の新刊『ブラック企業戦記 トンデモ経営者・上司との争い方と解決法』(角川新書)より紹介する。
素でとぼけてきた相手方弁護士
労働事件をやっていると、「素直に認めればいいのに……」と思うような使用者側の無茶な抵抗に遭遇することが多々ある。私が見た無茶な抵抗のいくつかをご紹介する。
これはとある会社に対する残業代請求事件(第四章の1でも紹介した事件)。残業代について、会社は残業代算定の基礎となる賃金を一方的に1時間1000円と定め、残業代を支払っていた。依頼人の基礎賃金を正しく計算すると1000円よりはるかに高いので、相当額の残業代の未払いが発生していた。
証拠はかっちり固まっているので、会社側が争う余地はまったくない。この場合に会社が取るべきもっとも賢明な手段は「さっさと払う」ということである。なぜなら、退職者に対して未払いの賃金がある場合、全額支払うまで年14.6%という高い利率の遅延損害金がつくからである。依頼人は退職済みであった。
さらに、こじれて訴訟にまで発展した場合、付加金というのを支払わされることもある。付加金というのは罰金のようなもので、最大で未払残業代と同じ額を支払わされる。つまり、無駄な抵抗を続ければ続けるほど支払うお金が増えていくということになる。
私が残業代の計算書を送って支払いを求めたところ、向こうも計算書を出してきた。しかし、私の計算と金額が合わない。おかしい。
よく見ると、法定休日割増しと、週40時間以上部分の割増しが含まれていない。その点を相手方弁護士(おそらく顧問弁護士)に説明したところ、
「先生、この会社にはね、法定休日が無いんですよ!だから休日割増しはありません!」
そう言うのである。日本の法律が適用されないという主張なのだから、治外法権の抗弁とでも名付ければ適当であろうか。
「いやいや、労働基準法で決まっているんですから、適用されないなんてあり得ないんですよ」
私がそう伝えたところ、理解していただいた。
弁護士でもこのように誤った知識を持っている場合が往々にしてあるので、油断してはならない。特に会社側の代理人は、わざといい加減なことをいう者もいるので要注意である。
結局、おおよそこっちの請求額に近いかたちで和解が成立し、素直に支払ってきた。変な反論はしてきたものの、労働審判や訴訟になる前に支払ってきたので、その点では賢明な対応だったと思う。なぜなら、審判や訴訟になれば、さっき言った遅延損害金等に加え、弁護士費用もかさんでいくからである。